臣の力
翌日の朝刊
『お詫びと訂正、男はただの居候』
一面には文の土下座写真が載せられていた。
臣 土下座までしてる・・・
霊夢 ここまでされたら許してやるか。
新聞の一面を見た臣と霊夢は文の事を許してやった。
文 ありがとうございます!
霊夢 でもなんでここにいるのよ!
文 だって私も異変解決のために協力するんですから、一緒にいるのは当然です。
今朝、朝刊を届けに来た時に臣が取材を受け、異変の事や臣の事をすべて話した、そして文が手伝ってくれるとのことだった。
霊夢 何か企んでるんじゃないでしょうね?
文 何もないですよ。ただ、取材に困らないってこと位ですかね♪
霊夢 そんなこと言って、途中で抜けるなんて許さないからね!
文 わかっております!それに、私だって幻想入りは反対派なんですから。
文にモンクを言い終わると、霊夢は台所に行き、洗い物を始めた。
文 何かあたりがきつくないですか?
臣 だな・・・昨日の夜はなんともなかったのに。
文 もしかして、私のこと話してしまいましたか?
臣 話してたらもっと怒ってるだろ。
ピシャっという音と共に霊夢が戻ってきた。文は瞬時に臣から離れていた。
霊夢 臣、今日こそは魔理紗に会いに行くわよ!文は山に戻って、仲間の心当たりを当たってきて!
臣 おう・・・
文 解りました・・・
臣と文は怯えながら霊夢の指示に従った。
臣は昨日の村で待機することになった。森のなかはトラップや妖怪が多いので、霊夢一人で魔理紗を訪ねることにしたのだった。
臣 朝刊は見たんだろうか・・・また襲われないか心配だな・・・
そうなったら私の名前を出せと、霊夢はいっていた。臣は心配だった。村人達が臣によってきたのだ。
村人 今朝の朝刊読んだよ。勘違いとは言えすまなかったな!
臣 (勘違いでしでかすレベルじゃ無かったけどな)
村人 新聞の記事によればあんた、幻想入りの被害者なんだってな!
臣 ああ、そうだけど?
村人 可哀想にな・・・なにも知らずに俺たち、酷いことをしちまったよ・・・
臣 ・・・でも今はこうして生きてるし、帰るすべも探してる。霊夢も協力してくれてるし、なんとかなるよ!
村人 ・・・でも昨日はすまなかった!許してくれ、この通りだ!
臣 やめてくれよ土下座なんて!もう大丈夫だから!
村人 嫌!このままじゃ俺たちの気がすまねえんだ!だから詫びをいれさせてくれ!こっちに用意してある!ついてきてくれ!
臣は強引に村人達に連れられていく。そして旅館の様なところにたどり着いた。
臣 いたた・・・
村人 さあ着いたぜ!ここが今日からあんたの家だ!
村人達は旅館の蔵を掃除して臣の寝床を作ってくれたのだった。
村人 いくらなんでも居候ってのは肩身が狭いだろ?それに生活していくんなら仕事もしなきゃなんねえ。この蔵は今まで使ってなかった所だし、仕事も困ることはねえ。
臣 確かに・・・でも仕事なんかしてる時間はないぞ?
村人 仕事ってのもあんた向きだよ。異変解決の片手間でいいから、お尋ね者の妖怪をこらしめてくれりゃあいいんだ!そういうのは嫌でもするだろ?
臣 (このまま霊夢の所に居候ってのは良くないよな・・・)
村人 この蔵、受け取ってくれ!
臣 解った!ありがたく使わせてもらうよ!
村人 よし、決まりだな!これが鍵だ。どうだい?良かったら見ていかないか?
村人に案内されて蔵の中に入る。一人で住むには大きすぎる位だった。
臣 それにしても立派な蔵だな。本当に良いのか?使わせてもらって。
村人 ・・・ああ。もちろんさ!
バタン
臣 ???・・・なんだ?どうして扉が・・・
ガチャリ
臣 ・・・
チャリン
臣 !!!
・・・・・・・・・
臣 おーい!?開けてくれ!
臣は叫んだが、外からの反応が無い。村人は臣が蔵に入ったところで扉を閉め、錠をかけ、鍵を捨てた。
臣 全然許してないだろこれ・・・
蔵に閉じ込められてしまった。中にはろうそくと、天井付近に小さな窓があるだけ。昼でも真っ暗だった。
臣 脱出は出来るけど、かなり目立つな・・・
臣の能力を使えば、窓から出ることは容易である。しかし、見つかれば逃げ道はない。空に浮くことは出来ても、飛び回る事は出来ない。そんな状態で見つかったら今度こそ逃げられなくなる。
臣 それに、能力の事はまだ知らないはずだ。出来れば知られたくない。
臣は蔵の中に何か使えるものはないか探してみた。一様、寝具や家具といった物はあるが、役に立ちそうなものはなかった。そして、一通の手紙があった。
「理由はどうあれ、霊夢さんと何日も生活している貴様は許さん!絶対に殺してやる!」
臣 ・・・・・・
臣には関係ない妬みや嫉妬で殺されたのでは話にならない。なんとしても脱出しなくてはならない。
臣 神社まで行ければ・・・すぐそこに見えるのに・・・。
蔵の出口から声が聞こえる。どうやら見張りがいるようだ。小窓から外を覗いてみると、まだまだ人が多い。
臣 しばらく待つしかないか・・・
六時間後
夜になった窓から差し込んでいた日の光は無くなり、蔵の中はいっそう暗くなった。今日は満月で静かな夜だった。
臣 逃げるなら今だな。
外には人影はなく、逃走には絶好の機会だった。
臣 よし!夢想封印!
