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あるゴロツキの胸に沈む憧憬  作者: きりま
初期案二章

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二部 急襲

 声をかけてきたのは、どぶに浸して天日干ししたような色のローブをまとった男だ。髪の色も枯草色のため、頭から泥をまぶしたように見える。


「どしたのソル。変な声あげて。なにかある?」

「ぬぼーっと、こんな奴が現れたら叫ぶだろ!」

「ねぇそれより敵は? どこにいんのさー」

「お前、まじで言ってんのか? たった今、馬車を見たろうが」

「え、爪とか牙とか生えてなかったと思うけど……」

「獣じゃねえよ! 人間だ馬鹿!」


 馬車を前にして、周囲を見ようと騒いでたのはそれが理由かよ!


「さっきのが? ただの物売りじゃないの?」

「ええ物売りでしたな」


 ライに答えたのは、気が付けば傍らに立っていた枯れ男だった。


「うぉっ、だから何なんだお前は!」

「怪しい者ではござらん」

「怪しい以外あるか!」

「いえいえ旅のしがない占い師でして」

「占い師だ?」


 なぜか誇らしげに胸を反らし、突き出た細い鉤鼻が邪魔なのか引きつるように口をゆがめた笑顔で、男は大きく頷いた。


 大陸のあちこちで部族が好き勝手に暮らしていた、国として結びつく以前、呪術を用いた医療行為などが当たり前に行われていた。

 俺がいたのは国主導の開拓地だから、一応は医術師と呼ばれる鼻持ちならない男も派遣されてきたが、現在でも医術師の確保は難しく未だ呪いの類がまかり通っているところもあるらしい。


 その呪術の一つとして、占いなどといって嘘八百を並べたて人心を惑わす術があると聞いたことがある。酒の席での戯言だ。

 ますます胡散臭い。


「……てめえ、今の物言いは、さっきの馬車の仲間だろうが」

「乗っては来ましたが」

「やれ」

「あいよ」

「誤解ですので! 仲間ではないのでして!」


 見つかって人を寄越されたと思ったが、一人ってのは妙だ。

 後に続く者はないように見えるが。


「首を絞めないでほしいでござるぅ!」


 見た目通りに力がないのか、首根っこを押さえられた男は体を左右に小刻みに揺すりながらも、それ以上に暴れる様子はない。


「ライ、他に気配はあるか」

「うーん、ないね」


 男を視界に入れたまま俺も周囲をそれとなく探ったが、目に付く範囲にはない。

 相手が本物の兵なら俺などに見つかるヘマはしないだろうし、そもそも声をかける前に斬り捨てられている。


 そうだとしても、こいつの行動が怪しいことに説明はつかない。

 男に向き直る。


「なんで声をかけた」


 俺が警戒を緩めたと思ったのか、男は笑顔で頭を前に突き出す。

 まだ首は押さえられているのに器用なことだ。


「あ、申し遅れましたな! 俺は旅の占い師、デビナシォン・ルウリーブ! その内、大陸に名を轟かす大占い師でござるよ!」


 嫌な予感はしていたが、頭に問題ある奴か……。

 馬車に乗っていたのかってのは俺が口走った。それに合わせた嘘かもしれん。

 さすがに、たまたま徒歩の旅の途中で、この状況で出くわすなんぞ偶然にすぎるのは分かってるが……。


「もうちょいで町だと知ってたろ」

「もちろんですとも」

「それでわざわざ荒野の途中で降りるかよ。奴らに何を言われた」

「ですからー、便乗していただけです。俺はここで降りるべきだったのでして」

「信じられるか。ありゃ砂漠の奴らだろ。お前もじゃないのか」

「確かに俺も砂漠の出ではありますが、たまたま通りがかって乗せていだいた相手のことなど知る機会もそうはござらん」


 たまたまだと?

 計画立った行動に見えたのに、こんな怪しい奴を乗せるか?

 それとも、向こうではこれが普通なのか?


