84.あと7日 ~ローズ嬢は男前~
この世界にいるのも、あと残り1週間になった。
あのちょっと病んで大胆な行動をした次の日の朝に私はまた元の世界から持ってきたメモ帳とペンで、やることリストを作った。
その前にベッドで昨夜の事を回想し悶えていたけれど。
まず2日に1回の神殿の他に国境ギリギリ迄行き力を使う。
移動は国内なので転移で。
馬車だと時間がかかりもったいないから。
杯もどきが、各場所への杯もどきに繋がっていると聞いていたけど、信仰心で多少場所によりムラがある気がしたから。
ヴィラに聞くのを忘れて勝手な解釈だけど、間違っていないと思う。
実際ガインで夢でヴィラに会おうとしたけどできなかった。
転移も出来るけれど残り少ない今、万が一拘束されたりしたら困るし。
遠い場所は地図を見せてもらって特に荒れた場所を教えてもらい、届くように念じた。
あと文字の練習を始めた。
今更だけど、この世界にいたんだと戻った時実感できるかなと思ったから。
文字の種類は一つだけなので助かる。
でも字はまったく似ていないので大変。
腕輪を着けては外し発音も挑戦中。
マリーさん達に仕事の合間に教わっている。
なかなか皆スパルタなのだ。
今日は、午前中神殿へ行き杯もどきへ力を注ぎ、今、お昼ご飯を食べてアリヴェルちゃんがいれてくれたお茶を飲み食後のまったり中。
この世界のお茶はハーブティが主流みたい。
お花の香りがしたり、種類は豊富そう。
「ローズ様、カエデ様は力を使い疲れていますので。」
「休んでいらっしゃるので日を改めて下さ~い。」
静かな口調の中に圧が含まれているマリーさんの声とふざけた口調のラウさんの声がなにやら聞こえてきた。
「・・アリヴェルちゃん、もう1人分お茶をお願いしてもいいですか?」
言った途物もの凄くアリヴェルちゃんの眉間にシワがよった。
これでどうだ。
「私も美味しいからもっと飲みたいな。」
「・・畏まりました。」
ため息をつきつつもお茶の用意をしはじめてくれた。
「失礼致しますわ!」
「あの獣人寝ているって言っていたけど起きてるじゃない!」
・・なんだろう、若いなぁ。
活きがいいというか。
調理実習で使う魚を見た時ような表現しちゃったよ。
私が通っている短大は海が近いせいか調理に使う魚はいつも立派なのだ。
以前に鰹のさくを鉄串にさして強火で表面を炙り、小ネギ、生姜を添えポン酢風のたれをかけ回し食べた。
最高に美味しくって家でトライしたけど肝心の鉄串なんて家になく、悩んだすえに木の串を利用したら、まあ串が燃えました。
あぁ。
お味噌汁やお米はそれほど恋しくないんだけど、醤油は欲しいなぁ。
「ちょっと!」
いけない。
ヨダレ垂れそうになってた。
「あっごめんね。」
ローズ嬢を改めて見る。
相変わらず可愛い。
今日はツインテールではなくピンクの髪は巻かれ小さな顔の周りをふちどっている。
ドレスは赤。
胸元とスカートの左右部分は透かしの白い花のレース模様でフリルになっており、小さいピンクのリボンがちらばっている。
ラズベリー色の瞳とドレスが合う。
「相変わらず可愛いねぇ。」
思わず変態のオジサンみたいなセリフが出た。
この世界の女性は可愛いより美人が多い中、この子は可愛いんだよね。
「な、なにを言ってますの?!」
「当たり前ですわ!」
照れているらしい。
そういえば、聞き捨てならない事が。
「話を聞く前に獣人じゃなくてラウさんだから。」
可愛いくたって駄目な事は言う。
「なっ私を誰だと・」
「もし、ローズ嬢がアンタ呼ばわりされたら嫌でしょ?されて嫌な事はしない。」
イライラを隠さない彼女に言う。
「できないなら、お帰りください。」
地位がなんだ。
私には関係ない。
ローズ嬢は口をへの字にしていたが、しばらくして折れた。
「・・わかりましたわ。」
「・・・ごめんなさい。」
ローズ嬢は、中の扉近くの壁に寄りかかっていたラウさんの方へ振り向き本当に小さな声だったが謝った。
ラウさんは、ニヘラと笑って何も言わなかった。
さて。
「で、何かな?」
デュラス王子は薬を嗅がせ彼女を眠らせていただけで、どこも怪我はしていないとルークさんが言っていたけど。
見た目も元気そうだし。
「・・助けて頂き有り難うございました。」
「・・・」
えっ?
そんな事の為だけ?
「えっと、怪我してなくてよかったね。」
「あとこれを。」
ローズ嬢は綺麗なピンクの大きめなハンカチに包まれた何かを差し出してきた。
手が微かに震えている。
部屋に入ってきた時の強気な態度とは違い顔色が悪い。
差し出された包みを受けとり、結び目をほどくと、何通かの手紙と、書類かな。
ざっと読む。
手紙はガインとのやり取りだった。
何かの売買と国内の事が書かれている。
書類のような紙は、数字と物の名前。
文字は読めるけど、物の名前や数字はよく分からない。
いつの間にかラウさんが背後にいて私の手元を覗きこんでいた。
ラウさんは、犬耳より猫耳のが似合いそう。
「手紙は禁止されている植物、それも猛毒の密輸だな。
こっちは・・国庫から色々持ち出して金にしてるようだな。」
・・なんだろう。
証拠は残しちゃ駄目だよね。
やっぱりダーキット公爵、辛子オジサンは残念な人だった。
娘の前では言いづらいので心の中で呟く。
「それより、これお父さんにバレたらローズ嬢不味くない?」
顔色の悪いローズ嬢は下を向いている。
「お父様が何か良くない事をしているのは気づいていましたわ。」
「あの日、王子は、突然屋敷に転移してきて階段を降りていた私を後ろから抱え私は何かを嗅がされました。」
「・・お父様はその時、踊り場にいらしたのに助けてくれなかった!目が合ったのに逸らされましたわ!」
膝の上に置いている手にポタポタ雫が落ちていく。
「・・屋敷に戻った私にお父様は会いもして下さらなかった。」
手で涙を拭い顔を上げた彼女は、私と目を合わせた。
「それは、ご自由になさって。」
立ち上がり去っていく彼女に思わず声をかけた。
「私、ローズ嬢嫌いじゃないよ。」
「あと周りがなんといおうとお父さんの事が好きなら好きな気持ちでいいと思う。」
「・・。」
一瞬ピタリ歩みが止まったあと、また歩きだし彼女は帰った。
1度も此方を振り向かなかった。
ローズ嬢は見た目可愛いけど中身はとても男前でカッコよかった。
「どーすんの?コレ。」
ラウさんが私に聞いてくる。
「今日か明日宰相さんと会わないとかな。」
色々言われてる事もあるし、こちらも頼みたい事ができた。
「マリーさん、また胃薬、今度は苦くないのお願いします!」
次に備えておこう。
読んでいただき有り難うございます。




