炉馬の休日 ーUnlucky gentlemanー (リレー小説第一部)
在りもしない夢を追い求めた俺は。
在りもしない世界を追い求めた俺は。
遂に追い求めた物を手に入れた。
だけど其れは余りにも大きすぎて、
だけど其れは余りにも小さすぎて、
俺が追い求めた物は手のひらから抜けて行った。
この話はそんな俺の、
この話は虚ろな蝋人形の、
昔々のお話だ。
□□□
第一部ファーストデイ
張り詰めたタイルに靴の音が響いた。都会は未だ朝6時25分。疲れた人々が目覚め闊歩するにはまだ早いそんな中、大通りを越えたのが、この物語の主人公この俺だ。
加具土 炉馬 16歳。後3か月。今言うところの高等学校に所属している。この俺。そう俺。
無駄にスペースとった後、俺はヒューヒューと息を鳴らしながら、朝の大地にへたり込んだ。目の前には何故か瓦屋根のご立派な住宅街、横には時代不相応のコンクリ道路が延々続いて行っている。
「っっ、ついたああああああっ!!どんだけ長いんだよこのXX住宅街が!jasracに訴えるぞ!」
兎に角色々間違っていてしかもアウトな言葉を叫んだ俺はぜえぜえ歩いていく。並木道の間の遊歩道を通り、自宅へ向かう予定だった。
「まあ俺にとっちゃ移動なんて呼吸以下の価値だからな・・・・あの「女」以外は・・・・」
得体の知れないため息をついた俺は、口笛を吹いて古びた遊歩道を歩いて行く。
自宅までは徒歩1時間。都心からはそう遠くない電車一本分ぐらいなので、のんびりと歩けば遅くても7時には着くだろう。
そんなことを思いながら俺はぼーっと歩いていった。
と、この時間の間に説明しておこう。
こんなヒキニートでゴミみたいな体力の無さ、的なものを露呈した俺だが、一応それには訳がある。この話をすると忌まわしい我が両親の話に行き着く訳だが、これを言わないとヒキニート化されそうなので、しっかりと言って置こう。
俺はおもむろに右手の指をこめかみに当てた。
と、その瞬間、目の前の景色が秒速でリセットされる。音も無く景色がガラリと、そう、物体の位置が完璧100%変わった。
俺はその辺にある石瓦をなで、ゆっくりと息を吐く。
よし、テレポート完了。
目の前には自宅。樹と鉄の要素はスタイリッシュな家を象っていた。
俺は自宅のドアノブを手に取り、中に入る。二階建ての家は10の部屋に分かれていた。クーラーのヴィ-ンという音を聴きながら、部屋の中のテーブルに座った。と、今度は手を動かさず、
「thing telle,」
その時、テーブルの上に音も無くコーヒーカップが置かれた。コトンという音も無く。コップには並々のコーヒーが一際の揺れなく存在していた。
さて、ここまで見たならもう解るだろう。端的に言うと、
俺はテレポーターだ。
テレポーターとは何なのかというと文字通り空間移動ということだ。右手首までをこめかみに当てれば地球宇宙のどこへでも移動する。文字通り0秒で。
ドバイへ行くなら0秒でドバイへ。
フィンランドへ行くなら0秒でフィンランドへ。
オーストラリアへ行くなら0秒でオーストラリアへ。
鷲座第23星雲へ行くなら0秒で鷲座第23星雲へ。
移動と言っても空間次元に穴を開ける訳だが、それは置いといてテレポートにはもう一つ、能力がある。これも端的に言うと、
物も移動できるよ(笑)ということ。
つまり自分の要素に触れているならどんな物でも好きな座標にすっ飛ぶ。服も弾け飛ぶし、家を素材そのままナチュラルにできる。
