86.あと6日 ~宰相さんからの…~
「はい!どうぞ!!」
気合いをいれドーンと宰相さんの前に置く。
持ちきれなかったので護衛してくれているシャル君にもお願いした。
「何だコレ?」
この砕けすぎの声はダート君。
別に彼は必要ではなかったが、自主参加だ。
「まず温かいものから食べて下さい。」
昨日ガサゴソしていたのは、調理の下準備だった。
メニューは、ホワイトソースを利用したシチュー、じゃがいもモドキのニョッキに合わせたソース二種、魚。
私はまず最初にシチューを勧めた。
次に同じ作り方だけどシチューよりとろみが強いホワイトソースを絡めたじゃがいもモドキのニョッキ。
このニョッキには、もう1つバジルに似た葉が市場であったのでバジル風ソースも作った。
本来バジルソースは、バジル、オリーブオイル、松の実、ニンニク、塩をフードにかけ、他の具はいれないけど、私は家でバジルのニョッキを食べる時は、お肉が欲しくて厚切りベーコンを細めに切りカリカリに焼き黒胡椒をかけて火を止めて、そのフライパンにフードにかけたソースと茹でたニョッニを最後混ぜるのだ。
ベーコンの油が多いのでニョッキとソースを入れる前にクッキングペーパーでフライパンの中をさっとふけばよし。
あと最後は白身魚の昆布締め。
この国は生魚を食べないらしいので、抵抗がありそうだけど出してみる事にした。
海が近いのにもったいないよね。
昆布と勝手に言っているけど色は私の苦手な青。
市場の中にある店の隅に転がっている乾燥した昆布もどきを見つけたのだ。
ちなみに、あまり使わないらしく、たまに海のない国の人達が買っていったりするらしい。
まあ水に戻すとヌルヌルするしなぁ。
洋風の食事には使わないかも。
昨晩白身を挟み一晩置いた魚を切り側に塩とかぼすに似た酸味が強い果物を添え出した。
醤油があればなぁ。
「これは、温まる。」
「カエデ!美味いぞ!」
「濃くて美味しいです。」
シチューはなかなか評判がいい。
なぜかシャル君まで試食に参加している。
「弾力が面白い。」
「俺は物足りない!」
「思っていたより肉の旨味も出て美味しいです。」
ニョッキはまぁまぁか。
男子にはボリューム感が足りないよね。
「これは、変わっていますが酒に合うかもしれない。」
「あっさりだな!」
「僕はちょっと。」
昆布締めモドキは微妙か。
まあ臭みが嫌だとかではないのでよしとする。
かぼすモドキをかけて食べてもらったら、シャル君は塩のみより美味しいと言ってくれた。
「で、これは流石に昨日の今日は無理なので、ダート君と考え中です。」
宰相さんの前に置いたのは、ボールペンのまわりだけ。
まだ芯は入っていないけど、形があればイメージがつくと思いざっと昨日ダート君に作ってもらった。
宰相さんにガインから帰ってすぐ頼まれたのは、ヴィラスにも特産品をという頼みだった。
ただの学生に無理言わないでほしい。
ガインで色々していたじゃないかとネチネチ言われ、じゃあ時間かかるけど考えておきますと言いそのままだった。
私は自分のボールペンを見せた。
「これなら、インクをいちいちつけなくていいし、インクが固まるというのもないので、外でも便利だと思います。」
「これは素晴らしい。」
「作れたらいいよな~。」
「画期的ですね!」
満場一致です。
こちらの世界に広めていいのか悩んだけど、兵器じゃないし、いっかと思いふみきった。
プラスチックがないので木製か鉄製になるだろうな。
環境の為に外側は木製かな。
「できればだが、引き続き案をお願いしたい。」
宰相さん、なかなかな人だよね。
「いいですけど、条件があります。」
「なにかね。」
私はローズ嬢がくれた公爵の密輸、横領が記された紙を机の上に出した。
これらは、事前に宰相さんには伝えてあった。
「ダーキット公爵、お父さんはしょうがないですが、証拠品を持ち出したローズ嬢はなんとかして下さい。」
マリーさんに質問として聞いてみたけど、こういう場合父親だけでなく、その配偶者も罰を受けるらしい。
私は、ローズ嬢は頭のいい出来る子に見えた。
ただ周りが駄目な事はだめと教えないから、ちょっと残念なだけで、すぐに変わると思う。
男性優位のこの世界では、やはり爵位は男性が継ぐ。
私は一人っ子のローズ嬢が継げばいいと思ったのだ。
まあ他の貴族の反発は激しいだろうけど。
「…例外を作るのは問題だが、考えよう。」
きっとすぐ私の言いたい事を理解した宰相さんは、ため息をつきながらも、そう答えた。
私は宰相さんと話をした部屋から出てシャルくんに歩きながら伝えた。
「影に会いました。」
「ある程度したら自由にさせてあげて欲しい。」
シャル君の歩調が一瞬乱れたが、すぐ戻った。
「今、私とシャル君には強力な膜はってるから。」
きっと気にしているであろう事を伝える。
外からみたら、膜はあまり分からないようになっているが、触れると多分超強力な防御、音遮断の膜がはられている事がわかるだろう。
シャル君が呟いた。
「仰せのままに。」
本当は解放なんてさせないんだろうけど、我が儘を通した。
「ありがとう。」
シャル君の制服の袖をひっぱっりお礼を伝えた。
見上げると困った顔のシャル君。
「何?」
なんで微妙な顔してるの?
首を傾げちゃったよ。
「無意識でその仕草は反則ですよね。」
意味が分からない。
「まあ、それだから惹かれるんだよな。」
ブツブツ呟くシャル君はちょっと変だが、相変わらずイケメンだった。
朝から何か疲れたけど、午後は国境近くに転移し、力を放出させるかと考えながら、借りている部屋の近く迄行くと、突然シャル君が前に出て、私は鼻をシャル君の背中に勢いよくぶつけた。
「アダッ。」
「急にどう…」
「下がって。」
シャル君が私にそういう言い方するのは初めてだ。
彼の手は腰の剣の柄を握っている。
…誰かいるの?
そっとシャル君の背から覗いた。
扉の前に騎士さんが倒れていた。
その騎士の近くに、血がついた剣を握ったダーキッド公爵が血走った目でこちらを睨み付け、言葉を放ってきた。
「全てオマエのせいだ。」
ブックマークありがとうございます!
あと少し。
初なのに本当に長くなってしまった。
読んで頂きありがとうございます。




