第四話 宣誓
鉄砲。
この時代の革新的な武器の代表的なもの。
そして、伝来後の拡散スピードが尋常じゃなかったことでも有名だ。
そんな鉄砲を、初めて信長に見せて貰った時、俺は。
スッゲー!
超かっけぇぇーーっっ!!
大はしゃぎした。
* * *
いやね。
正直舐めてたよ。
現代の兵器と言うものを知っている者からすれば、火縄銃なんてオモチャみたいなもんだろと。
とんでもない!
勿論現代の拳銃と並べてどっちか選べと言われたら、そりゃ拳銃を選ぶよ。
でもね?
今、戦国時代。
遠距離武器は、投石か弓矢くらいなんだ。
石だって直で当たれば死ぬこともあるし、矢なんて刺さったら死ぬ。
そりゃそうだ。
現代だってそうだもん。
しかしだ。
投石も弓矢も、鎧を着ていればある程度は防げる。
まあ、強弓みたいな奴なら厳しいかも知れんが。
それはともかく、鉄砲は防げないんだ。
距離が近けりゃ即死もんだぜ。
まあ、細かいことは良いんだ。
まず、試射の的が四散するなんてこと、石や弓では不可能だ。
そして、その音。
炸裂音っての?
俺、大興奮。
ドヤ顔の信長を尻目に、有用性と実効性について討論を始めていたさ。
一人で。
流石の信長もドン引きだったようだ。
* * *
この鉄砲の一件で、信長は俺への信頼を確定させたらしい。
曰く、「同じものが見えている」と。
嬉しいような擽ったいような、何やら後ろめたいような。
ま、知識とかそんなんは今更だ。
さて、そんなことより鉄砲だ。
あ?
雨が降ると使えない欠陥品だ?
そんなん工夫次第で何とでもなるわ!
日本人と言えば工夫だろ!
ある種、変態とも言える日本のお家芸!!
伝来後の普及率の右肩上がりっぷりは、まさに変態的だったはず。
まあそこはいい。
問題は火薬だな。
硝石は国内では取れない。
だが待てよ?
硝石が出来れば良いのだから、化学的なアレコレを駆使すれば……。
よし、善は急げ。
領内でコッソリ製作しよう。
何、細かいとこまで自分でやる必要はない。
最初と時々、幾つか指示して後は任せてしまえば良い。
権力とは、使うためにこそあるのだからな!
あ、そうだ信長。鉄砲何個かくれ。
は?貴重品だからダメ?
なんだケチだな。
見せびらかすだけとは、小さい奴め。
痛っ!
おま、鉄砲投げ付けんな!
危ないだろーがっ。
あ、くれてやる?
おお、ありがとよ。
待ってろ、後で良い成果を返してやるよ!
ん?
……さあ。
数年後かな。
あ、痛い!
判った、判ったからっ!
大丈夫、秘密にはしないよ。
おう、親友だからな。
……おやぁ?
ククク、照れてるのか!?
おおっとぉ、そう何度も当たると思うなyうべぁっ
* * *
試行錯誤の末、硝石を量産することに成功した。
数年使った上に量もそんなに取れないが、ゼロとイチでは大きく違う。
遠からず、成果を見せつける日が来るだろう。
新しい時代の幕開けが、すぐそこまで迫っている予感があった。
* * *
ここにきて俺は、改めて方針や目標を再考することにした。
最初は、”意志を持って流されるがままに生きる。”だった。
と言うかこれ、考えることを諦めただけだよ。
明らかにダメだろ。
破棄だ破棄!
次に、”信長に逆らわず大人しく従う。”とした。
これも、もう無理。
と言うか、今の状態で俺が信長に逆らう可能性は皆無だ。
それでいて、大人しく従うだけとなるハズもない。
なんせ親友だからな!
そこで、新たに目標を決めることにする。
それが、”織田一族の死亡フラグを叩き折って行こう!”だ。
* * *
信長を含め、織田一族には死亡フラグが乱立している。
信長は本能寺の変で謀反を起こされ炎の中に消える。
同時に、嫡男信忠ほか、五男信房に弟長利、連枝衆もいっぱい死んだ。
一向一揆との戦いでも信広殿を始め、多くの一族が戦死した。
尾張統一の過程もそうだし、今川の侵攻の時も捨石ばりに玉砕していった。
他にも詳しくは知らないが、沢山死んでるだろう。
……どう考えても、全部は無理だ。
しかし今まで生きてきて、信長を始めとして色んな繋がりを得ている。
だからせめて、俺の手が届く範囲はカバーしたいと思う。
少なくとも、俺と信長の一族へのフラグ回避には全力を尽くしたい。
元々この人生がどういった理由で始まりのか不明だし、今後どのように終わるかも判らない。
だけどな?
せっかく信長と同世代に生まれ、親友になり、義兄弟となれたのだ。
天下統一を目指して、全力を尽くしたいと思うのは不思議でも何でもない。
「この乱世を精一杯、信長と共に駆け抜けてやろうじゃないか。」
「は?何言ってんだいきなり。」
やべ、声出ちゃった。
信長が呆れたような目でこっちを見てる気がする。
いいじゃないか。
決意表明だよ、決意表明。
目を逸らしながら心中で言い訳する俺、カッコ悪い。
──フッ
隣から、呆れ交じりのため息が聞こえた。
やっべー超かっこわりぃー、自己嫌悪に陥る俺を尻目に、信長の声が辺りに響く。
「応とも。信清と共に、この乱世を駆け抜けようぞ!」
へ!?
思わず目を向けると、ニヤリと笑う信長が目に入る。
おおおっ!
何だこの信長。
やっべー、超かっけー!
こうして俺と信長は、共に乱世を駆け抜けると誓ったのであった。
嗚呼、素晴らしき青春哉。
体調不良と繁忙の合間で、逃避を兼ねて書いている作品です。
突っ走った結果、二十数話で完走することを目指しています。