81.ガイン~デュラス王子~
「嘘だろ?あの身体で転移しやがった!」
この部屋やカエデが使っていた部屋に転移できないように術をかけていたのに、あっさり破られた。
・・カエデは、歩くのもやっとだった。
ヴィラスでおそらくぶっ倒れている。
「それだけヴィラスに戻りたかったんだろう。」
宰相は椅子に座り冷めた茶を飲みながら呟いた。
ガインがヴィラスに劣るって事か?
「カエデ殿が自ら来たくなる国にしてはいかがかね?」
宰相にしては珍しく楽しそうに笑ってやがる。
「・・王子が変えてみては?兄弟共に生きられるよう。」
防御・防音がはられているとはいえ、クソジジイ無茶言いやがる。
カエデが去る前に言ったのだ。
「この国で王様になるのは、長男じゃなくて実力主義なんでしょ?で、なれなかった他の兄弟殺されちゃうって聞いたんだけど、悲しいし、もったいないよね。」
モグモグ飯を口に入れながら話す女は、俺の周りでは見たことがない。
・・もったいないだと?
ゴクンと飲み込み今度は菓子に手を出し始めた。
「なぜ?」
「だって、皆一流の先生に小さい時から勉強教わってるんでしょ?きっと皆頭よさそうだし、それこそ分担制にして仕事したら、スッゴクよさそう!強い人は国境で守ったり、数字に強い人は経済とか、お母さん違ったりはあっても、小さい時からずっと一緒でしょ?あっでも、偏りはよくないから、経験がある第3者を数人上に置いて監視してもらうの。
そしたら、偉いからって暴走した時も止めれるし、それ用に軍とか独立で1つ作ったり。」
うん、いいと思うなぁ。
何故か今朝長かった黒髪が首筋あたりまで短くなり、うんうん頷くカエデに合わせサラサラ揺れる。
1人でカエデはどんどん話を続けていく。
そして、いきなり俺の方へ顔を向けてきた。
「王様から町の人達まで心身共に元気が理想だよね!」
なんなんだ?この生き物は?
スゥーリーすら1人で乗れず、転移すら酔う女が国の将来を語っている。
だが、見つめてくる真っ直ぐな黒い瞳は真剣だ。
冗談のかけらすらない。
オマエには、関係ないだろ?
何故、気を失うほど力を使い自分を犠牲にできる?
何故不安そうに、俺も他の兄弟も生き抜けと言う?
カエデは馬鹿だ。
だが、あのくだらない夜会の時から気になってしょうがなかった。
何故か無性に手に入れたくなった。
今の俺ではカエデを手に入れられない。
「宰相。」
「なにか?」
まだ茶をすすっている宰相に声をかけた。
「まだ時間あるか?武器庫の件を挽回する為策を練る。」
「ーいくらでも時間を作りましょう。」
宰相の言葉に俺は頭をフル回転させ始めた。
カエデ。
オマエと国の両方をいずれ必ず手に入れてみせる。




