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異世界の色  作者: 波間柏ひかた


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62.心が揺れる

少し気分悪い表現があるかもしれません。

ベンチの先客を見つけた私は回れ右をした。


「どちらへ?」


気配のプロが気がづかないわけがないけれど、本能的に逃げたくなるんですよ。

私は結局、強い視線に諦めルークさんに近づいた。


「…今日の夜はシャル君ではないんですか?」

「急用で交代だ」


なんか、ついてなぃなぁ。

私は、逃げる手段が思い浮かばす、立っているのも疲れてくるのでベンチの端に座ることにした。


「なぜ避ける?」


なぜって。


「昨日の気まずさもあり、今日のルークさんが変だったのもあり。何となく」


腕を引っ張られた。


「ちょ、カップが」


何日か前のパターンだよ!

ルークさんがカップを片手で取り片方の腕が腰に巻き付きルークさんの足の間に座らされカップが戻ってくる。


密着度半端ない!落ち着かないよ。

あれ?

触れた手が冷たい。


「飲みます?」


まだ温かいし、少ししか飲んでいない。あっ人が口つけたの嫌だよね。でもかなり冷えてそうだし。


「こっちからなら口をつけてないので大丈夫ですよ」


向きを変えてカップを渡そうと腰をひねる。


「あっ」


カップを受け取ったルークさんは、向けた方を戻し、私が飲んでた方に口をつけ一気に飲み干した。


…自分から渡しておいて何だけど、かなり恥ずかしい!


ルークさんは、カップをベンチに置き、手が空いたせいか緩く抱きしめられる。頭を下げているのか私の耳の辺に髪の毛が当たる。


「カエデは触れられるのが苦手だと思っていたが、違うんだな」


何が言いたいんだろう。

回答に失敗したら嫌な予感しかないんだけど。


「え~と、急に触られるのは駄目なんですが、自分から触るのは平気です」

「何故と聞いても?」


微かに見える町の明かりを眺めなが長いですよ。と念をおし、つらつら話す。


「自分でもわからないんですけど、家にはお父さんがいません。私がお腹にいるとき離婚したらしいです。なので母は働いていて祖父母に育てられました」


懐かしくなってきたぞ。


「高校は女子校で今も短大は女の子だけ。あっ両方学ぶ場所です。男女共学もありますが、私が学んでいる学校は、女の子だけなので男性に免疫があまりないんです」

「それだけか?」


時々鋭いから嫌なんだよー。


「…学校や仕事の通学、通勤で、まあ大抵の人が乗り物に乗って学校や仕事先へ行きます。バスや電車というのがあって、沢山人が乗れます」

「その乗り物面白いな」

「仕組みを聞かれても説明難しいし、長くなるから省略します。で、高校生、17歳くらいかな、チカンもどきにあったんです」


意味がわからないか。


「知らない男の人に触られたんです」


後ろの気配が怖くなってきた。


「あ~でもがっつりじゃなくて触れるか触れないかくらい。隣に何日間か一緒になって。席を立つ時にされて、その人の顔見ようとしたんだけど、口元しか見えなくて」


今でも忘れられない。



「…見た時笑っていたんです。ニヤリって感じで。朝、座席に座ると今日もその人来るかなとビクビクしてました。2回くらいかな。あとは」

「まだあるのか?」

「何もされないけど、何週間か同じ車両、えっと私と同じ近くに来るんです。場所変えたりしたんですけど。何か嫌で時間を変えました」


前を向きながら、思い出す。


「被害というほどあってないし、いるんですよ?取り締まる人とか。でも言うほどじゃないし。私じゃなくて可愛い子なんて沢山いるのに何でって思ったり。駄目ですよね私」


誰にも言えなかった。

だけど。


「…気持ち悪かった。大げさなんだろうけど。この時のが原因かは、正直わかりません。でもまったくないとは言えないかなぁ」

「今は?」


この状況の事だよね?


「…嫌じゃないです。ただ距離が馴れないです」

「ヒューイには大丈夫なのか?」

「あれは、耳につられつい。飼っている猫、動物を思い出したんです。小さい頃から動物と一緒だったので、今モフリが足りてない!」


いけない、興奮しちゃったよ。


「えっと、そんな感じです」


反応がないし肩が重い。首をぐるんと回すとすぐ横にうつ向いているルークさんの頭があった。髪で表情が見えない。


「悪い」


謝られちゃったよ。


「何がですか?」

「色々強引過ぎた」


小さい声が。


「嫉妬した」

「…一度確認しようと思っていたんですけど、目、大丈夫ですか?自分で言うのも悲しくなりますが見た目も中身も、いいとは言えないですよ私」


相手の長所、羨ましい所は沢山あって、自分のは短所ばかりしか思い浮かばない。


「目も頭も正常だ」


肩が軽くなる。上を見上げると綺麗な青の瞳。


「カエデがいい」


…うぅ。

今、私死にそうです。

でも話さないと。


「頭撫でられ、触られ、嫌じゃなかったですよ。あっファーストキスはちょっと意義ありですけど」


ルークさんの腕をほどいて立って振り返える。

紺色の髪、私の好きな青い瞳、無駄のない綺麗な身体に制服をキッチリ着て剣を携えている。

もの凄くカッコいい。それだけじゃなくて、強くて優しい。


多分この人の事を私は好きだ。

でも、でも。


「この世界にいる限りお母さんやルーク、友達に会えない」


ルークさんは、なぜか微笑んでいた。


「そうだな。でも俺は諦めない」


ルークさんが座ったまま、私の手を引くから、よろめきながら近くに戻る。私はルークさんを至近距離で見下ろす。ルークさんは私の手を離し、自分の両手を見つめてポツリと言った。


「俺は汚れている。戦とはいえ人を切りすぎた」


目が合う。


「頭ではわかっている。俺はカエデに相応しくない。でも、欲しくなる」


絡まる視線が更に優しくなった。


「これからは、できる限り話そう。この間の襲撃も除け者にするつもりで言わなかったわけじゃない。カエデの育った平和な環境とは違うだろうから、無駄に怖がらせたくなかった」


──なんか途中サラリとすごい言葉が。

でも、これだけは言いたい。


「汚くないですよ。好きで傷つける人はあまりいないです」


ルークさんの手に触れる。

硬い手。


「一生懸命生きている手ですよね。私の中身のがドロドロです。好きですよ、この手」


大きくて安心する。

チカンもどきと大違いだ。


「…そうか」


くしゃっと笑ったルークさんは、子供っぽかった。



ブックマーク有難うございます!

長くなり過ぎて、もうはしょろうと思ったのですが、やっぱりやめました。

書きたいように書きます。

お付き合いしてもらえれば嬉しいです。

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