第2話 「おいしいポーションの作り方!」
「ただいまなのです。お母さん。」
靴をささっと脱いで家の中へとエリは上がった。
「あら、思ったより早かったじゃない?バイトの面接どうだったの?」
「はい!見事に受かったのです!家族で店を営業しているですが、とてもいい家族でした!」
当日で受かってしまって内心不安なところもあった母だが、あんなに楽しそうな娘を見るのはなかなかないことなのだ。
「お父さんにも電話で報告しておくんだよ!」
遠くで働いてるお父さんに電話するのは楽しみだ!
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「ん、じゃぁーねーここで着替えてね。」
「ここには、ここを結んで、これはここに入れる。」
「エプロンはその上から着て?」
夕花が丁寧に着替え方を教えてくれた。
ポーション士の服というのは、万が一の時に備えて色々な工夫がされており魔力によってできている。
「どうでしょうか?」
念願のポーション士だ!!!!!
クルリと回って見せると
「よかったー。気に入ってもらって。似合ってるよ!」
「(フワフワしていてなんかいつもの服とは違う感じ!これが魔力で作られた服なんだ!)」
何度も、エリは回ってみせた。
ガチャ
「お姉ちゃん、エリさんもポーション工房の準備出来ました。」
利奈は、朝早くから起きて支度をしていたらしい。
「オッケーだよ。さあ、エリちゃん行こう!」
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「ここが工房です!」
明るく利奈は言ってみせた。誤魔化すように。
「・・・・・・・・・・・」
「(天井穴空いてるよー。)」
夕花にその心の声が聞こえたらしく。
「あ...は.....はは.....」
利奈にも言いたいことが察しついたらしく
「これこの前お姉ちゃんが爆破させちゃったんですよ。直すお金もないのに。」
やや皮肉り、エリを煽るように。
大釜や調合機のようなものは殆どが錆びていたり黒くなっていたりした。
壁には、緑だか青だか黄色だとかいろんな色が混じった塗料が付いていた。
「まあ、そんなことはさて置いて。早速ポーション作り行ってみyo!」
夕花が、話を無理矢理終わらせた。
「お姉ちゃんよっぽど凹んでたんですね。」
利奈がエリの耳元で囁いた。
「うん。これからはもうネタにするのを辞めてあげたいのです。」
頷いた。
「ちょっとぉーその二人何コソコソしてんのかなぁ!」
「さっぁー飛ばしていくぜー!」
彼女のかわいそうなほどのハイテンションに二人は
「「悲しい・・・・・」」
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「これは、昨日私達が深層まで掘って採ってきた。深層水です。」
利奈が言った。
「そりゃ、豊作で地上まで流されちゃったんだがら。」
自慢げに夕花が呟く。
シンクのような形状のものにタプタプに水が入っていて煮込まれていた。
グツグツグツグツ、水が鳴いている。
「エリさんここに手を突っ込んで見てください!」
「利奈ちゃんそんな事したら、手が火傷しちゃうのです。もう沸騰しちゃってるし。」
「まあまあ、大丈夫だから嘘付かれたと思って入れてみな?」
夕花にも背中を押された。
「んぅ・・・・・・。」
決心がついた。
「いくのです!」
チュパ!
「ふぇぇぇぇ!」
驚いた。初めての感覚だ!
