第二幕 第十四場
山本ヨウヘイがファミレスでカツサンドをほおばり、それを果汁百パーセントのオレンジジュースで流し込んでいた。
「うん、うまい」
山本が食事を堪能していると、そこへウェイトレスの女性が台車を押してやってきた。台車には数多くの料理が載せられている。
それを見て山本は、団体客でも来たのかな、と思った。だがしかし、ウェイトレスは山本を通り過ぎず、彼の前で立ち止まった。
「お待たせしましたお客様。こちらご注文の品になります」
「へっ?」山本は面食らった。「俺の注文したのは、いま食べているカツサンドとオレンジジュースだけだぞ」
「じつはお客様のご友人より、こちらの豪勢な料理を堪能してほしい、と言付かっております」
「友人?」そう言われ店内を見回す。「誰だ?」
「そのご友人様ならすでにお帰りになりました」
「名前はわかるかな?」
「いえ申し訳ありません、名前は告げずにお帰りになったので」
「そうか。誰だが知らないが粋なマネをしやがる」
「では失礼します」
ウェイトレスが山本のテーブル席に次々と料理を置いていく。ハンバーグステーキに海老フライ、明太子パスタ、スパシーポテトにミックスピザ。その他にもデザートのティラミスにレアチーズケーキ、そしてジンジャエールにアイスカフェオレ。
「これで全部になります」ウェイトレスが言った。
「すごい量だな」山本は目の前の光景に圧倒されている。「全部食べきれるかどうか不安になってきた」
「本当はこれ以上のご注文でしたが、お客様おひとりでは食べきれないと思い、勝手ですが私の判断で料理の品を減らしましたことをお詫びします」
「そうか、それは懸命な判断だよ。謝らなくていい。むしろ助かるよ、ありがとう」
「いえ、お礼なんて結構です。私も貰えるチップが増えますので、そうしたしだいであります」
「チップがもらえる?」山本はいぶかしむような表情になる。
「いえ、こちらの話です。気にしないでください」ウェイトレスは笑ってそう言うと、立ち去って行く。
豪勢な食事を目の当たりにし、山本は誰かもわからぬ友人の心遣いを無駄にはできない、と思った。
「悪いなコウジ。そっちに行くのに、ちと遅れそうだ」
そうつぶやくと、山本は食事を再開した。




