11.派手な演出
「なっ、何を」
辛子おじ様は、かなり引いている。
「「キャー!」」
近くにいた女性たち。
「使者殿!」
ルークさんが人をかき分けながら走ってくる。
そりゃあ気づくよね。騒ぐから音楽も止まっちゃったじゃない。遠くの雛壇席から王様達も見ている。
まだだよ、これからだから。
「昨日来たばかりで王子様にお渡しするような品を持っていないので、祝福を贈りたいと思います」
王様達に向かって、面接で練習した爽やかスマイルを作る。上げすぎか?くらい口角を意識しあげる。切った髪を両手に乗せ目をつぶり、息を整える。
イメージは桜。
満開の桜じゃなくて散っていく時の。
そしてアカペラで歌いだす。曲は本当は桜にちなんだのがいいけど、もっと神々しさを出すために、有名な讃美歌を英語で歌う。この1曲しか知らないし、私は正直いまだに神様の存在を信じきれてない。
でもこの歌は、なぜか好きだ。
歌いながら手に意識を集中させ、髪を放り出すように手を広げる。
まず王子様へ、お誕生日おめでとう。
多分次の王様になるんだよね?
自分の理想の、皆が望むような王様になれますように。
次はすべての生き物に。
少しでも良いことありますように。
あっ辛子おじ様と煩い女性達以外で。
本物の神様じゃない私は心が狭いんで。
ねぇヴィラス様。
今、立ち位置確保の時ですよね?
手から緑色の光ペリドットみたいなキラキラした光が出てくる。それと共に何かが大量に身体から抜けていく感じがして足がふらつく。
今倒れたら台無しだ。
踏ん張れ。
イメージに集中する。
学校帰りに見た桜…上を見上げれば風とともに沢山降ってくる。儚くて、でもとても綺麗。
広く遠く迄飛べ。
乾いた地には雨を。
痩せてる土地には土に力を。
飢えてる子供達に食べ物を。
昨日きてこの世界の事はまだ何も知らない。だから自分のイメージしかない。皆が平和に暮らせますように。
綺麗事、偽善、そんなのわかってる。
でも願って力を飛ばす。多分あの美少女神様が願ってる。私は歌いながら更に手を上げ広げる。光は桜の花びらになって飛んでいく。
最初は王子様の胸に、それから皆に。胸元までくると消えていくのが視界の端に見えた。徐々に私の手から光もなくなり消えた後の手には髪もなくなっていた。
「場を乱してしまい申し訳ございませんでした。少し席を外させて頂きたいと思います」
他の人がやっていたように膝を曲げお辞儀をしニッコリ微笑んでおく。
颯爽と立ち去りたかったが、若干よろめく。
まだ駄目。
頑張れ私。
「使者様!」
ルークさんが追っかけてくる。
うん。来てくれないと帰り道がわからない。
とりあえず、ルークさんに笑ってみせた。