全く熱くなく、トロトロしている。
「な、何コレェ?」
「それは、深層水だからです。」
利奈に付け加えて夕花は、
「深層水って言うのは、地上で魔法を使って戦ったりして魔力を使うでしょ?それで魔力って言うのはどんどん沈んでいくの。それから土にろ過されて地下水に混ざったのが深層水なの。」
なるほどと、エリは頷いた。
「エリちゃん、これはポーションの基本的な素材だから覚えておいてね?」
「んでもって、次はこれ。」
木の古びた棚を漁って緑色の草を出して来た。
「これは、人草。ちょっと強く押して見て?」
見た所緑色でとても長い。
エリの目の前に差し出す。
「こんな感じでしょうか?」
その時だった。
「ニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロ。」
「ひえぇぇぇぇぇぇ!動いたよぉぉぉぉ〜」
あまりの怖さに半泣きしてしまった。
その横で夕花は腹を抱え
「ファッハハハハ!面白いよぉ〜ひえぇぇぇだって!本当にどっから声出してんのぉ?」
「んーーー!」
エリは怒って見せた。
「ごめん。ごめん。エリちゃん!あまりにも面白くて。ハハハ.....」
まだ笑っている。
それを横で見ていた利奈が
「この人草は危険を感じるとニョロニョロ動いて敵を驚かす草です。多分エリさんに押されて人草が反応したのでしょう。」
10秒くらいで動きが止まった。
「弱ってるんですね。普通なら1分くらいは動いてるのに。」
「1分も」
とエリは顔を引きつった。
「気を改めて!」
夕花がまた仕切り出した。
「今日は作り方講座だから。簡単にね!」
「エリちゃん、そこの包丁を使って。」
その包丁もまた錆びていて切れるか心配だった。
「それで人草を抑えて切っちゃって!ぶつ切りでいいから」
エリは人草をゆっくりつかんで、ゆっくりまな板の上にのせて
「絶対ニョロニョロしそうなのです。怖いのです。」
「大丈夫だよ怖いのは最初だけ。」
夕花が応援する。
「ファイトですよ。エリさん!」
利奈も一緒になった。
「ゴクリ。」
生唾を飲んだ。
「いいいいいけっけええええええええええええ!」
ズブ.......
包丁を入れた。
そうすると
「ニョロ」
「ひぇぇぇ。ごわいよぉ(怖い)」
「ニョロニョロ増えるから急いで切っちゃおう!」
夕花が早口で言った。
増える?人草を見ると元の部分は止まったままだが切り離した一つはニョロニョロ動いているのだ。
「!!!!!!!!!!!!!!!!」
もう頭が真っ白だ。
こんなニョロニョロ、世界からなくなって欲しいとまで真っ白な頭で思った。
「もうどうにでもなちゃえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「ニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロニョロ」
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「はぁはぁはぁはぁはぁ........」
「お、お、お疲れぇーさま?エリちゃん」
夕花が心配をしてエリの顔を覗き込んだ。
「お水を........」
利奈が工房にあったビーカーに水を入れて持ってきた。
それを夕花が受け取ってエリの口元へとやった。
「はぁはぁ。もうどうなるかと思ったのです。」
だんだんとエリは落ち着きを取り戻してきた。
「ニョロニョロさんあんなに切んなくてもよかったのに。計18ニョロニョロだね。」
夕花は笑っている。
「そんなぁー。」
エリは、あんなに頑張ったのにーと肩を落とす。
「まあ、細かく切った方が調合しやすいですし落ち込まないでください。エリさん。」
「(利奈ちゃんは、優しいなー。)」
そんな話をしているうちに息も落ち着いてきた。
「もう、大丈夫?」
「はい、大丈夫なのです!」
手をグッとさせて見せた。
「じゃあ、次にいこう!」
夕花がSAN値ダダ下がりだったエリの手を握った。
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「次はこれ!」
小さい工房だからなのか大きく見える機械だ。といっても両手で持てそうな大きさだ。
「これはねー。ミキサー調合機!」
夕花は顎に人差し指を置き
「正式名称は確か、小型回転型ミキサー機だっけ?利奈?」
利奈は横に首を振った
「違うよお姉ちゃん。小型回転型均等調合機だよ。しっかりしてよね。跡取り娘として!」
てへへという顔をして
「まあ、そんな感じ!」
「大体はちっちゃいミキサー機っていえば通じるよ。」
大分アバウトだし違うけど大丈夫なのかなー。
エリは不安になった。
夕花は、両手をパチンとし
「じゃあ、ポーションを作るうえでの一番大切な調合にはいっていくよぉー。」
「まず、ここに筒があるでしょ?ここに沸騰した深層水を入れます!」
「そこに、それ専用のじょうろがあるから入れてきて。」
変わった形のじょうろだ。それにそこまで大きくないペットボトルくらいの大きさだ。先のほうが斜めになっている。
「あ、八文目くらいまで入れてください。」
利奈が付け足した。
エリは、深層水が入ってるシンクのようなものの下についている蛇口をひねって深層水をじょうろにだした。
「重さが普通の水と比べて重くなってるから、気を付けて運んでね。」
エリはじょうろのそこに手をあてて運んだ。
「ふー、重いのです。」
初めてのことなので緊張して汗を少しかいてしまった。
「次にミキサー機のこの筒のところに入れて。」
トロトロしているが案外簡単に入れることができた。
「よし、エリちゃんこれで第一段階終了!」
夕花がエリの肩を二回ほど叩いた。
でも、ひとつだけ疑問なことがある。
一体何を作ってるのだろう?
