第1部
プロローグ
古来より、伝えられてきた伝説によると、この世界には、どんな箇所でも、斬られた人を生かす事が出来る生剣と言われる剣と、どんな箇所でも、斬られた人を殺すことが出来る死剣と言う剣があると言う。その剣は、昔から2人の神によって保護されていた。しかし、その神は、別の神により滅ぼされ、その2本の剣の行方は長らく分からなかった。
第1章 ふた振りの剣
「ふぁ〜」
この日、眠そうにあくびをしていたのが、剣を受け取る事になる、東円大梧郎だった。
「おはよう」
「ああ、誰かと思えば、腐れ縁の相知川卯か」
「腐れ縁ってなによ!」
「構わないだろ?生まれた時に同じ病院、ほぼ同じ時刻、すぐお隣の家。幼馴染と皆に言われて高校まで来たんだから」
「構わないでしょ。べつに」
彼女は、そのまま、通学を再会した。彼は、そのまま、彼女のすぐ後ろを歩き続けた。
その日の放課後。同じクラスでもある彼女とともに帰っている途中、光が天から降って来た。その光は、二人の目の前で止まり、2本の剣を形作った。
「なんなんだ?これは…」
彼女と彼は、ちょっと怖がったが、それでも興味があったため、ちょっと近づいた。その時、直接頭に響く声で聞こえてきた。
"お前達は、神の子孫だな…"
「どういう事だ?神の子孫って?」
彼女が言った。
"遥か昔の世界が創られた時、世界の魂の量を調節するために、我らを作られた。生剣と死剣と言われる、ふた振りの剣を双子の神に渡した。彼らこそが、生と死を司る、いわゆる死神のような形の神になった。生剣は創造を司る女子の神になり、死剣は女子と反対の立場に当たる男子の神になった。しかし、それを邪魔に思った神々により、彼らは殺された。死ぬ直前に、この世界に生剣と死剣を送り、この世界にいる、彼らに非常によく似た二人、つまり、君達の事だが、その人たちに我らを託すことを言い遺した"
「つまり、遺言によって、ここに来たという事か?」
彼は、口に出さずに思った。
"そう言う事だ。だからこそ、お前達の目の前に現れたのだ"
「この世界に、そんな伝承があったわね」
「で、僕達に何をして欲しいって言う事?」
"君達ならば、我らを使いこなす事ができるに違いない。この世界にはこびる悪を、この世界に残っている善を、この世界に溢れている善とも悪とも分からないものを、君達の手で、生かすか殺すかを決めて欲しい"
「ちょっと待てよ。そんな大事な事を、僕達だけで決めても構わないのか?」
"迷う時もあるだろう。その時は、我らが手伝う。案ずるな。お前達のそばには常に神が見ておられる。正しいと思った方向に歩きなさい。その先に、答えが待っているはずだ"
声は、徐々に遠ざかっていった。なんだか分からなかったが、目の前に浮かんでいる剣を取った。その途端、体の中からしびれるような感覚が生まれた。それは、全身くまなく走った後に、ゆっくりと引いていった。
「結局、なんだったんだろう…」
「さあ……あー!」
突然、相知が叫んだ。
「どうしたんだ?」
「アニメの録画予約するの忘れてた…」
「そんな事かい!」
「それ以上に重要な事ってあるの?」
「……いや、もういいよ。とにかく、早く帰るんだろ?」
「そうよ、帰らないと」
そのまま、二人は走り出した。
マンションの最上階にある12部屋の内、2人はすぐ横並びになって、住んでいた。ベランダの間にある敷居を取り外し、さらには、部屋の改造までして、外に出る事無しに自由に部屋同士を行き来できる体勢を整えていた。この日も、二人は大梧郎の部屋の中にいた。
「ねえ、ここの勉強を教えてくれる?」
「はあ?またかよ。それだったら、ここでずっとしていたらどうだ?」
「えっと…それも、どうかと思うけど…」
大梧郎と川卯は、この日も大梧郎の部屋にいた。お互い下に妹と弟がいたが、本当の兄妹のように親しくしていた。
「ねえ、お兄ちゃん、ここ教えて?」
部屋の中に入ってきたのは、大梧郎の妹にあたる、東円蛍子だった。彼女は、小学校6年生になったばかりで、中学校は私立に行こうと考えていた。
「どこだ?」
大梧郎は、妹の方に向いた。
「ここなんだけど…」
「ああ、ここはな…………こうやってするんだ。分かった?」
「うん!ありがとう!」
蛍子はそのまま、部屋から出た。
「…優しいね」
「そうか?妹なんだし、それぐらいするのは普通だと思ったが?」
「そうかもしれないけど、ほらさ、私の弟なんて、同年代の子らから見たら天才的な頭脳でしょ。だから、私が教えることはないんだ」
「そう言えば、どこに行くって言っていたっけ?」
「集英は、蛍子ちゃんと同じ年なのに、飛び級して、高校に行くって言い出してるの」
「いいんじゃないか?高校に行ったとしても」