窓から身を乗り出し思い切り壁を蹴る。その推進力で空中をふわふわと進んでいく。
臣 誰もいないし風もない。村の外までは空を飛んで行けるぞ!
もう少しで外に出れる。ここでさっき発動させた夢想封印の弾幕を爆発させる。
臣 少し目立つけど、このまま行けるぞ!
爆発によりさらに推進力を得た。そのまま村の外まで出ることが出来た。
臣 うまくいったな。後は森を抜けて神社に行くだけ・・・
この森は何回も通っている。この森を抜ければ神社に着く。しかし今までは霊夢が守ってくれていたから無事なだけだった。臣は忘れていた恐怖を思い出す・・・
森の前で身を隠す臣。いつも通っている道。月明かりで足下は明るい。
臣 ・・・
しかし臣は不安だった。考えてみれば夜に一人で居たときは良いことがなかった。進むべき道は解っていたが少し横を見れば暗闇が広がっている。
臣 よく考えてみれば夜に一人で森の中に行くやつはいない。だから見張りがいなかったのか。でもあのままあそこにいたら・・・
今の臣に選択肢はなかった。生き残るためには何としてもこの森を抜けるしかない。
臣 頼むぜ。このまま何も出てこないでくれよ・・・
ようやく決心して森の中に入る臣。その時茂みから何者かが臣の目の前に飛び出してきた。
??? うぅ・・・
茂みから飛び出てきたのは少女。襲われていたようで全身に怪我をしている。しかし臣は一瞬で解った。背中に生えている虹色に光る羽、小さい口には鋭い牙。
その後すぐに少女を襲った妖怪も出てきた。明らかに気が立っており、臣にも敵意が向けられる。
臣 妖怪・・・そしてこの子も・・・妖怪・・・
後から出てきた妖怪は臣を睨み付ける。先ずは弱っている方を確実に倒すために臣を黙らせようとしたのだ。
妖怪 ガアァ!
臣 うぅ・・・
そして舌なめずりをしながらゆっくりと少女に近づく。少女は重症、地面を這いつくばりながら苦しそうにしている。このまま見捨てて直ぐ町に逃げれば助かるかもしれない。しかし少女は臣に言った。
少女 助けて・・・
その言葉を聞いた瞬間。臣の体は勝手に動き、妖怪と少女の間に割ってはいっていた。
臣 (何やってんだ俺は!)
妖怪は臣の行動を見て立ち止まり困惑する。妖怪が狙っていたのは少女、臣は逃げ出すと思っていた。臣の行動は図らずも妖怪に不安を与えたのだ。それを見て、臣は続ける。
臣 俺は臣!霊夢の所に居候してるってのは解るよな?
妖怪 ・・・!
野良の妖怪にとって霊夢の名前は絶大だった。妖怪の不安はさらに大きくなる。さらに臣は続ける。
臣 俺はただの人間じゃないぜ!俺には力がある!霊符「夢想封印」!
妖怪 !!!
まばゆい光と共に光の玉が出現する。臣は間髪入れず地面に叩きつける。
ドゴーン!
何度かスペルカードを使ううちに臣は力のコントロールが出来るようになっていた。この夢想封印は手を離れると直ぐに爆発するが、今までよりも大きな力が出せるのだ。そして直ぐ様、次の弾幕を出す。今度は凄く大きな玉を出した。
妖怪 !!?
妖怪に戦意は無かった。追い詰めていたはずなのに逆に追い詰められている状況に明らかに怯えていた。臣は続けた。
臣 さっさと消えろ!それとも・・・
妖怪 !!!!
臣の言葉が終わる前に妖怪は森の中に消えた。それを見届けた臣は、光の玉を消して大きなため息をついて地面に座り込んだ。
臣 ・・・・・・
状況こそよく見えたが、戦っていたら臣に勝ち目は万に一つもなかった。最初に放った弾幕が今の臣に出せる一番の威力だったが、大したダメージは無かったはずだ。
それに最後の玉は完全に見せかけで言ってしまえばシャボン玉の様なもの。中身は空っぽで、爆発すらしないだろう。
臣が幸運だっただけ。あの妖怪は以前霊夢にやられていて霊夢にはトラウマがあったと言うこと。予想外の出来事が続き、妖怪が必要以上に困惑したこと。妖怪のすぐ後ろに森があり、逃げ道があったこと。
臣 そして何より・・・あの妖怪が弱かった・・・でも・・・
本当にあの妖怪は弱かった。でも、戦っていたら負けていた。絶対に殺されていた。それを臣はよくわかっていた。
臣 でもまあ、生きてる。
そう。臣は生きている。霊夢も文もいない。たった一人で生き残ったのだ。そして自分の力だけで守っていた。
少女 ・・・・・・
少女は気を失っていた。微かに息はしているが、今にも止まりそうなほど弱々しい。
臣 何とかしないと。先ずはどこかに運ばないと・・・
町には戻れない。しかし森には入れない。今必要なのは人が居ないところで、安全な場所。
臣 そうだ。あの小屋なら!
この前魔法の森で飛ばされたあの小屋。あそこなら人気はない。臣は少女を抱え、小屋に向かった。