50.現実
「それだけ力を使えばぶっ倒れるわ」
帰りの馬車の中でラウさんに、「お前馬鹿か?」と頭をグーでゴリゴリされる。地味に痛いからっ!
「止めてください!」
ギブと言おうとしたら、シャル君が言ってくれた。君は私の味方だ。
あ~やだやだとシャル君と言い合っていたラウさんが、突然動きをピタリと止めた。シャル君も少しして表情が無になる。
「どうしたん…」
「お出ましだ」
私の言葉を遮りラウさんがニヤリとした。
直後馬車は急停止した。
ダンッ
「来たぞ!」
外から扉を叩く音と怒鳴り声。ラウさんの意識はすでに外にいっている。
「カエデちゃん。最大防御して外には絶対出るな。これ命令な」
ラウさんの目が爛々としている。
「久しぶりだなぁ~シャル坊や。城にこもりっきりで鈍ってんじゃないの~?行くぞ」
「まさか」
不敵に笑うシャル君。
目は笑ってない。本気だ。
シャル君はこちらを向き今度はニッコリ笑った。
「大丈夫ですよ」
頭をポンポンされた。
「いってきます」
次の瞬間二人は飛び出した。
私は言われた通り腕輪に触れ防御をかける。
外では、激しい怒号と剣のぶつかる音。
…どれくらい経ったのか。
音が少なくなってきた。
私は自分で自分をきつく抱きしめていた。
我慢できなくなってきて、扉に手をかけ外に出てみた。
そこには何人…10人くらいだろうか。
既に息をしてない人もいる。まだ生きているが荒い息をし倒れている人と目が合う。
…その人の側に腕が転がっていた。
これは現実?
夢でみた時と同じ血の臭い。
──夢じゃない。
転がっている腕をまた見る。無意識に震えている手でその腕を拾い、倒れている人の側に近付いてその腕を近づけ目を瞑る。
元にもどって。周りの人達の傷も治して。
死んでしまっている人は無理だろうか。
ならせめて苦しまないように。
お願い、お願いします。
頬に砂利が当たった。
地面に倒れたんだなと思った。




