10.辛子おじ様
顔を上げ立ち上がる。礼儀として座ってるのもなんだしと頭の隅で冷静な部分が体を動かす。
「ごきげんよう」
19年生きて初めてこの言葉を言った。なんて似合わないセリフ。でもせめて上品ぶってみる。
「これはこれは使者様からご挨拶を頂くとは」
思ってもいないであろうセリフを吐いてくる。
しかしまた凄い髪の色の人だなぁ。辛子色、私は辛子が大嫌いっ!なんだけど、その髪をこれでもかとなでつけている。年齢は40歳過ぎくらいかな。口元を引き締めればダンディなおじ様にみえなくもない。その辛子おじ様は私を上から下までジロジロ見て。
「昨日突然城の隅にいらっしゃっとか。多忙な副隊長殿が護衛につくほどなのだから間違いないのでしょうなぁ」
再度私を見て
「お好みが合わなかったのも頷ける」
辛子おじ様が、わざとらしく呟く。口は笑っているけど目がゾッとするほど冷たい。辛子おじ様の傍にいた数人の女性達が
「あれ前シーズンのドレスの型でなくて?裾の部分も変わってるわ」
「あら、使者様ですものわたくし達とは感性も違いますわよ」
「でも確か侍女長がお付きなはずよ」
「まぁ。優秀な者だと聞きましたが」
周りの取り巻きの女の人達がくすくす囁いている。
「…」
私は確かに此処では怪しい人間ですよ。しかも容姿だって、人並み、いやここでは底辺だろう。それはいいけど。
ブチッ
今、私の脳内血管が切れた音がした。少し離れた所で警備している若い騎士さんに近づく。
「どうかされましたか?使者様」
黒目黒髪だからか知れわたってるのだろう。
「貸して下さい。小さいの」
「はっ?」
剣に付属している小さいナイフみたいなのを指差す。
「これは」
「貸しなさい」
「あっ、ちょ!」
乱暴にできないのか押さえつけようか悩んでる間に無理矢理引っ張って奪った。小さいけどちょうどいい。辛子おじ様の前に戻ると刺されるとでも思ったのかおじ様はざっと下がった。
刺せませんよ、刺したくないし。
「こちらに来た時、私は何も持っていなかったので、これで証明と覚悟が伝われば幸いです」
私は自分の後ろの首辺りに刃を差し込み
髪を掴み下からナイフを上に切り上げた。