「私と同じところに来られちゃやなんだってば!」
「大丈夫だって。そんな公立に行くような頭じゃないさ。どこかの付属とか、そんな所に行くだろうよ」
「そうかな…」
「そうだよ」
「そうそう、それよりも、ここを教えてよ」
「ああ、そうだったな。ちょっと見せて」
それから1時間ほど。彼らは5教科ほど勉強をし合った。
「ぅうーーん…」
川卯がのんびりと背伸びをした。
「つかれたな。それに、もうそろそろ晩御飯の時間だろ?」
「そうだね〜。とにかく、帰るよ」
川卯が立ち上がろうとした時、ちょっとふらついた。
「おっと。大丈夫か?」
大梧郎は、そんな彼女の肩をやさしく支えた。
「大丈夫。ありがと」
そして、部屋に作られた扉を通って、川卯は元の部屋に戻った。
扉を閉めてから川卯は、自分の部屋を見回した。生まれてきてから、引っ越したこともなく、大梧郎との部屋に直結通路を作ってもらったのも、彼の事が気になったからで、本当は好きだったという事に気付くのも、ここ最近になってからだった。
「はぁ。私、どうしたらいいんだろう」
彼のことが好きなのに、その気持ちを伝えたら、彼に嫌われるかもしれないし、私がどうにかなるかもしれない。それを考えると、この気持ちは私の心の中に閉まっておくのが一番なのかもしれなかった。
「でも…」
考えれば考えるほど、頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。
「かわうー、ごはんよー」
「はーい」
部屋の向こう側から、川卯の母親が呼んだ。彼女は、もう1回背伸びをしてから、部屋を出た。
翌々日の日曜日から月曜日にかけての夜。彼ら二人は夢を見た。
暗い部屋の中。二人だけが対面して桐で出来たいすに座っている。
(「ここは?」
「分からない。俺達が、なんでこんなところにいるのかも。ここがどこかも」)
{ここは、闇と光の部屋と言われているところだ}
彼らの左右から、二人の人が歩いてきた。
「誰?」
[サイン神とアントイン神と言うもの。死を司っていたサイン神と、生を司っていたアントイン神という、昔々にこの世界から図らずも去ってしまい、一時的に魂の循環を妨げた者だ]
「じゃあ、死剣と生剣の元々の所持者?」
{そうだ。世界は変わり続けていた。しかし、魂は今でも変わらない}
「魂の調節者としての二人の伝説しかなかったから、実際の二人が目の前にいる…」
彼らは、笑っているように見えた。
「しかし、なぜこんなところに?」
[別の神に食われてからも、魂だけは失わなかった…]
{我らは苦痛の中で旅をした。しかし、渇きは満たされなかった…}
「どういう事?」
[実在の体がない今、その役割を誰かに頼めるのはこうやってする方法しかない…]
「他人の夢の中に干渉して、自らの気持ちを伝えるという事か…」
{お前達に託したのは、この世界の中で、最も我らに近いからだった。今でも確信している}
そう言うと、彼らは、剣を差し出した。あの剣だった。
{そなたらは、これを有する資格がある。この世界中の全ての魂の調節者として、この剣を不当な目的に使用されることがないように、そして、世界中の魂に平穏を与える事を目的として、この双振りの剣を与える}
「名前とかあるんですか?」
[過去には正式な名はあった。しかし、その名は、今となっては失われた]
{これらの剣は、我らから与える最初で最後のものになるだろう。我より与えられるものを死剣を呼び、人々の魂を生剣に送る役割を持つ。アントイン神より与えられる者を生剣と呼び、人々の魂をこの世に送る役割を持つ。大梧郎と呼ばれし者よ、そなたに、我からこの剣を贈り、川卯と呼ばれし者よ、そなたには、アントイン神よりかの剣が贈られる}
[平常ならば、滞りなくその業務を果たしてくれるはずだ。だが、時には、そなたらの手によって選ばなければならない時も訪れる。その時、そなたらは正しい選択を選ぶ事ができるのか?]
「ちょっと待て!その時ってどんな時なんだよ!」
大梧郎は神に対して言った。しかし、神は何も答えなかった。
そこで、夢から覚めた。
「…さっきのって…」
大梧郎は、確認するために、静かに部屋のドアを開けて川卯の部屋に入った。川卯も起きたところらしく、はっきりとした意識の中で、大梧郎の方を見ていた。
「ねえ、私、夢を見たんだ…神と会っている夢」
「生剣と死剣、二つで一つっていう事か?」
「なんで…知っているの?」
「俺自身も見たからだよ。おそらく、俺の方が死剣だろう。そして、川卯の方が生剣を継承した…」
「っていう事だよね…」
生剣と死剣、この2本の剣は、世界の魂を調節すると言う目的以外にも、別の目的も存在しているのだったが、今の彼らにはそれがわからなかった。




