51.モテ期? カエデ&シャル
…花の香り?
そのまま辺りを視線だけ動かす。
いつものお城のベッドだ。ベッドサイドにお花を生けてくれたみたい。強くなく、優しい匂いはそこから香っている。
薄暗い。
夜中、夜明けくらいかな。視線を下げるとベッドに顔を伏せているベルさんがいる。
看ててくれたんだ。私は、寝ているベルさんを起こさないように、そっとベッドから出て、近くにあったブランケットをベルさんの肩にそっとかけた。
外行きたい。でも足がやたらふらつく。
私は、壁をつたいながらいつもの客間から出られる庭へ向かった。
なんか体が空っぽな感じ。
でも防御かけないと。何かあったらまた迷惑かけちゃう。腕輪に触れ、庭全体ではなく自分の体ギリギリに、防御と音遮断と念じた。
「よいしょ」
ベンチ迄歩く元気がないので平らな草むらに体育座りをした。
葉のすれる音だけが響く。
風が冷たいけれど気持ちがいい。靴も脱いじゃえ。足を投げ出し上を見上げるとやはり夜明け近いのか青い月が薄い。
どれくらい経ったか、ふいに肩に重たい物、みるとマントが掛かっている。上を向いていたままグルリと後ろへ頭を反らせば。
「そんな格好でうろついたら駄目ですよ」
困った顔のシャル君だった。
私は、なんとなく無視してまた月を眺める。
ふいに自分の手に違和感がした。
手が透けていた。ふとヴィラの言葉を思い出す。
『消えちゃうよ?』
…なんかもういいか。どうでもよくなってきた。
そう思ったら突然体が浮いた。
「駄目です。消えさせない」
苦しいくらいに抱きしめられた。もがいてもまったく動けない。
「気持ち悪いですか?僕が」
「何故?」
意味がわからない。
小さい声でシャル君がポツリと呟く。
「…あいつの腕を切り落としたのは僕です。戦でも沢山殺しました」
「気持ち悪くないし、怖くもないよ」
好きで人を傷つける人なんて普通いないよ。
私はもがくのを止め、シャル君の頭にそろそろと手を伸ばし撫でた。まだお礼も言ってなかったね。
「ごめんね。守ってくれてありがとう」
シャル君の髪が首に当たりくすぐったい。緩くなったと思っていたのにまた、ぎゅっと抱きしめられる。苦しいんだけど。
「カエデ、僕オトコだよ?」
はぁ?
わかってるよ。力もそうだけど、精神的にもこの世界の人は私のいる世界より大人だ。
「知ってる…」
「分かってないよ」
頬に音をたてキスされた。
「ちょっ」
「カエデは、ルーク副隊長が好き?」
グリーンの目で見つめてくる。
「分からない」
キスされて、拒む事もしなかったけど。
──でも。
私は、お母さんやルーク、友達、自分の世界を捨てれない。暗く考えこむ私をよそに、何故か嬉しそうな声が降る。
「まだ望みあるかな」
「え?」
シャル君の顔を見る。
「なんでもない。あっキスは謝らないから」
ニッコリ笑ったら今度は姫抱っこ!
「シャル君!」
「今、防御うまく張れてないくらい力ないでしょう?それに重くないよ。ただ目のやり場に困るけど。」
何でそこで顔が赤くなるの?
自分を改めて見てみれば、薄いネグリジェで身体の線が丸見えだ。しかも胸元が苦しくないようにか緩くリボンが結ばれていた。
「上から見ると胸元が…」
「言わなくていいっ!どうせないし!」
借りてるマントを引っぱる。
「違うよ、むしろ頬にキスのみの僕を誉めて欲しいよ」
オデコにチュッと音と共にキスされた。
「両手塞がってるからこれで我慢する」
「異世界いったい、ホントになんなの…」
思わず呟いた私にシャル君は楽しそうにクスクス笑っている。
「さて、まだ早いから一眠りして下さい。お姫様」
自分の両手を見ると、もう透けてなかった。




