第二話 親友
「──なんてことがあったな。覚えてる?」
「ああ、覚えてるぞ。お前の阿呆面は今思い返しても笑えてくる。」
時代は飛んで数年後。
俺は既に元服し、目の前の幼馴染で親友な従兄弟で義兄弟と和気藹々と喋っていた。
改めて自己紹介しておこう。
俺の名は織田信清。
そして、目の前でシレッと俺をディスる此奴が彼の英雄・織田信長である。
* * *
信長と初めて会ったのはあの時であり、色々あって意気投合、と言うか懐かれた。
いやねぇ。
少し話してみたが、やはり信長は天才だったんだ。
俺には未来の西洋的な知識があるし、信長についての前情報が幾つもある。
それを踏まえて話を聞いても、やはり凄かった。
風雲児とか革命家とか言われるのも分る気がしたね!
そして、だからこそ当時理解者が少なかったということも……。
で、だ。
俺はその時、目の前の暴君が彼の英雄・織田信長だと確信し、舞い上がっていた。
興味本位で色々話し、聞き、整理して質問したり回答したり。
織田信長と会って喋っている、ということに興奮して後先考えずハイテンションで対応していた訳だ。
ほぼ対等の存在として。
後から冷静に考えてみれば当然のことだと思う。
信長からすると、今まで周囲に少なかった理解者が突如として現れた。
精神的には比較的成熟していたとしても、まだ元服前の少年だもの。
しかも母親や周囲の理解を得られず、孤独を感じていた頃。
そんな時、べらべらと好意的に話しかけてくる奴が出現した。
ただの他人なら興味持つから入る所だろうが、曲りにもソイツは従兄弟の兄さんだった。
そりゃあ懐くさ。
むしろ、悪くしたら依存に発展しかねない。
幸いにも依存にまで発展しなかったのは、やはり信長が精神的に成熟していたからなのだろう。
ま、その代りと言うか何と言うか。
あの時の信長の眼は、もう絶対に手放さんと言った風にギラギラと輝いていたよ。
何もかも、後から気付いたんだけどね!
* * *
そんな訳で仲良くなった。
最初の内は、俺の方が年上と言うことで遠慮もあったようだが、すぐに消えた。
まあ、第一声が「お前が従兄弟殿か!」だからな。
然もありなん。
俺としても、タメの方が楽で良いしな。
何より当時の俺としては、彼の織田信長に丁寧語で喋りかけられる、と言う事実に耐えられなかったのが大きい。
今では少し惜しかったかな、と思っている。
だって最近、扱いがぞんざいなんだもの。
心を許してる証明とも言えるが、時々もうちょっとどうにか……。
なんて思うこともあるのさ。
今さらどうしようもないけどねー。
そんなこんなで、今やすっかり親友状態なのさ!
* * *
親友となってから幾星霜。
ちょいと前に親父が死んでしまい、俺は家督を継いで犬山城主となった。
重責を担う立場になり、遊ぶ機会もかなり減ってしまった。
あ、幾星霜ってのは苦労した時に使う言葉だから注意した方がいいぞ!
えーと。
そうそう、俺は城主となった。えっへん。
「ようやく城主か。俺は2歳の頃から城主だったぞ!」
なんてドヤ顔で言ってきた信長この野郎。
まあいい。
俺は大人。
年上。
良い大人はガキの言葉でイチイチ怒らない。
饅頭にドクダミ(生)を入れてやったぜ!
殴り合いの喧嘩になった。
* * *
犬山城主となった俺は仕事に励んだ。
そして家督を継いで初めて、犬山周辺の広大な領土が俺の土地ではなく、本家(信長んとこ)の代官を務めていたことを知った。
まあそりゃそうか。
一族とは言え、地理的に極めて重要な場所は直轄にするよな。
木曽川を挟んで、向こう側は敵地・美濃の国だものね。
そんな大事を認識した頃、俺に嫁取り話が舞い込んできた。
相手は何を隠そう、信長の姉である。
名は央と言った。
そして俺は、特に悩むこともせず受け入れた。
なぜならば。
あの、織田信長と義兄弟になれるんだ、ぜ!?
この期に及んでミーハーなことだと思うなかれ。
それだけ、俺にとって織田信長と言う存在は大きいものだったのだ。
こうして冒頭で述べた、幼馴染で親友な従兄弟で義兄弟という存在が確立した。
後から聞いたところ、この結婚は信秀叔父上の指示だったらしい。
要衝を任せる一族に対する抑えは、多ければ多いほど良いと言うことか。
信長の理解者だってことも大きな理由だったようだけどね。
* * *
城主となり、妻を迎えてからも信長と会う機会はまだ多い。
本家と分家の意見交換会だから立派なお仕事だよね!
理由はバッチリだ。
これで遊ぶ機会が減ったってんだから、以前はほぼ入り浸りだった訳だな。
嫡男としての仕事も沢山あったってのに、俺って奴は……。
親父、正直すまんかった。
細かいところはゴメンナサイ。
サクッと二十話前後で終わる予定です。