コーヒーカップは(X:250Y:321)へ
シャープペンシルは(X:621Y:282)へ
衣服は(X:32Y:922)へ
自宅は(X:666Y:2782)へ
そんな訳で俺は混じりっけなしの能力者。テレポーターなのだった。
ゆっくりとコーヒーを飲み一服。椅子に体をもたれて眠りにつく。午前中の仮眠スタート。ふわふわの安楽椅子が体に相まって、意識がだんだんと熟成されていく・・・・俺は意識に身を任せ、ゆっくりともたれていく。段々と眠くなり、そろそろ落ちる・・・・・・
訳も無く、
「こらそこにいるユニクロの椅子に座っているオトコーーッ!この美少女が何千回と扉をたたいてるのに何だその態度はーーッ!!」
俺の意識はリセットされた。
「まったくやっと開いたわねって聞いてる?この美少女様の声が聞こえる?」
死ぬ程うぜえ。
とりあえず俺はゆっくりと起きて玄関に向かい、声を聴きながら適当にあしらう。
「聞こえませんねー。人の家に勝手に入ってくるRPGのオーク野郎の声はー」
「なっ、なっ、オーク?ふざけないでよゴブリンが!」
「SKYLIMでもやっとけ非少女さんはいさようならー」
「さりげなく締め出さないでよ!閉めないで!ちょ、その暇そうな顔がむかつくのよー!」
顔をプクーとふくらませるオーク。いや、ちゃんと言っておこう。
羽咲 優香 14歳後4ヶ月。所属しているのは中等学校。
兎に角俺にかまってくる事1ヶ月。そろそろ防犯ベルでもつけようかと考えている。姿はゴスロリ。黒のフリフリと赤のショッキングピンクが目に新しい。外見は美少女だが、顔には見飽きた。胸は・・・・・・悲しきまn置いておこう。
「とーにーかーくー、用があるのー!」
「何?地球が滅びたの?銀河消滅したの?それ以外はお帰り下さい。」
「ちがうちがうちがうっ!はなしてっ!ちがうのっ!」
足をばたばたして喚く優香。ロリコンには堪らない、らしい。
「かーいーらーんーばーんー!わかる?」
「なんでそう文字を延ばすのかな後俺がニートなの分かってるだろはよ帰れ。」
すると優香はうつむきこうもらした。
「・・・・・・・・・うそつき」
瞬間の間、うつむいた優香の口からもれ出たのは、偽りのない本心だった。俺は優香の顔をじっと見つめながら、右手にこめかみを当てた。
「帰れよ。」
□□□
現在8月40分。俺は朝が早い。というのも、一つ日課があるせいだ。
俺はおもむろに部屋を出て、ウーロン茶を一気に飲み干す。清々しい音がして、およそ2分かかった後、椅子にどっかりと座り込んだ。
「ふーっ。よし、行くか。」
御注釈の通り、俺に距離などある訳無い。そう、テレポートである。
手を当てること0秒00.俺はドバイにテレポートした。
風がうるさい。下を見下げると、そう、空。
つまるところ、俺はブルジュ・ハリファとかたが組めるくらいのところにいる訳だ。
空を切って俺はドリフトする。 シュヤァアーーッ という力にも似た音声が響き渡った。
ふとまた俺はおもむろに、
右手をこめかみに当てず、ブルジュ・ハリファに手を当てる。
手から血がまた霧のように出て、俺は顔を少しだけゆがめた。だが、その0;01秒後、
突如としてブルジュ・ハリファは消えた。文字通り。
俺は、ゆっくりと笑って、テレポートし返すそして俺は、元に戻った。
別にテレポートしたブルジュ・ハリファを建物シェイクにしたと思っているだろ?
