第3話 「ポーションのせいで日常が変わった!」
2話でエリが来る日の朝の話
「あー寝みぃ寝みぃ。こんな朝っぱらから開いたところでそんなに客来ねーだろ。日曜だし。」
愚痴を一人で言いつつ店のシャッターを開けた。
朝早く起きてしまうのが大学生時代からの癖でやる事がないので営業時間前から店を開いているのだ。
「あらー紗枝ちゃん、もう起きてたのね?」
「ああ、ママおはよう。」
さすがの紗枝でもママには色々な意味で逆らえないのだ。なので素直に挨拶をする。
紗枝は、店のカウンターのいつもの定位置に腰を下ろそうとしていた。
チリンチリン、チリンチリン
静かな家の中に電話の音が響いた。
台所で朝飯を作ろうとしていたママが反応した。
「ハイハーイ」
電話を相手に返事をした。
「もしもし?あ、はいそうですけどぉー。あっ、今いますよ。ちょっと待っててくださいね。」
受話器の下のところを押さえて,
「紗枝ちゃーん、勇者学校から電話がきましたよ?」
紗枝は、定位置から立ち上がり,
「んあ?まだ、朝っぱらじゃねーか。何の用だぁ?」
紗枝は日常モードからスイッチを切り替えて社会モードに入った。
「はいー。お電話変わりましたー。紗枝ですー。」
「ああ、あなたが紗枝さん。勇者学校の教頭のものですが。」
いかにも先生というようなハキハキとしたしゃべり方だった。
「実はうちの教員の一人が不祥事を起こしてしまい現在人手不足でありまして......」
一通り説明を聞いた。とりあえずこれから学校に来てほしいということだ。
「はい、わざわざ朝早くからお電話ありがとうございました。はい、はい、失礼しまーす。」
紗枝は受話器を置くや否や子供のように目を輝かせた。
「やったぜー。ママー!もしかしたら先生になれるかもしれねーぞ!」
電話で受けた説明をした。
「あらーよかったじゃない。去年も今年もダメだったと思ったけど、やっと先生になれたのねー。」
ママは紗枝よりも喜んでいる。
「とりあえず、急いで支度してくる!10時までには来いって!」
学校まではやや遠い。歩いていけば40分はかかるだろう。
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「ここが勇者学校かー。」
紗枝が高校時代の時はまだ校舎の建設中で、勇者学校の先生になりたいとは思っていたものの中に入るのは初めてだったのだ。
校舎は、まだ新しい木材とワックスの匂いだ。
紗枝は、靴を適当なロッカーに入れて持ってきたスリッパをはいた。
遠くから丸っとした中年の人が歩いてきた。おそらくさっきの電話の相手の教頭だろう。
「おはようございます。いきなり朝からお呼びしてすみません。職員室はこちらです。」
「おはようございます。よろしくお願いします。」
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この学校の職員室は二階にある。
職員室の掲示板にはたくさんの張り紙がしてあった。
職員室に入って教頭は自分の椅子に座り急に声の調子を変えた。
「ちょっと、言いにくいことがあるのですが......」
「は、はい!」
「紗枝さんは、調合科の先生希望でしたよね?」
「はい、そうですがー。」
「いやーほんとは貴方が希望した学科に先生としてやって欲しかったのですが、それが無理で.......」
「あなたにはメイキング科一年の担任の先生をやって頂きたい!」
「ええええええええ?」
「(メイキングなんてセンスねーし、無理だろ。)」
紗枝は驚きを隠せない。
「だって私、二年前に教育実習に来た以来、授業なんてやってませんし、調合科の勉強しかやってないです!」
教頭は、頭を掻きながら。
「いやー申し訳ない。教員採用の資料にあなたしかメイキングの講習を受けているものがいなくて。どうかお願いしますー。」
根が真面目な紗枝はついメイキングの講習を大学時代受けていたのだ。
断るわけにもいかないし、それに念願の先生だ。今の一年生を送り出したら調合科の先生になれるだろう。
「わ、わかりました。」
詳しく話を聞くと教頭と自分しかメイキング科の先生はいないらしい。
「(おじさんと二人きりかよ......ついてねーなこりゃ。)」
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紗枝と教頭はこの後校内を回ることにした。
勇者科、魔法科、調合科、メイキング科と四つも科があるため施設が広大である。
その代わりクラスは全学年一クラスずつと人数はそんなに多くもない。
すべてを見回ったところで教頭が
「いやいや、こんな丸い体系だと校内をすべて歩きまわるだけでも疲れますなぁ。」
自慢のお腹をさすってみせた。
「そろそろ、校長がダンジョンから戻ってくると思います。私たちも職員室に向かいますか。」
「はいそうですね。」
「(あー、もうどうしよ!やばいって。つい了承しちゃったけどさぁ!)」
紗枝は、この時不安な気持ちでいっぱいだった。
うまく授業ができるだろうか、担任としてきちんと働けるのか、いつもの素を出さないようにできるかなど。
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「とりあえず、校長が帰ってきたみたいだから挨拶に行ってきてください。」
教頭にそういわれ校長室をノックした。
「はいー!入ってどうぞー」
校長には手厚く歓迎された。
「急なことなのに朝早くから来てくれてたんだって?すまないねぇ。」
