第三十二話 決裂
信長は短気だが、これまで辛抱強く我慢してきた。
しかし、我慢には限界がある。
そして、遂にその時を迎えた。
* * *
「信清っ、もう我慢ならんぞ!どうしてくれようかっ」
おおう、落ち着け。
一体何がどうしたと言うんさ。
「どうしたもこうしたもあるかっ」
ウガーッと喚きながら地団太踏む信長。
そんな信長を横目に、何とか拾った単語を繋ぎ合せると?
どうも、足利義昭が信長に要求を突き付けたようだ。
その内容が、こちらっ
* * *
1.斯波義銀を尾張国守護職にせよ
2.松永久秀を大和国から追い出せ
3.三好義継に腹を切らせよ
4.朝倉義景と吉良義昭を管領とせよ
5.織田信長の娘を側室に差し出せ
* * *
おぅふ。
こりゃアカン。
これは、もうダメそう。
いや、間違いなくダメだわ。
板間を踏み抜く勢いで、地団太を踏み続ける信長を見詰める。
そろそろ板間がヤバい。
止めるべきか。
いや、そうじゃない。
「信長。俺は覚悟を決めたよ。」
ギロッと振り向く信長に、頷いて見せる。
* * *
薮を突いて蛇を出す、と言う言葉がある。
この場合は何かな?
信長を突いて朝倉が滅ぶ。
何か違う気がする。
さて!
まずは都に出仕してる、朝倉景綱の懐柔から。
次に越前から若狭、北近江にかけての工作を。
そして仕上げは、将軍家からの命として朝倉義景を呼びつけよう。
ま、当然朝倉家は動かないよ。
むしろ、大いに敵愾心を燃やすことだろう。
少し前に、足利義昭と朝倉義景が密約を結んだのは知ってる。
そこに、浅井が一枚噛んでるのもね。
朝倉家が一枚岩でないことだって、知ってるんだぜー?
三好と松永殿には、将軍家の要望をそのまま伝えておいた。
これで、転がる可能性は下がるだろう。
道三殿もそう言ってた。
義銀に関しては、全ての密書をそのまま差し出してきたから問題ない。
吉良義昭も、家次さんに相談したようなのでまだ大丈夫。
今川に変な動きはないし、武田が動くことは織り込んでる。
あとは一向宗と天台宗だが。
武田と繋がりがあるから、ちょっと怖いな。
法華宗と真言宗を優遇して牽制させたり、キリスト教の教義についてリークして揺さぶったり。
備えは怠らないようしとこう。
* * *
将軍家からの命令無視を理由として、信長は朝倉討伐を発令。
織田家は若狭と越前へ進軍し、待ち構えていた朝倉家とぶつかる。
それを見た浅井家は、事前の盟約に従い挙兵。
織田家の背後を取った。
織田家は前後の敵に挟まれピンチに
なることもなく、朝倉家を圧倒。
浅井家は、南近江と美濃から進軍してきた別働隊に背後から攻められ壊乱。
城も美濃から来た軍勢に囲まれ、敢え無く滅亡した。
浅井家の支援が無くなった朝倉家は、押しに押されて一族重臣の討死が相次いだ。
更に、一族から裏切り者まで出る始末。
滅亡待ったなしと悟った朝倉義景は降服。
自身の切腹を条件に、将兵の助命を願った。
信長は承諾。
朝倉義景の嫡男らを助命し、尾張犬山に回送。
こうして、越前国に栄華を誇った朝倉家は滅亡した。
因みに。
朝倉景綱はむしろ加増され、その命脈を保った。
* * *
信長が朝倉の息の根を止めるべく越前に出張った頃、俺は近江に居た。
浅井家を滅ぼしたんだけど。
ついでに、信忠・信益・信澄・信孝ら若い衆の初陣を監督した。
信忠と信孝は逸って動くタイプ。
信益と信澄は、考えてから動くタイプのようだった。
信孝はともかく、信忠は立場から矯正が必要かなー。
ま、大過なく果たせて良かった。
ある程度落ち着いたら越前にも行くけど、まだいい。
延暦寺も気になってたけど、動かなかったね。
朝倉滅亡が早すぎたせいかな?
いやあ、事前準備、火力、諜報は大事だね。
改めて認識したよ。
とりあえず、浅井家の後始末だ。
於市ちゃんを嫁がせなくてホント良かった。
信勝、ファインプレイだったぜ!
越前国は織田家発祥の地・織田庄などもあります。
でも描写は全てカット。いずれ、外伝などで発表できればと思っています。