「あ、俺は身を立てるための手先の術を学ぶ氏族の出なのです。糧を得るためあちこち巡るのに、ああいった馬車を見つければ頼んで乗せてもらうのですよ」


 確かに、こっちの国を巡ってる旅芸人たちも、ほとんどが砂漠側出身だ。

 売り物が被ってるせいで、いがみ合ってるこっちの国と砂漠側の国。大きな違いといえば芸能関係くらいのもんだと聞いている。


「砂漠の近くに新たな町が幾つかできるというんで、こりゃ一儲けできるやも! と勇んできたのでありまして~」

「旅芸人なら余計に一人ってのはおかしいだろ」

「芸人ではござらぬ! 占い師ぃ!」

「だから、なぜこんなところで降りて、しかも俺らに声をかけた。普通は盗賊だと思うだろうが」


 そうだ、俺自身がそう考えたくらい怪しいだろ。お互いとはいえ。

 また少し警戒心が戻って睨むと、男は慌てだした。


「説明をば! 長い事、荷台で揺られると暇でして! ちょこっと占いで気を紛らせていたらば、ここで降りろとの報せが入ったのです! しかも三度。こりゃ無視してよい規模ではないと思いましてな。いやはや俺もさすがに度胸が必要でした」

「嘘こけ! 俺たちが見えてたんだろうが!」

「えー、本当ですのに。どれ、これも何かの縁。無料で占ってしんぜよう」

「ほんと!? あたしのパン! 明日もたらふく食える?」

「釣られるな!」

「ふむ。短期の先見ですな。ちょこっと占いからは、はみ出る規模ですがおまけですので」

「楽しみだね、ソル!」


 ライはすっかり信じているらしい。この胡散臭さが見えてないのか。

 懐から武器でも取り出すかと思ったが、滑らかな動作で袖口から取り出したのは、短い竹串のようなものだ。

 俺は身構えたが、そいつは自分の目の前に両手で棒を立てて持ち唸りだした。


「むにゃああああああ!」


 男が唸った次には、竹串が増えて扇子のように広がっていた。


「奇術師かよ!」

「占い師です!」

「ねぇねぇ、それより結果を教えてよ」


 いよいよもって胡散臭い。

 いつまでも相手にしてるわけにもいかないが、このまま連れ帰るか。

 考えていると、男は竹串を見つつ渋面を浮かべた。


「ふぅむ、おかしなことですな。たかが日々の糧を得るのに、このような結果が出るとは」

「どうだったの?」

「危ういと出てますな」

「食えないの!?」

「お、落ち付くので! 現状では危うい、ということでして。今後の行動如何によっては、難は去りうるのであり……しかし明日のことですからな。今からといえども、うーん」

「えっ、結局どうなのさ! 食えるの食えないの!? 訳わかんないよ!」


 そういうことかよ。

 男の言いぐさにバカバカしくなって鼻を鳴らした。


「馬車の奴ら。あいつらは砂漠の住人なのは確かだな?」

「それはお話した通りでして」

「武装してたろ」

「おお、それはお話ししてませんでしたな……まさか貴方も占い師なので!?」

「ちげーわボケ。チッ、想像通りかよ……ライ、さっきの奴らは町を襲う」

「えー!」

「えー!?」

「てめぇまで驚いてんじゃねぇよ!」

「い、いやいや隊商なら商人が武装していても当たり前っていうか、俺は稼ぎに来たのですからして! 市民を脅かされては困るので!」


 左右に揺れながら泡食って喚きだした。

 本当に、便乗してきただけなのか?


 とにかく、馬車の数は多いが、あれくれぇなら少ない町の衛兵でも間に合うだろう。

 野郎どもは飲んだくれ始めた頃合いだが、荒事に怯むような奴らでもない。

 ただ――食堂の女や、足を悪くしていた畜舎の親父が頭を掠める。

 ……酒場の用心棒に叩き出されるような俺が向かったところで、意味はない。


「救わなきゃ! あたしのパンんっ!」


 俯いた隙を突かれ、ライが俺を小脇に抱えた。なぜか逆側には占い師が。


「えぇと、なんですかな。俺は芋袋ではないので?」

「急ぐよ!」

「ま、待てぁああああああ!」

「ふほおあおおおおおおお!」


 またこうなるのかよ!



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