「夕花ちゃんこれって何を作ってんのでしょうか?」
また、顎に人差し指を当て夕花が考えるしぐさを見せた。
そんなところで利奈が
「できてからの秘密ですよ。エリさん!」
夕花もうなずき
「そうねそっちの方がいいね。飲んでからのお楽しみってこと!」
「でも、ポーションって勇者とかが飲むものじゃ?」
ポーションなんてエリは飲んだことがないからだ。
それに対して夕花は
「そんなことはないよ。最近の市販の栄養ドリンクとか何倍にもポーションを薄めたやつが入ってるもの。」
「これから作るポーションはそのままでも味がおいしいよ。何のポーションか作りながら当ててね。」
「でも、こいつが入ってると思うと飲みにくいかも。」
人草がニョロニョロ動いているのをわざわざエリに見せた。
「わかったから、もう止めてぇぇ」
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「次にこのエリちゃんが嫌いなニョロニョロさんを上のミキサーに入れます!」
夕花のニョロニョロさんという言い方に
「........................」
「ごめん、からかいすぎたってば」
笑いをこらえられないようだ。
ボールに入った人草を夕花から受け取り
「これをここに入れれば?」
「うん、でも中に刃物があるから回っていないとは言え手とか入れないようにね。」
ミキサー部は透明であり外から見やすくなっている。
ミキサー部の蓋を開け、
「人草入れるのです。」
勢いよく人草を入れてしまった。
利奈が慌てて
「エリさんそんな勢いよく入れちゃったら!あぁぁぁぁぁぁ!」
人草が人草どうし、ニョロニョロでぶつかり合いミキサー内で暴れた。
「うわぁぁぁぁぁ!ひえぇぇぇぇぇぇぇ!」
エリの悲鳴が響いた。
夕花が的確な判断でミキサー部の蓋を閉めた
「ふーぅ、出ないで済んだよ。エリちゃん気を付けてよね.....ってあれ?」
エリは、ミキサー部でニョロニョロ暴れてるのを見て灰になっていた。
チーン
「ちょ、エリちゃん大丈夫?」
夕花の問いかけにエリは
「ニョロニョロイレタ.........アバレタ......ソトカラミタ......ダケドニョロニョロ......ワカラナイ」
「ニョロニョロイレタ.........アバレタ......ソトカラミタ......ダケドニョロニョロ......ワカラナイ」
「ニョロニョロイレタ.........アバレタ......ソトカラミタ......ダケドニョロニョロ......ワカラナイ」
利奈が
「大変だよお姉ちゃんエリさんが。」
灰になったエリが
「ニョロニョロイレタ.........アバレタ......ソトカラミタ......ダケドニョロニョロ......ワカラナイ」
「うーんこうなったら!」
夕花が気合を入れた。
「ニョロニョロイレタ.........アバレタ......ソトカラミタ......ダケドニョロニョロ......ワカラナイ」
「古くから伝わる荒治療。斜め45度チョップッ!」
ブシッ!
