表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

drifters

drifter3

作者: カンコ

 声が、聞こえる。

遠く、遙か遠く。或いは、すぐそこ、私の、体の中で。

泣いている。子供が。私の、子供が。



「でねでね、彼氏がさあ……」

「うん」

「そんくらいのことでうだうだ言うなって、逆ギレするんだよー」

「うん」

「そんな言い方ないでしょって、ねえ?」

「うん」

「もう別れよーかなー」

ただただ繰り返す。何が面白いのか、何が生産されるのか、何が救われるのか、そんな意図すら存在しない無意味な会話を。自己を責め立てるようでいて、内では他を攻撃し、無駄に声を張り、泣き、時折けらけらと笑い。

 幸か不幸か、有るのか無いのか、“この現実”という場所で、そうして目隠しするように時を経て行けば、枯れ果て、醜く散る自己の姿を見る事は無いだろうと。


 私の足元に、赤く残る染み。それは、堕ちた私。

あなた達が、殺せ、と言うから。


 約束した。

もし彼女に心があるのならば、私は私の心で抗おう。 

だが、敵わない。一度壊れた椅子は、もう元には戻らない。

そう、理解していながら、感情はそこに追い付かずに。

 

 全て消した。削除した。ゴミ箱に捨てた。なのに。

もう何も、聞こえないはずだ。そんな夢すら叶わぬのだから、私にそれ以外の術が残されているとは思えない。 

 彼女を殺した。自分の子供を殺した。彼は死んだ。残されていたものは、全て消えた。

それなのに、全てから解放された筈なのに、私の知っている“私”は消えていない。


 声が聞こえる。胎児の声。

赤黒く伸びた血管を引き千切り、息の根を捕えても尚、泣き止まない。

 何故? 

誰か、教えてはくれないか。

 愛しいと思ったのは、私だ。欲しいと思ったのも、私だ。

何がいけなかったのだ?

誰か、教えてはくれないか……?


 繰り返す。何が面白いのか、何が生産されるのか、何が救われるのか、そんな意図すら存在しない無意味な行動を。アンビバレントのようであり、内では他に助けを請い、無駄に声を張り、泣き、時折けらけらと笑い。

 幸か不幸か、有るのか無いのか、“この現実”という場所で、そうして疎外に抗うように時を経て行けば、枯れ果て、醜く散る自己の姿を見る事は無いだろうと。


 私が殺した彼女は、やがて再び目を覚ました。

男が彼女の手を引く。彼女の笑い声が響く。

その傍らで、地面を赤く染めた私の首吊り死体が、ただただ、揺れていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