38.油断
「詳しい話は後程、宰相からあると思いますので」
そこで神官長様が、悪い笑みを浮かべた。
「舞に関して私にも良い案がありますので、カエデ様とじっくりお話をする時間をとれるとよいのですが」
あの神様のような微笑みは嘘だったんですか?
今、どす黒いオーラ出てますよ?
「ひとまず、この話は後に」
「…はい」
抵抗するのも面倒になってきた。
なんだろう弱い自分。
私はまた杯もどきの前に立つ。石の台に乗り指先だけ水に触れる。今日は寝ないで直ぐ胚もどきに力を注いでいく。取り込んで開放し願う。
遠くまで届け。ヴィラにも。
「今日は力を上手く加減できたようですね。お顔の色もよさそうで安心しました。ではまた明後日お願い致します」
「はい」
帰りの際に、トイレに行きたくて借りる事にした。石造りのせいか冷えるんだよ。気遣ってくれたのか神殿の女性の人がトイレに案内してくれた。
「こちらです」
「ありがとうございます」
そして済ましてドアを開けたら。案内してくれた女性が立っていた。
あれ?
待っていてくれたのかな。至近距離で待たれていたのが恥ずかしい。でもお礼を言おう。
「ありがとうございま…」
「申し訳ございませんっ」
最後に見たのはその女の人のとても悲しそうな顔だった。