「いえ、大丈夫です。早起きが癖になっていますので。」
校長は、そんな紗枝の心理を見破ったらしく。
「そんなに緊張しなくてもいいんですよ。リラックス〜リラックス〜。」
たった三分ぐらいの挨拶だった。
校長も忙しかったのだろう。それにも関わらず笑顔で優しく接してくれた。
いかにも良い先生といったものだ。
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手にいっぱいの資料を持ち、教頭のところへ行った。
「校長先生にあいさつの方をしてきました。」
教頭は紗枝が手に持っている大量の資料をみてあることを思い出した。
「お疲れさん。あ、そうそう!まだ君の机を言っていなかったね。」
口元に手を当てこっちに耳を貸せと言わんばかりの表情を見せた。
小声で
「君にはいろいろと申し訳なかったから、今年新任のイケメン勇者先生のとなりの席を用意させてもらったから。」
教頭はニタついていた。
「あそこだよ。あそこ。さあ、挨拶してきなさい。」
正直隣の席がイケメンであってもそうでなくてもどうでもよかった。
「(別に興味ないしなぁ、それなりのあいさつでいいか。)」
その人は、日曜にもかかわらずパソコンの前に座りにらめっこしていた。
「あ、あのー。今日からお世話になります。中島紗枝と申します。よろしくお願いします!」
紗枝の方に振り向き
「あ、貴方が中島先生ですか!僕も今年からこの学校に勤めることになった中谷と申します。よろしくお願いします!」
彼は、満面の笑みで挨拶をした。
その表情に紗枝の乙女の歯車が動いてしまった。
「(えぇぇ、カッコイイ!)」
キュンキュン!
彼女の胸が鳴った。
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「(は、は、やばい。落ち着け紗枝。可憐な女を演じるんだ!)」
「中島先生は、どこの科の先生になったんですか?」
急な質問で驚きつつ
「は、は、はい。えーっと私は!メイキング科です。」
「あ、そうなんですか!教頭先生も確かメイキング科でしたね。私はこう見えて勇者科の先生なんですよ!」
「(確かに凄い筋肉!それに優しい!)」
「いやいや、さすが勇者科っていうぐらいの筋肉ですよ。」
「そんなことは、ないですよー。」
思わず照れている。
「えっとー紗枝先生はなんでメイキング科を選んだのですか?」
「えっ、あのー、実は私、家がポーション屋で調合科の先生になりたかったんです。」
中谷先生は、ポーション屋と聞いてパッと思い出した。
「ああー、もしかしてあそこの!」
「(えー!知ってるの?私の日常って知られてないわよね?)」
この街にポーション屋は紗枝の家しかないのだ。
「凄いお美しいお姉さんいますよね?中島先生のお姉さんですか?」
「(え?お姉さん?私が長女なんだけど.....)」
紗枝は頭の中を一回転させた。
「(それってママやないかーい。)」
紗枝は苦笑いしながら
「それってもしかしたらうちの母ですー。」
中谷先生は、驚いた顔を見せた。
「えーーーーーー、あの美しい方は中島先生のお母さん?それは驚いた!」
今まで大学を卒業してから引きこもり気味だった紗枝にとって異性と話すのは久しぶりだったし、人としゃべっていてこんなに楽しかったことはなかなかなかったのだった。
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ポーションの初作りで色々あった次の日。エリは、クラスの中で一番に学校に着いた。
昨日夕花にもらったポーションの作り方を全て載せた本を見るためだ。
回復ポーションだって15種類以上もある。
「ふえぇーこんなにあるのですね。覚えるのが大変なのですー。」
そんなところに、入学式の時に友達になった亜香里がやって来た。隣の席である。
「エリ、おっはー!」
「あ!亜香里ちゃん、おはようなのです!」
エリが分厚い本を読んでいるのに気づいて、興味シンシンに亜香里が近づいて来た。
「えー何これー?」
「バイト先のポーションの作り方の本なのですー!」
表紙のポーションの作り方!と書いてあるところを指差した。
「えー面白そう!ちょっと見せてー。」
エリは、はいと本を渡した。
「うーん....どれどれ。」
ふむふむと30分ぐらい読んでいた。
ペラペラッとめくっていくうちに亜香里が指を刺した
「あ! これってなに?」
[惚れ惚れポーション]
「亜香里ちゃんちょ、それはー........」
エリの表情が曇ったことに戸惑う。
「え?私何か不味いこと言っちゃった?」
エリは縦にウンウンっと首を振り何とか笑ってごまかした。
それより、エリには気になった事があった。
「そんな事より、今日は田中先生遅いのです。」
「あー確かに。優奈も来てないねー。」
優奈も、入学式で友達になった人だ。
「どうしたのでしょうか?」
その時、
「トントン」
ガラガラ
知らないメガネをかけた痩せ鉾けた先生が立っていた。
「えー、君たちにはお知らせがある。このプリントを各自家庭に持っていくように。」
配り始めたところからざわめきとどよめきが聞こえて来た。
「エリちゃん、どうしたんだろう?」
エリがそんなこと知らないと知っておいてわざわざ聞いた。
「そんなことわからないのです!」
ペラペラ
そこに書いてあったことは、驚くことだった。
[この度は本校の教員である山所浩二が男性生徒を地下に監禁し.............]