「ちょっとなんかすごい音したけど????」
利奈が驚いてエリの方へ向かった
「えっと、私は?」
エリが正気を戻した。
「よかったー。全くパニックになっちゃって。」
夕花はホッとした。
「人草は?」
よく医療ドラマで見そうな患者は?みたいな言い方で聞いた。
「大丈夫ですよ。エリさんがあちらの世界に行ってる間に落ち着きましたよ!」
利奈も安堵の表情を見せた。
なんだかんだあって一通り作る過程を終了した。
ちなみにあの人草はエリが灰にならぬよう夕花がそっとミキサーで木端微塵にしておいた。
「よーし、あとはこの蛇口をひねるだけ!こいつは自動で1:1で分けてくれるから」
夕花はこの時ポーションの割合が同じじゃないときは違う機械を使うことをエリに知識として入れた。
「いきます!」
エリの掛け声とともにスライムと水の間のとろみのものが流れてきた。
黄緑色に輝いている。それを小さな口の瓶にこぼさないように入れた。タプタプになったところで夕花が蛇口を閉めてくれた。
夕花がポーションのラベルを張っている間に利奈が
「残ったポーションはエリさんが飲んでいいですよ。」
先ほど水を飲ませてくれたビーカーを持ってきてそこへ入れた。
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「なんとかできましたね!エリさん!」
利奈がにっこり笑っている。
「うーー。人草は怖かったけど、利奈ちゃんと夕花ちゃんのおかげなのですー。」
エリが半分感動で泣きかけていた。
「せっかく頑張って作ったポーションです。召し上がって見てください!」
利奈がいつの間にかビーカーにストローを刺しててくれた。
なかなか見れないシュールな光景だ。
「いただきます!」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!」
エリの口の中に甘さとどこか香ばしい青の味を感じた。
「何これぇ!めっちゃくちゃおいしいのです!」
「例えるのならば~えーっと、そうだ!ずんだみたいな味かな?」
利奈が縦に首を振り
「そうそう!絶対女性受けがいいと思います!」
そんな話をしていると夕花が
「エリちゃんラベル貼りができたよー。」
自分の作ったものがラベル貼りをされポーション瓶という本物になるととてもうれしかった。
そういえば、自分が作ったものが何なのか知りたかったことを思い出し
「えーと。」
ポーション瓶をくるりと回すと正面に
「回復ポーション」
「私の初めて作ったポーションは回復ポーションだったんだ!」
夕花がその回復ポーションを袋に入れ
「これ、おうちのお母さん、お父さんに飲んでもらいな!消費期限とかないから。」
「うん!ありがとうなのです!夕花ちゃん!」
夕花はにこにこして
「まー、よかったよかった!」
「人草の時はどうなるかと思ったけどエリちゃんのポーション士の先生としてうまくできたよ。」
利奈が
「あ、そういえば!」
急に思い出したかのように
「紗枝お姉ちゃん大丈夫かな?」
紗枝さんといえば、あのカウンターにいた人か。
「私、今日みかけてないのです。」
エリが朝来たころにはカウンターにはママが座ってたのだ。
夕花が
「エリちゃんそりゃそうだよー。なんと!お姉ちゃん!学校の先生に急きょなりました!」
「なんか急に勇者学校から電話来たらしくって、今年は採用されないかなーって思ってたんだけどね。明日から先生だって!」
エリは驚いた。自分が通っているバイト先の先生の姉が来るのだから
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!私も勇者学校のメイキング科だよ!紗枝さんは?」
夕花は横に顔を振り
「わかんない。でも、勇者学校に入るって言ってた」
「絶対怖いってぇぇ。」
そんなエリに利奈は励ました
「大丈夫ですよ!ああ見えてお姉ちゃん人前では真面目役をやってるんですから。」
そんな紗枝の話をしながらこの日は終わった。
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ポーション作りに夢中になっていたせいかいつの間にか6時を回っていた。
あの姉妹にさよならをいって家へと帰宅した。
「ただいまなのです!」
「あら、お帰り。」
「今日は遅かったのねー。」
「はい!初めてポーション作りをしました!」
今日会った話を一からするのは難しいから、人草と戦ったこと回復ポーションがおいしかったこと、要点をまとめてしゃべった。
お土産の回復ポーションは、お父さんが帰ってきてから飲もうということにした。
今日も充実した一日だったと日記に書いて終わった。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
今回は前回よりまとめるのが難しく、書くのにも時間がかかってしまいました。
これからは週一以上で話を進めていきたいと思っています!
できるだけ感想や要望に応えていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
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