第二幕 第二十五場
山本ヨウヘイはパトカーの屋根に登ると、わらわらと集まってきた警察官の群れを見下ろした。あたりには十数台ものパトカーが止まっており、回転灯がまわりを真っ赤に照らしている。
「お前らいい加減にしろ!」山本は叫んだ。「俺は銀行強盗犯じゃねえよ!」
「だったらお前の車にあった金はどういうことだ」警察官の一人が言う。
「さっさと降りてこい」別の警察官が言った。
ふざけるなよ、と山本は思った。どうしてこんな目に遭わなければならないんだ。どうやら自分と入れ違いで銀行に強盗犯が押し入ったようだが、そのせいで自分が疑われてしまっている。
山本はあたりを見回し、逃げ道がないかと探った。だがどこもかしこも警察官が溢れ、逃げ出せるような隙間はない。自分の車に乗って逃走しようと思ったが、警察官がしっかりとガードしている。おまけに野次馬どもが集まり、騒ぎがどんどんと大きくなってしまっている。
状況は最悪だ!
「いいかもう一度言うからよく聞け」山本は言った。「俺は銀行強盗なんてしてないし、俺の車にある金は俺のものだ。嘘だと思うんなら銀行の支店長に訊いてこい。それでわかるはずだ」
「だったら確認のため一緒に署まで同行してもらおうか」警察官が言った。
「何度も言わせるな。俺は友人との大事な約束があるんだ。お前らにかまっている暇はないんだ」
「どうしてそこまで頑なに拒否するんだ」別の警察官が言った。「無実ならそこまで抵抗する理由はないだろ」
「とっとと罪を認めろ」さらに別の警察官が言った。「これ以上、罪を重くするのはやめるんだ」
もう何を言っても無駄だな、と山本は思った。しかたがない、こうなったら玉砕覚悟で人だかりを抜けて逃走するしかない。
山本がパトカーの屋根から飛び降りようと構えた瞬間、後ろから足首を掴まれ引っ張られてしまう。そのため山本は屋根に倒れて体を打ち付けると、そこから地面へと無理矢理引きずり下ろされた。
「犯人確保!」
そう叫んで、次々と警察官が山本の体の上にのしかかってくる。
山本は押しつぶされながら、こんな悲劇的な運命へと誘った銀行強盗犯を呪った。そしてそつらに鉄槌が下ることを切に願った。