内容は山所先生が逮捕されたという内容だった。
「な、何で。。。。」
エリが思わず声に出して戸惑った。
山所先生は、生徒からも凄い人気で体格ががっちりしていることから山所先生が顧問の空手部を中心に「怪獣先輩」と言われていた。
「先生が逮捕されたのです。」
プリントがまだきてない亜香里にそうとだけ報告した。
「は?え?まじで?!」
山所先生が好きだった亜香里には到底信じがたい事だった。
「ほんとだーえぇぇぇ。」
そんな感情になっている亜香里の隣でエリは読み進めていた。
[メイキング科一年 担任 中島紗枝 新任]
「(紗枝?もしかして紗枝さんが担任???????????????????そもそも夕花ちゃん達って中島って苗字だったの?)」
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「どうもみなさんこんにちは中島紗枝と申します。よろしくお願いしますね。」
紗枝のあまりにもの美人さにクラスはザワザワしている。
っといってもこのクラスには女子しかいない。
「まずは何をしたらいいのやらー。とりあえず出席を取りますね。優奈さんは季節外れのインフルエンザXにかかってお休みらしいです。」
エリは思った。
「(紗枝さんってこんな人だったけぇ?)」
エリの想像する紗枝↓
「オラァ、出席とるぞゴラー。」
「インフルエンザ?バカじゃねーの?学校ぐらいこいよ!」
「(思ったのと違う!?)」
「えーっと、大石英梨さん?」
「大石さん?」
この時完全にエリは、紗枝の事を考えていた。
「は、はひぃ!」
「大石さんどうしたのですか?何回か呼んだのに返事しなくて?体調が悪いのですか?」
紗枝の事を考えていたとは言えない。
「あーいやー、ちょっと考え事をしてたのです。すみません。」
ぺこりと謝った。
「それなら良かったです。皆さんも調子が悪い時は構わずに言ってくださいね?」
エリで止まっていた出席確認が再びスタートした。
エリは、紗枝の普段とのギャップにかなり混乱をしてたのだ。
出席確認を言えると紗枝は、雑談をしてホームルームが終了した。
「大石さーん、ちょっとお話があるんで来てもらってもいいですか?」
「あ、はい!」
エリは一時間目の数学の準備をやめ、廊下にいる紗枝について行った。
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人気が少ない最上階である3階のパソコン室へと連れて来られた。
パチッ
入って早々鍵を閉められた。
「(これってマズイ???)」
エリがそう思った否や的中してしまった。
「おい!お前何で私のクラスにいるんだ?」
いつもの紗枝に戻った。
「ハヒィ!そんな事言われても私が紗枝さんを選んだ訳ではないのでぇぇ。」
ふーんという顔を紗枝はしてみせた。
「お前!口硬いか?」
「え?」
激しい口調で
「答えろや!」
「ハヒィ!硬いであります!」
「お前....日常の私を他の奴にバラしたらどうなるかわかってるよなぁー?」
「わかってるで、、、あるので...あります!」
「まあ、夕花の少なき友達ということもあって信用してやろうじゃねーか。頼むからなぁ!」
紗枝はそう言ってパソコン室の鍵を開けた。
「じゃあ、エリさん。一時間目に遅れないようにしてくださいね?」
紗枝の天と地のような接し方の違さにエリは、
「(こ・わ・い)」
足の震えが教室に帰るまでいや、帰ってもとまらなかった。
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「え、エリ?なんか痩せた!?」
亜香里がガクガクブルブルして顔が真っ青になっているエリを心配した。
エリは、さっきあったことを誤魔化すために
「外の案内をしてきたのですが寒かったのですぅ。」
「え?外?桜が咲くぐらい今日はポカポカしてるけど?」
「そんなことはないのです。寒かったのです。」
「熱でもあるんじゃなくて?」
亜香里はますます心配した。
「熱なんてないのです。大丈夫ですからー。」
バタッ
鼻が折れるんじゃないかという勢いで顔を机に打った。
「エリ?大丈夫?大丈夫かエリ?エリーーーーーーー!」
亜香里は叫んだ。
それを見ていたある勇敢な生徒が
「保健係の人いる?エリさんが倒れちゃったよ!」
「はい!私ですけどぉ?」
後ろの席の方から声が聞こえた。
「なんかエリさんが急に倒れた!もしかしたらインフルエンザXかも!?」
「早く保健室に行って担架持ってきて。」
保健係は、仕事を果たさなければと
「わかったわ!急いで持ってくるね!」
これから毎日こんな騒がしい日常を暮らして行かなくてはならないのだろうとエリは思った。
ツイッターのフォロワー増えねぇよぉ。
みんな頼むよー頼むよー。
最後まで読んで頂きありがとうございました!