26.私は空気清浄機
ふと見ると杯もどきの前に中の聖水を酌む時に使うのか長方形の石の台があった。
決めた。
やはりこれしかない。私は、神官長さん達にお願いする。
「祈ってみるので後のほうにいてもらえますか?あと時間が結構かかるかもしれません」
できるだけ離れてもらおう。
「外に1人置くか。ラウ、シャルは俺と待機」
「了解」
「はっ」
ルークさんが指示をだす。
そういえば、皆神殿に入ってから皆、全然話さない。少しピリピリしている気がする。
お仕事モードかな。
いけない、早くしないと皆を待たせちゃう。
私は膝をつき、台に組んだ両手をのせ祈りのポーズ。いえ、寝る事にした。授業中に肘をついて寝るような体勢をとる。皆の前で横になっては落ち着かないが、これなら格好もつく。後ろに下がってもらったからわかるまい。しかも私は今すっごく疲労している。
速攻寝た。
「あっ、寝ましたよ」
遠くからシャル君の声が聞こえた。
気配のプロ達にはもちろんバレていた。
──前は真っ白だったのに今日は灰色だ。
「やっほー」
ヴィラ様登場。
呼び方が面倒になってきた。
「呼ぶのヴィラでいい?敬語も面倒だし、神様というより、友達な感じだし」
怒るかな?
「うん、ヴィラでいいよ~」
意外と嬉しそう。
「本題はいろうか。楓ちゃんの騎士達あまり待たせると騒ぎそうだし」
「私の騎士?!」
いや確かにイケメン達に護衛してもらってるけど。わかってますよ自分の容姿は。
でも…。
「妄想は後よ楓ちゃん」
…なんでわかるんですか?
無視されヴィラは話し出す。
「サクサク説明するわょ。1~2ヶ月間この祈りの間に2日に1回くらい来て力をその杯もどきに放出させて欲しいの。そうすれば徐々に回復していくと思う」
杯もどき。私の心読んでますよね? 絶対。
「神官が聖水と呼んでる水はあくまでも副産物。治癒力が落ちたのは私が弱ってきていて、この世界を維持する力が足りなくなったから。まだ表だっては気づいてないだろうけど、2年前から綻びがでてきたの。まあその話しはまたするわ」
ヴィラは、周りを見渡すそぶりをした後、私にも見てと促してきた。
「今、周り濁った色で澱んでるでしょ? 限界きていて。楓ちゃん、体調よくないとこ悪いけどひと仕事お願いするわね。すぐ終るから大丈夫よ」
珍しく真剣な表情。本当にピンチなんだろう。
私でできるなら。もうこんな別世界迄きちゃったし。終わらないと帰れないなら、さっさと済ませたい。難しくないといいんだけど。
「どうやれば?」
「夜会の時みたく力を解放して、この杯もどきにその力を一気に込める。夜会の時の気持ちがベストよ」
ヴィラが見ていた様に言う。
「楓ちゃんはいわば、楓ちゃんの国の言葉でズバリ空気清浄機。全部取り込んで更にキレイにして吐き出す」
…なんか嫌だなその表現。
「じゃ、宜しくね! 少しの間しか話してないようだけど既に1時間以上はたってるから~またね~」
いつものように手をふりふり。
「ちょ」
短かすぎるよ!
まだ何も聞けてない。
「カエデ様!」
「うわっ」
みれば肩をルークさんに抱かれ支えられていた。近くには、心配そうな神官長さんとシャル君もいる。
「いきなり体が震え傾いて倒れかけたのです」
神官長さんが教えてくれた。
「会われたのですね。羨ましい。私はお声が聞こえるのみでお姿は見えません」
羨ましい?
そうゆうものなのかなぁ。いまいち信仰心が薄い私にはピンとこない。
それよりさっさとやりますか。
「いまからやります。離れていて下さい」
立ち上がらせてくれたルークさんにお願いする。私は杯もどきの前に立ち足に力をいれる。
そうだ。
先に後ろに下がったルークさんに伝えておく。
「終わったら絶対気失うとおもうので、あとよろしくです!」
「その体で力は!」
ルークさんが焦りだす。
「決めたから。やるって」
やるからには全力で。
私は、また昨日と同じ歌をうたいだした。
人がいるなかで、歌うのは本当に嫌。
私は上手い訳ではない。歌うのは好きだけど。
あくまでも家で好きな曲を聴きながら小さく歌うだけ。でも、そんな事言ってられない。
手を広げ集中。
皆の幸せを願うのがよいんだろうけど。
今日はヴィラの為に歌う。徐々に緑の光がでてきた。両手の指先を杯の水に浸けた。自然とそうしたほうがいいと思ったから。
力をもっと、もっと──。
光を注いだ杯から突然目が開けられないくらいの金色の光と共に大きな水柱が上がる。
凄い緑色が金色になった…成功したのかな?
私は目の前が真っ暗になった。
読んでいただきありがとうございます。
読んでもらえるって恥ずかしいけどすごく嬉しいという事を知りました。




