第3部
翌日、彼らが学校へと向かうと、誰もいなかった。
「あれ?教室に誰もいない…」
ふと気付くと、そこは、体育館だった。誰かを探してここまで来たのだった。その時、魂を抜かれたように人々がそこで横たわっていた。
「どうしたんだ?今度は誰も起きてない…」
その次のことは、一瞬だった。大梧郎は、反射的に川卯の制服の首筋の部分をもって飛んでいた。そして、安全なところに着地をすると、こちらを見ている誰かがいた。
「あ〜あ、逃しちゃったか」
「仕方がないな。先ほどの跳躍は、激しかった。神と言えども予見する事は難しかっただろう」
「神…」
二人は、体育館のしたの所に立っていた。そこには、担任とそのほか二人がたっていた。
「誰だ!」
「ホムンクルス神とメフィストフェレス神だ。お前達のその剣の力を奪いに来た」
その時、自然に剣が出てきた。そして、話した。
"あいつらは、消滅した神だった。今でも生きているとは…"
「どういう事?」
"ずっと昔に、彼らは殺されたんだ。当時の神々の手によってな。それ以後、エネルギーはすべて空間外に拡散し、二度と出る事はないはずだった…"
「お前と同じだ。カオス神。魂と言う存在は、便利なものだ。ホムンクルス神として、長年君臨して来ていたが、スタディン神とクシャトル神の謀略にはまり、肉体が滅んだ。だが、それだけで死ぬようなことはないのだ。実の息子であるムカメイグルを殺したのも、彼らだ。東円大梧郎、相知川卯よ。そのような人殺しにお前達は組しているのだぞ」
「それって、本当?」
川卯が自らもっている剣のエネルギー源であるイフニ神に聞いた。
{ああ、本当だ。彼らは、我が血を受け継いでいた神だった。同族殺しを行ったが、それは、神々の会合の結論でもあった}
「結論?」
川卯が聞き返した。
"そう言う事だ。神々が出した結論は、大量虐殺を行っていたホムンクルス神の復活の阻止…そのために肉体を滅ぼす必要があった。この世界の神々は、前の宇宙空間で生まれた者達だ。だが、彼らを神にする時にすら、神々での会合が必要だった。常に新しい血を入れ続けていなければ、神々といえども一辺倒になり、最終的には滅びて行く…"
{我らは、運がよかったのか、それとも悪かったのか…過去にこそ答えはあり、未来にこそ結果はある}
それだけいうと、彼らは黙り込んだ。上の方で、ホムンクルス神とメフィストフェレス神が担任に何か言っていた。
「話し合いも終わったみたいだし、さっさと決着をつけよう!」
そう言うと、2神は剣へと変化した。
「さっさと終わらせる」
担任はそれだけ言うと、こちらに向かって飛びかかってきた。
一気に斬りつけると、半身をひるがえしてさらに追加攻撃を浴びせ続ける担任に対して、防戦一方の二人だった。
「つよっ!」
「さすがに太刀打ちできないね…」
そう言っていたが、偶然、大梧郎が振った剣が担任の腕を斬った。その瞬間から、反応が始まった。
「うっ…うわー!」
剣を2本とも取り落とし、その斬ったところを押さえた。すでに、黒く変色をはじめていたその部分は、徐々に全身へと広がっていっていた。急速な伝染だった。その後、担任は倒れ、全身を灰へと変えながら、風に流されて消えた。後には、骨すら残らなかった。
「これが、死剣の能力…」
"そうだ。これこそが死剣の真の力だ。健常者を死に至らしめる力をもっている。他の剣にはない能力だ"
「じゃあ、生剣って言うのはその逆って言う事?」
{そう言う事だ。生剣と言うのは、いかなる死者をもいき返させることができる。だが、死剣により殺されたものは、そもそも生き変えさせるもの自体が残らないほどに破壊されるので、生剣と言えども生き返させる事はできない}
