45.胃薬用意
私は神官長さん達に会う前にマリーさんに胃薬をお願いしておいた。本当は今飲みたいけど急で無理だよね。終わったら必ず飲もう!
シャル君に案内され部屋に入る。
「失礼します」
職員室に入る気分だ。
違う、もっと嫌。
案内された部屋は会議室に似ていてとても殺風景だ。でも、磨かれた長く厚みのある木のテーブルと椅子は高級感たっぷり。そしてそこに座っている二人の存在感。二人は立ち上がり挨拶してくれる。
「昨日は申し訳ございませんでした。お怪我は大丈夫ですか?」
神官長さんが、すまなさそうに話しかけてくれる。
「沢山寝たので元気ですよ。大丈夫です」
「だから神殿でなく城で正解だっただろう?」
謁見以来の宰相さんが不機嫌そうに話す。
私はこっそり宰相さんを観察した。30代後半かな。肩までのカールしたダークブラウンの髪を組紐のようなもので結び眼鏡の奥の瞳は意外にも綺麗なグリーンだ。
神官長さんと並ぶとタイプは真逆そうだけど、昔からの付き合いのような空気を感じる。神官長さんが私に説明してくれる。
「本来ならばヴィラスール神の使者であるカエデ様は神殿に滞在して頂くはずでした」
確かにそう言われてみれば。
「ですが、神殿内も残念ながら派閥や他国の者とつながっている者が侵入している可能性はゼロではないのです」
「現に昨日アッサリやられた」
お茶をすすりながら宰相さんが呟いた。
「その手引きした女も行方不明。まぁ生きているかも怪しい」
…怖いんですけど。
「そこで早めに手を打ちたい。まず御披露目という名の牽制。国民からの支持を得る事により他国が手を出しづらくする。あと使者殿には念のため自分の身を守る為にも攻撃魔法を学んでもらいたい。もちろんあくまでも自衛の為だ」
自衛とやたら強調してくるのは気のせいなのか。
「我々とは力が根本的に違うと聞いてはいるが、指導者を何人かつけるのでやってみてもらいたい。詳しい話はルーク副隊長に伝えておこう」
なんだか、急に忙しくなってきた。今度は神官長さんが話し出す。
「御披露目で舞っていただくのですが、練習や打ち合わせは、今後城で行う予定です。まずは、これを見ていただけますか?」
席の隣に置いていた、なにやら厳重な包みを私に渡す。
「開けて下さい」
私は慎重に箱を開けた。
「これは…」
それは巫女装束だった。




