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疾駆伝 伍 追想~到達~

信長視点による戦国疾駆本編の回想他(終)です。

ペラリ、ペラリ……。


昨夜は良い夢を見て、気分爽快で目覚めた信長。

朝一から読破を目指して残りのページを捲り続けている。


「……ふむ。」


そしてついに、最後の一冊が終わる。

信長は暫し瞑目し、読了の感に浸っていた。


ややあって目を開けると、清々しい気持ちになっていることに気付く。


「良い物語であった。やはり、早めに記録させておいて正解だったな。」


早々に増刷を命じなければと考えつつ、親友と感想を言い合いたい衝動に駆られる信長。


「よし、アイツの屋敷に出向くとしよう。」


思い立ったらすぐ実行。

位階が上がったとて、信長のフットワークは実に軽い。

信清を見習っての行動だったが、まさかこんな時にも発揮されるとは。


当の信清は、軽く流し読みして相当精神を削られていた。

とても和気藹々と感想を言い合える状態ではない。


そんなこととは夢にも思わない信長は、ワクワクしながら信清の屋敷に向かっていた。

道すがら、天下統一の仕上げについて思い起こしながら。



………。


……。


…。



* * *



東は信清に一任し、俺の目は西を向いていた。


未来を志向するならやはり西が大事。

これは初期から変わらぬ、俺の信条だ。


ただ別に、東を疎かにする訳じゃないぞ。

あっちは信清が居るから、特別問題視する必要が無いと言うだけだ。


実際、問題はなかったし。


北条は臣従したし、上杉も実質滅びた。

宇都宮や伊達も滅び、佐竹や蘆名は降服。

斯波氏繋がりで最上と大崎を利用し、奥羽も容易く平らげたからな。



一方で西も、四国は長宗我部が降伏し河野は滅亡。

中国の毛利は大国だったが、水軍や四国から圧迫をかけて滅亡寸前まで追い込んだ。

これで残るは九州のみだな。


因みに毛利には安芸一国だけを安堵し、分家の穂井田に備後一国を安堵した。

これらは、信勝から奏上されたものを俺が認可したものなのだが…。

まあ、例によってアイツの入れ知恵だったようだ。


毛利一族は、我ら織田や北条と同じく結束力が高い。

一族の結束は大いなる力となる。

だからこのような楔を打ち込むかのような処分を降した、と考えるのが妥当だろう。



それはともかく、残るは九州のみ。

しかし、これも然したる問題は無かった。


むしろ問題なのは、俺の夢を笑った信清だ。

九州を橋頭保に、朝鮮から明・天竺までも制覇してやろうと言う俺の野望。

アイツめ、不可能だと失笑しおって……。


まあ、ちゃんと話を聞くと確かに厳しいとは思ったが。

理を感じつつも、笑われたことに憤慨して殴り合ってしまった。

やれやれ、もう我らも若くないと言うのにな。



* * *



天下統一の総仕上げ、九州征伐には俺も参陣した。

無論、アイツも一緒にな。


思えばアイツと轡を並べて戦に出た回数は、実はかなり少ない。

それだけ信頼していたと言う事だが、今思うと惜しい事をしたやも知れんな。

しかし最初と最後は共に。

親友たる我らに相応しいと言えよう。



それなのにアイツときたら、さっさと引退するなど。

許せる訳が無い。

これからの国の有り様を考えるのに、むしろ俺以上に必要であろう。


そんなことを言う奴は、死ぬまで扱き使ってやるわ!



実質的に天下を治めた俺に、最早敵は居ない。


室町将軍たる足利義助も、大人しく自ら将軍位を返上した。

しかし足利義昭と言う比較対象が居るせいか、義助がとても良い奴に見えるな。

奴は足利宗家として、せいぜい優遇してやろう。


あとは信清主導で、南北の開拓を促進。

蝦夷地や琉球などを手中に収めた。

今後は更に北方や、西方・南方にも手を伸ばすつもりらしい。


俺は政治面を充実させるべく、太守制の導入などを進めさせた。

そして朝廷や寺社の保護だな。


因みに朝廷に対しては官位の申請を始め、特に何も働きかけはしていない。

逆に院領の回復など、天皇に直結する要望は素直に聞いておく。

一部を除き、公家どもの要望は無視する。


いつか信清が言っていたが、無言の圧力とは恐ろしいものだ。

こちらが何も言わずとも三職を提示してきたわ。


まあ、俺としては公家どもは潰れても構わんのだがな。

だがせっかく提示してくれたのだ。

有難く頂戴しておこう。



俺は遂に、征夷大将軍に就任した。



* * *



当初は平家として太政大臣とも思ったが、清盛入道のようになるのは御免だからな。

関白も、まあ朝廷の職に食い込むのは余り宜しくないとアイツも言っていた。


平家として、将軍に就任するには異論もあったようだ。

だが提示したのは向こうだ。

押し切った。


天下を取ったのは、桓武平氏の織田家である!

今更、足利や斯波の養子になるなど有り得んわ。



……長いようで、あっと言う間だった。


幼少の折、従兄の前で天下を取ると宣言したあの日。

多くの一族の力を糾合し、日ノ本全土を駆け抜けた日々。

そして遂に、皆の力で天下統一を成し遂げた。


漠然と、己が将軍になって天下を睥睨してやると思っていた。

それが現実になった今、俺は感動に打ち震えている。


それもこれも、全ては隣で微笑む親友のお陰。



だが、いくら言っても隠居願いは受理せんぞ!



………。


……。


…。



* * *



「信清!居るか?」


「あーはいはい、居るよ。朝っぱらから何だよ。飯食ったんか?」


信長は、信清の屋敷に到着するや彼の部屋へ直行する。

勝手知ったる友の家。

周囲の家臣らも、慣れてしまって止める者は居ない。


そして文句を言いつつも、朝食を差配する信清。

邪険な物言いも既に口だけだ。


「うむ。この書物の感想と思ってな。」


「まじで一晩で読みやがったコイツ!?」


「ふ、当然だ。まさか貴様、読み終えてないなどと……」


「終わる訳ねぇーだろーがぁーっ」


全力で読破に注力した信長は、今朝がた読み終えてすぐにやってきた。

なのに、信清が読み終えている筈が無い。

判ってて言っている信長は、実にご満悦の様子。


やいのやいのとじゃれ合う二人に、周囲の者は生温かい視線を注ぐのであった。


信清の削られた精神に止めを刺すのは、間違いなく信長である。

終焉の時は近い……。



以上でご要望頂いたり、書こうと思ったオマケは概ね完了です。

年表は軸からして無理そうですので、何とぞご容赦下さい。

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