そこまで言った時、二人の神がたっているのに気づいた。
「見事だった。大梧郎」
「ホムンクルス神…」
"ホムンクルス神は、元々神の中の神と称された存在だ。通常の神と比べ物にならないほどの量の力を有している。だが、それであったとしても、死剣にはかなわない。エネルギーを有しているものは、すべて死剣によって斬られることができる"
「さて、こちらは攻撃する意思がない。ま、どこかでまたであう時まで、ゆっくりと暮らしていたまえ」
それだけ言うと、2人の神は、一瞬で消えた。
「どこに行ったんでしょうね」
"知りたくもないね。最悪でも、彼らは全世界正史委員会中央評議会にはいないだろうがな"
「なにそれ?」
川卯が聞いた。
"全ての歴史の編纂所だ。時は止まらず、残すのみ。だったら、その残されて行く歴史を書いていこうと言うのが、目的として作られた、時間の守護をしている空間だ"
「へぇ〜、私達もいけるのかな?」
"神にでもなればな。だが、お前達ならなれる。新たなる魂の調節者としての神にな"
それだけ言うと、神々は、再び消えた。二人は、その場にたっている事しか出来なかったが、自然と歩き出した。
第4章 恋路の行方
体育館にいた人たちは、彼らが行くことには起きつつあり、どうにか生活に支障はない程度の傷害を負っている人もいたが、大体の人は怪我一つしていなかった。
「あってて…何が起きたんだ?」
「さあ、何かが起きていたんだろうさ。とにかく、生きている事に感謝だな」
そして、彼らは、日常生活へと戻っていった。
それから、1週間が経ったある日の事。家に帰っていた大梧郎と川卯は、大梧郎の部屋で勉強をしていた。その時、ふと、川卯は聞いた。
「ねえ、そう言えばさ、大梧郎は私の事どう思うの?」
「はぁ?何を聞いてるんだよ。幼馴染とか、そのぐらいしか思わないが?」
「じゃあさ、もしも、別の女の子の幼馴染がいて、その子が大梧郎に告白したら、大梧郎はどうする?」
「え?唐突だな…そうだな…相手にもよるけど、受けると思うな」
その時、大梧郎は川卯の顔が真っ赤になっているのに気付いた。
「どうした?顔が真っ赤だけど?」
「ここまで言って、何も気付かないの?」
「何の事だよ。女の子の幼馴染、告白……」
その時、大梧郎は気付いた。
「なあ、もしかしてと思うけど…それって…」
川卯は黙ってうなづいた。大梧郎は、ため息をついて言った。
「もっとはっきりってくれないと、俺の方も分からないだろ?」
「ごめんなさい…でも、こんな事いわないと、なんだか嫌われちゃいそうで…」
「そんな事ないさ。これまでも、こうしてきたんだ。関係が一段階進んだ程度で、どうこう言うような肝っ玉が小さな人間じゃないつもりだ」
そう言うと、大梧郎は川卯を抱きしめた。川卯は驚きの表情を浮かべた。
「ああ、いいさ。付き合ってやるよ。お前のこれからの人生全部にな」
その後、大梧郎と川卯は高校を卒業し、無事に社会へと溶け込んでいった。だが、たった一つ違う事は彼らが結婚した事だった。結婚後、彼らは子供も孫もできた。そして、幸せに暮らしていた。
エピローグ
「孫もできたし、思い残すことはないわね…」
川卯が言った。家の縁側で、2人は座っていた。
「そうだな…何も無いか…」
それだけいうと、2人は寄り添いながら、ゆっくりと倒れた。そして、肉体から魂が離れた。
いつの間についたのか、別の空間に彼らはいた。
「ここって、どこだ?」
"ようこそ、全世界正史委員会中央評議会空間へ"
「じゃあ、ここが…」
"昔言っていたところだ。お前達は神となり、魂の調節者となる。やってくれるな?"
2人は、目を合わせ、うなづいて言った。
「よろこんで!」