それが違うわけで、これにはある訳がある。そう、救済だ。
俺が今変化したこの世界は数ある選択肢のコピーでしかない。
俺はそのコピーを、陰から変え、セーブし直している。
つまり、全く報われないダークヒーローだと思ってくれればいい訳だ。
俺は、無意識の数ある可能性を変化させ、元に戻る。またいつもの毎日が始まる。
ぼーっとしながら家を出る俺。道にはタイルが広がっている。
ふと、人の目に気付く。その目は、嘲笑と諸々が混じった眼。
「ったく、テレポートで行くか。」
俺は右手をまたこめかみに当て、いやみったらしい現実をせせら笑い、直かつ目の前を変化させる。
そして、
そして、
その高貴なるその時、
「ちょっとーっ!家の外から見てたら何してんのよ!見てたわよねえ!どうしたのよ!」
「うるせェーッ!」
この俺、本心からの絶叫であった。
「知るか知るか去れ!」
功夫の師匠みたいな台詞を吐く俺。
「やだもん。で、ねえ、何があったの?」
「くそくそくそっ!うるさいっ!テレポートで服ごと吹っ飛ばしてやるぅ!」
「え?無理でしょ?」
その天真爛漫な笑顔には、1%の噓偽りもない。100%、本物そのものである。
で、もう皆さんお気付きだが、
何でこいつがテレポートを知ってるのかというのと、
無理だろの真意を知りたいというのが、
疑問として存在していると思う。という訳で一言で言いきってしまおう。
羽咲優香はクアトロカタリストだ。
つまり、能力を消してしまう訳である。彼女の半径30m以内では、俺のテレポートもゴミ以下の屑だ。テレパシーもファイアストームもワープファルコンもゴミっていうことだ。という事で俺が逃げようとしようが何だろうが向こうは知ったこっちゃ無い。ただの人間な訳だ。
と、言う事で向こうがきょとんと小首を傾げているのであった。
「はいはい分かりましたよ。だけどね、俺のニート精神が引き籠ろーとしている訳ですよ。てな訳でテレポートさせてくれよ。いやマジで。」
「残念。じゃ、30m先まで全力疾走しなさい。はい、よーいすたーと!」
1,2と数を数える優香を尻目に、俺は在ら限りのスピードで足を動かした。
「つか追ってくんな!テレポートせずとも家に着きやがるじゃねえか!」
「ふっふっふっ。これが目的よ!」
「くそーっ!リア充めーっ!」
何というか、王道な始まりだった。
□□□
「で?どーしてブルジュ・ハリファ何かをすっ飛ばしたの?」
俺はいま優香宅のリビングによって正座していた。目の前には優香様がいらっしゃる訳である。
「へーっ。加具土 炉馬クンは毎日世界の絶景を吹っ飛ばして来たって事ねー・・・」
「ヘイ。マコトニモーシワケアリマセンデシタ。」
「と、言う訳で今日から君にはメイドさんが着いてきます!」
「はいはい、ってはぁ?」
噓だろ!
「コミュ症の炉馬クンにはピッタリでしょ?」
「ふざけんなよR・I・A・J・Y・Uがっ!」
マジでふざけんなよ!笑えねえぞ!
この俺にメイドとか、ふざけてるにも程があるっ!この腐った口を振りしぼっても、「コンニチハ」が限度じゃねーか!
「帰る帰る馬鹿が帰るぅぅぅ!」
バシリと扉を力強く跳ね上げた俺は、ずんずんと廊下を歩いていく。暗い廊下は目に新しい。
「ちょ、待って!そこはダメ!」
と、いきなり俺に優香がつっかかって来た。俺は片手で薙ぎ払い、また歩いて行く。
ふと、何か柔らかいような感触が当たった。そこには、
文字通りのメイドがいた事を伝えておく。
「こんにちは♡ご主人様♡」
「うっ、うわっ、」俺が最初に感じた事は、
メイドの感覚と、これから行き着くであろう、冥土の感覚だった。
□□□
「どうゆう事だ羽咲優香ァァーッ!ヒキニートなめんなよ、あん?」
「ちょっと落ち着いて落ち着いて!いやその、ハッピーバースデーと言うか・・・」
「ほうほうほう。ふゔ――――――ん?なっかなかいーーーいメイドだよゴラァ!」
「で、でしょ?」
「ほめてねえよおおおおおおお!何なら手前にマッパになって貰うぞああん?」
「ご主人様?どうなさいましたか♡」
俺はああんの「ん」の口のまま、ギギギと音を立てて振り向いた。と、そこには、
何というか、文字通りマッパのメイドが一人いた。
顔はぷるぷると赤く震え、身を悶えているのが、途轍もなくエロい。
申し訳の様にハンカチをぎゅっと握っている。
俺はギギギの姿勢のまま、ゆっくりと倒れて行った。
「あの、マスター、お気に召しましたかっ・・・ぐすん」
「ちょっと、引き籠りの炉馬にこれはキツイって!」
「でも、わ、私が心を込めて・・・ぐす」
「わーっ!近寄らない!すとっぷすとっぷーっ!」
がやがやと声が響く中、一つだけ言える事は。
テレポーターの俺に、一つだけの救いは。
何か途轍もない未来が、一人のメイドのおまけ付きで来るという事だった。
□□□
<to be continued>




