序幕
ミシェル・ド・ノートルダム。
通称ノストラダムスとして世間に知られているこの人物は、十六世紀のフランスの医師であり、科学者でもあり、そして詩人でもあった。
ノストラダムスは様々な著作を残しているが、その中でもとりわけ有名なのが、『ミシェル・ノストラダムス師の予言集』である。
その本の中にはこんな予言が書かれていた。
一九九九年七の月
恐怖の大王が空から降ってくるだろう
アンゴルモワの大王を蘇らせるため
その前後の期間 マルスは幸福の名のもとに支配するだろう
この四行詩は、ノストラダムスの予言の中でもっとも有名なものであり、世界中の様々な人々がこの詩を研究し、一九九九年七月に人類は滅ぶと予言されていると考え、人類滅亡説を巻き起こした。
日本においては、五島勉の『ノストラダムスの大予言』の本がベストセラーとなり、その予言が多くの人々に知られるようになった。
今では明らかな嘘だとわかっているが、一九九九年以前の人々のなかにはそれを本気で信じていた人たちもおり、どうせ死ぬのならと資産を使い切る者や、やけになって犯罪に手を染める者も現れた。
それほどまでに、ノストラダムスの予言の影響力は大きかったのだ。
この物語はそんな一九九九年七月に起きたできごとである。