92.あと2日…だけど
他の人もそうなのかもしれないけれど、自分が好かれているか、嫌われているかに私は敏感な気がする。
母子家庭となり、お母さんの顔色をいつもうかがっていたからかなと今は思う。仕事から帰ってくるお母さんを観察し、今日は機嫌がそこまで悪くないとか。
好き嫌いはどうしてもある。
30人いて1人本当に仲良くできれば、嬉しいなくらいに私は思っている。
でもなー聞いておいてなんだけど、やっぱりキライという言葉は心にくるわ~。
「どうせ、温室育ちで表面だけの人間でおめでたい奴だからですよね?…あとどうしてもっと早く、あの女の子がいなくなってしまう前に、戦争が始まる前にこの世界に来なかったのかよ、ってとこですかね。まぁ後半は私だってそう思います正直」
こちらを見ないラウさんだけど、苦笑しているのがわかる。
「カエデちゃんてさ~なんで自分で自分の首を絞めようとするのか不思議。死んだのは、妹だよ」
やっぱり身内だった。
「薬があれば助かったけど、戦争中で何もかもが不足していた」
しょうがないと呟きながらも苦しそうな声。
「俺は…前線にいて間に合わなかった」
こんな話をさせてるのは私。
「この国は、獣族少ないだろ?戦で使えるから沢山駆り出され皆死んだ」
ため息をつき私を見る目は意外にも穏やかだ。
「カエデちゃんのことは、キライだけど嫌いじゃないよ。カエデちゃんの世界なら妹は長く生きられただろうな」
「ごめんなさい」
「何が?」
「思い出させてごめんなさい」
好奇心でこの人を傷つけた。神様の次に強いなんて何の役にもたたない。
まして、私自身は何も持っていない。
暖かい。
頭を撫でられた。
「いつ帰る?もうきっと間近だろ?」
何でこの人は気づくんだろう?
そして誤魔化しも効かない。
「…明日」
「だいぶ急だな~」
「奴は?」
ルークさんだよね。
「知ってる」
「アイツはバカだな」
「バカじゃないです」
「ふっ、カエデちゃんもバカだな」
頭はいいとは言えないので、否定できない。
「カエデはさ~優等生すぎんだよ」
意味わかんないよ。
呼び捨てだし。
「もっと我が儘でいいと思うよ、お兄さんは」
誰かにもそんな事、言われたな。
さてと、と言い立ち上がるラウさん。
「寒いし入ろっか」
「はい。フブッ」
前を歩いていたラウさんが、いきなり立ち止まったので鼻をラウさんの背中にぶつけた。
「リラ」
「え?」
ラウさんは、顔を私に半分向けた。
「リラ。リラージュが妹の名前。花の名前なんだ」
私は、また歩き出したラウさんの背中に言った。
「私の短所は、臓器は覚えられるのに人の名前は覚えられないんです。でも、リラちゃんの名前も顔も一生忘れませんから」
「うん、有り難う」
ラウさんの顔は見えないけど、きっと穏やかな表情をしている。
そんな気がした。
その夜。
私は、淡い光の中手紙を書いていた。まだ習っている途中の為、電報みたいになっちゃう。
「は~」
なんとか書き終わりベッドに入ったけど。
寝れない。
…もーいいか。
残り1日も2日も同じかも。
ベッドから起き上がりクローゼットを開けあさってみれば、それは隅にあった。私は、この世界に来たときに着ていたスーツに着替えた。なんだか馴染まないと感じる自分がいる。
そんな思考を中断させた。
音や気配でばれるなら、転移だ。
居間から出れる庭に転移した。
外は雨が降っていて音が消えてちょうどいい。
念のため部屋に入れないよう力を扉に放つ。外の護衛の人が感じないように感度はゼロと念じる。
素足で冷たく、雨が体を濡らしていくけど無視して舞い始めた。私は、お披露目で舞ったものと同じ動きと言葉を口ずさむ。棒はないけど、できる気がした。最後の円を膝をつき両手で結ぶ。
直後描いた陣が光り暗闇の中に金の光の柱が空へ突き抜け。
ヴィラが現れた。
「楓」
ヴィラが私の名前を呼ぶ。
「カエデ!」
後ろから声がした。
振り向くと居間の庭に出る扉は開いていて。そこにはルークさんだけでなくシャル君やラウさん、マリーさん達までいた。
なぜ?
防御は完璧なはずだった。
全ての人を拒否する防御をかけたのに。
こないで。
見たくない。
聞きたくない。
なぜいるの?




