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あるゴロツキの胸に沈む憧憬  作者: きりま
初期案二章

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六部 一つの終結

 その場から襲撃者達の姿が見えなくなっていくと人々の口は閉ざされ、夢から覚めたかのように、ふらりと動き出した。

 目に付いた木片などを目に付く端から拾っては集めていく。


 多分、誰もが似たような心境なんだろう。体を動かすことで、動揺を鎮めるためなのか、視界の悪い中だろうと朝まで待つ気にはなれなかった。

 なんにせよ、このまま眠れる気はしない。


 荒れた通りを片付けるために、俺も痛む足を引き摺ってのろのろと動き出そうとして、真っ先に動かすべきもんを思い出した。

 寝ていたライを揺り起こす。


「んー、もうパンが昇った?」

「何言ってやがる。起きろ。道端で寝るな」


 大あくびをして起き上がったライは、先ほどとは打って変わって力なく見えた。


「久々に動いたから、お腹空いたよー……」


 常に無茶な動きしてたが、あれは勘案されねえのかよ。

 明日もまともな食いもんにありつけるかは分からない。


「まだ動けるか? あっちのでかいもんを片付けたい。これでどうだ」


 まだ手を付けてなかった貰いもんの食料から、野菜の詰まった袋を押し付けた。


「干し野菜? 食べる! これならまだ暴れられるよ」

「暴れるな。その元気があるなら、あの馬車も一人で引っ張れるんじゃねえか?」

「そのくらいでいいの?」

「そんくらいって……まあいい。まずは、こういったもんを除いてからだ」


 屈んで、飛び散った木や布やらの残骸を手にとる。

 それから、通り沿いに目を向けた。

 道を空けたら、あいつらを連れて行ってやらねぇと。


 人の集まる場所を見ると、誰かが無事な荷車を持ってきて、そこへ破片を集めていた。俺もそちらへ向かう。


 改めて辺りを見渡せば、建物から上がっていた火は消えている。

 騒動の裏で、奥に引っ込んでいた住人たちが動いていたようだ。

 ぽつぽつと残っている火は松明の灯りだけ。


 最も燃えていた馬車も、すでに泥がぶちまけられており、煙を吹き上げてはいるが、その奥を赤く染めているだけだ。間もなく消えるだろう。

 項垂れ気味ながら、人々の動きは次第に調子を取り戻しつつある。少しずつ会話も戻り始めていた。

 そんな中、俺に声がかけられた。


「ソル。お前が戦えるとは思わなかった」


 鼻曲がりの親父。


「ライの陰に隠れてたのは見てたろうが」

「それでもだ」


 続けるように別の声。


「ああ、お前が気付いたらしいな。よく知らせてくれた」


 率直な労いに驚いた。それは路地で寝ている俺をなぶることのあった兵だ。


「でかい女に担がれて攫われたときは、どうなるかと思ったがな」


 ライ……えらい早く連れてこれたと思ったら。


「まずい……、南側のことは聞いてるか」


 それには別の兵が答えた。


「心配ない。話を聞いて向かったら、あっちからやってきた。すでに馬車も差し押さえてある」


 俺が知る範囲での心配事はなくなったようだ。

 ただ俺は頷いて、頭を目の前へと切り替えることにした……のを邪魔する者が。


「いやぁ、実に驚きましたなぁ」

「うぉ! てめぇ、今までどこにいやがった」


 場にそぐわぬ間の抜けた声は、全身煤だらけの占い師だ。


「俺は戦う術など知りませんので、延焼を食い止めようと頑張っていたらば倒れた角材の下敷きになって身動きできなくなりましてな。親切な皆さんに助け出されたところなのです!」


 なに偉そうに言ってんだ。人の邪魔してんじゃねえぞ。


「動けるんだな? ならお前も手伝えよ」

「無論そのつもりでして」


 兵たちもいつもの調子を取り戻し、指示の声を上げる。

 まずは倒れた住人を板きれに乗せた俺達は、開けた場所へと移動させていった。

 弔いは夜が明けてからになる。




 何度も薄暗い道を行ったり来たりする、山盛りの大荷物を抱えたライの隣に並んで歩く。

 呆れを呑み込み真面目に問いただしていた。


「ライ。お前、本当はなんなんだ」


 こいつが居なければ、この町は大損害で済んだだろうか。

 こいつが来なければ、俺が町を出ていこうとしたのは、もっと先だったろう。

 真っ先に死んだのは俺だったかもしれないってのに……。


 あの戦いぶりは専門に訓練してきた動きだ。

 なにしにこの町に来たのかと勘ぐりたくもなる。

 しかしライの反応に変化はない。

 きょとんとして俺を見る。


「あんな戦い方、咄嗟に出来るもんじゃねえ。傭兵やってる一族の出か」


 それすら見聞きしたこととも違う。

 あいつらは武具などの扱いも含めて、集団での行動をガキの頃から学ぶという。

 己の身一つでの戦闘術など聞いたことはない。運悪く武器を手放したときの立ち回りに役立つくらいのもんだ。

 だがこいつは幾らでも機会があったにも関わらず、木切れさえ拾わなかった。

 ……いや、兵は投げていたが。


 ようやく俺の言葉を理解したのか、ライは「喧嘩のことか」と呟いて頷いた。


「あたしの村では普通に習ってたよ?」

「どんな村だよ」

「力こそ筋肉だって習わし」

「意味わからねぇ。筋肉があっから力が出せるんだろうが」

「あれ、そうだったかも? 座って話を聞かされても頭に入んなくてさ。動けば力が覚えてくれるから大丈夫ってね!」


 そんなとんでもない村があるなら、噂にもならないのは不思議だ。

 もちろん、俺のいた村のように知られようのない僻地ってのはありえる。

 ただ、先の話に出した傭兵の一族のような奴らを、上の大商人連中が金を出して維持している。

 ライのような奴がごろごろしてる村などあるなら、取引してるはずだがな。


 そこで聞き辛い発音の名前だったことが引っかかった。偽名なら普通はもっと単純なもんを選ぶ。

 だったら、この辺の国の外から来たのは事実だろうか。

 喋りに訛りは感じられないが、間抜けた話し方のせいで分かりづらいのかもしれん。


「大陸の外から来たと言ってたな」

「うん、南の島の一つだよ。海にたっくさん小島が浮いていてね。それでー」

「あー、それでだ。言葉は同じなのか?」

「ううん。父ちゃんが、こっちの大陸の、どこかの国の商人だったらしいよ?」


 よくある話だった。

 世界のどこにでも物売りにでかけるという、この国の商人連中は、今より遥か昔でさえ渡るのも難しい荒れた海を越えて島にたどり着いた。

 そこの女を誑かして、そのまま帰った奴がいるというこった。


「まさか、そいつを探してるとかいうなよ」

「それはないよ。話を聞いてたから、見てみたくなって出てきたんだけどね。たっくさん売るほど物が溢れてると思ったら、こんなに食べ物に苦労するなんて思わなかったよー」


 そこかよ。ぶれねぇな。

 どこまで本気なんだか。


 まあ、世の中には色んな場所があり、人間が居るってこったろう。

 ……あいつら、砂漠から来た奴らのように。



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