19. 騎士ルーク ~ 夜会~
ー ルーク視点 ー
使者が明日神殿に行く際の人員選抜などの打ち合わせを終え、1度騎宿舎へ戻り正装に着替える。ふと最近父親が死んだ為に帰宅した時、色々持ってきた箱に目が止まった。
確か黒い石が付いた留め具があったはず。
箱をあさり、取り出す。銀のバーの中央に楕円の黒い石が付いているだけの、そっけないデザインだ。
磨かれ光る石は、あの吸い込まれそうな瞳を連想させる。
俺は、マントに留めた。
相手の髪や瞳の色を身につけている者は、既婚者か恋人がいるという印になる。
──あくまで使者に変な奴等が危害を加えないように牽制するだけだ。どうせ意味があるなど使者は知りもしないだろう。俺は夜会の護衛の為使者を迎えに行った。
「まあ」
侍女達が俺の留め具に目敏く気付きニヤニヤしている。その視線を無視し入室してみれば、鏡の前に立っていた使者が振り返りこちらを見た。最初驚いたように俺見てその後、悔しそうな表情をしている。
なんだ?
俺も使者を不躾にならないように見た。
艶やかな黒髪は半分結い上げられ白い小さな花が飾られている。ドレスは落ち着いた赤。唇が塗られたのか妙に艶かしい。胸下に結ばれたリボンに目がいく。
…何故か色が俺の髪と同じだ。
彼女達が背後でひそひそと話をしているが、それらを再度無視し使者に手を差し出す。
使者は、迷ったあと手を差し出し握手しようとしてきた。通じていなかったようなので、その手を驚かせないようそっと手にとり俺の腕に添えさせると意味が分かったようだか、今度は下を向きプルプルと震えている。髪の間から出ている耳が赤い。
そんなに人に触れられるのが嫌なのか?
それか、やはり俺が嫌なのだろうか…。
俺は使者と共に夜会へ向かった。
夜会では想定していたような問題もなく、このまま終わるだろうと思われた。
だが、慣れない使者を座らせ飲み物を取りに行ったのが間違いだった。
飲み物をとり戻ろうと使者の方へ目を向ければ俺が以前婚約を断った令嬢の父、ダーキット公爵の黄色い頭が見えた。黄色頭の周りには、取り巻きの煩い女達もいる。
何故あの男が?
近くにいる男にグラスを押し付け、急いで戻る。近づくにつれ使者の表情が見え、俺の名前や侍女の名前が聞こえた。
使者の顔は無表情だ。
と、次の瞬間、使者は若い騎士に近づき何かを奪った。
それは、刃物だった。
彼女は何かを発し、刃を首の後ろに差し込み髪を切った。
「使者殿!」
俺は、呼び掛け人をかき分け走った。
使者と目が一瞬合った。
周りから悲鳴が起き、音楽が止み声がよく聞こえる。陛下達も気付いたようだ。
使者は王子へ話しかけた。
「贈り物を何も持っていないので祝福を」
そう言いながら切った髪を手に乗せ静かに歌い始めた。