第十話 守護
Q:尾張の主は誰でしょー?
A:守護職・斯波家。
正解!
* * *
「やはり、話せば分るのは間違いではなかった。」
「その顔は業腹だが、確かにそうだな。」
ドヤ顔が気に障ったのか、顔を顰めた信長が隣に立つ。
脇差で殴られなくて良かったぜ!
一族会議と秘密会議が終わり、那古屋城の一室で寛ぐ。
信広殿と、信興と喜蔵と九郎も一緒だ。
「あとは清州がどう出るか、だが。」
「ああ、そうだな……。」
正直に言うと、清州の守護代・広信は滅ぼした方が都合が良いと思ってる。
これは俺たちの共通認識だ。
岩倉の方は事情が違うので、一旦脇に置く。
まずは清州だ。
広信を滅ぼすとなると、織田一族の死亡フラグを折るという、俺の目標には反することになる仕方がない。
あくまでも、俺と信長の一族優先であり、天下統一まで走り抜く積りなのだから。
で、どうするかと言うと……。
「守護様を使うか。」
ポツリと零した呟きに、若い衆がギョッとしたのが判った。
* * *
さて。
尾張の国には織田家が乱立しているが、国主たる守護職には斯波家が就いている。
どれだけ実権がなかろうと、存在しているのが現実。
その権威も、完全無視は出来ない。
そんな斯波さんは今、清州に居住している。
守護代の保護下にある、と言っても良い。
つまり、傀儡だね!
そんな傀儡の立場に甘んじている斯波さんだが、不満がないのかと言うとそんなこともなく。
なら利用出来るんじゃないか?ってことで。
「しかし、利用と言ってもどのように?」
そうそう。
利用できるものは何でも使うべきだが、そこが問題だ。
「それとなく情報を送れば、動いてくれるんじゃないかな。」
「情報か……。」
せっかく若い信興と喜蔵、それに九郎が居るのだから、勉強も兼ねて色々考えさせよう。
信長と信広殿は、立場と経験上すぐ判るし。
アイコンタクトを飛ばすと、苦笑して頷く二人がいた。
* * *
「じゃあ喜蔵から。どう思う?」
「えっ。守護様に内応を促す、でしょうか。」
ふむふむ。
当たらずとも遠からず。
在り来たりと言えば在り来たりだが、悪い策ではないね。
「次、信興。言ってみ。」
「えーっと。兄上を守護代に任命してもらう、とか?」
なん、だと……。
その発想は無かったわ。
細部はともかく一考の余地あり、か?
ふーむ。
「えっと、最後。九郎!」
「は、はい。お子の内、どなたかを寄越して頂ければ名目が立つ、でしょうか。」
うん、良いね。
言葉は濁したけど、要は清州を攻める名目てことだろう。
概ね正解、と言えるかな。
ん?
「ワシも一つ思いついた。言って良いかの?」
なんでしょう信広殿。
信長も興味深そうに見ている中、シレッとトンデモ発言をかましてくれた。
「守護様ごと清州を攻め潰せば、後顧の憂いがないのではないか?」
……これは酷い。
全部判って言ってる分、余計に性質が悪い。
信長も苦笑してるじゃないか。
てか信広殿、そんな性格の人じゃないでしょう。
「若い衆に刺激を受けた、と言うことにしておいてくれ。」
悪びれず、笑いながら言っても説得力無いよ!
大体、守護様の権威は”まだ”無視出来ないって言ったじゃんかっ!
まったくもう。
「じゃあ正解は、……信長に言って貰おうか。」
「あ?なんでだ。お前が言えば良いだろ。」
「まあまあ。織田家当主が方針を示した方が、良いじゃない?」
俺はあくまでも司会進行係りだ。
今決めたことだけど。
まったく、と息を吐いて信長は弟たちに向き直って方針を語る。
弟たちは驚いていたが、何のことはない。
皆の意見を集約したらほぼ正解になる。実に簡単なお話だ。
「守護様の意向を取り付け、広信を滅ぼす。」
そう、これだけ。
守護代を滅ぼした後、どうするかは未定。
岩倉にも守護代いるからなー。
こっちは俺の出番になるかな?
ただ、ひとつ。
守護様が俺たちに付けば、広信に殺される可能性が高い。
しかし、殺されても殺されなくても問題ない。
むしろ、殺されてしまった方が有り難いとすら言える。
九郎が言ったように、名目が立つからな。
うん。酷いね!
この辺りはドライと言うか何というか。
やっぱ戦国時代、なんだよねー。
遂にと言うか漸くと言うか、第十話です。
このままでは、四十話前後での完了は少々難しいと言わざるを得ません。