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第3話 怪しいオーディション

ジュークスの会社は、THEマンモス企業!という感じの建物だった。

ソフトウェアの会社なら、ハードよりソフトで勝負しろって。


「社員が多いから、仕方ないんじゃない?」


そう言いつつ、リザも顔を真上に向けて、そびえ立つビルを眺めている。

口、開いてるわよ?


「ジュークスの本社で得体の知れないオーディション、か。

なんか、意味ありげじゃない?」

「どーでもいい。早く終わらせて、豚骨ラーメン食べに行こうよ、リザ」


湊君への反抗心から勢いでここへ来てしまったけど、

私は早くも後悔していた。

せっかくの日曜なのに、何が悲しくて地下鉄を乗り継いでこんな都心まで出てこなきゃいけないんだ。

しかも平日なら賑わっているであろうストリートも、

日曜は閑散としていてどのお店も開いてやしない。


電車賃、出してくれるんでしょうね。


「ケチよね、春美。この前のディカプリオのお釣りがあるじゃない」

「何言ってるのよ!」

「使ってないの?」


つ、使ってないわよ。

そりゃ、封筒に入れて大事に取ってはいないけどさ。

お財布に入れてるから、お金そのものは使ってるけどさ。


再会できたら、ちゃんと通帳からおろして返すもん!


「ほんと~に~?」


リザが意地悪なイタチ目で私を見る。


「も、もしこのオーディションで合格したら、お金をもらえるかもしれないじゃない?

そしたら倍にして返すわよ」


言いながら、頭の中で電卓を叩く。

500ドルの倍って言ったら・・・げ。日本円で10万円くらいになっちゃうじゃん。


私は重ね重ね後悔しながら、リザと共にマンモスの胃袋へと飛び込んだ。





待合室代わりの大きな会議室に通され、私は目を丸くした。

中には50人ほどの女性がいて、揃いも揃ってみんな、黒髪のストレートときている。

「日本人女性」のイメージを体現しているつもりなんだろうけど、

みんな日本人か日系人なんだから、そんな無理して「日本人」しなくていいのに。

絶対地毛は黒じゃないだろうに、染めて黒くしてる人までいる。


リザは私を見て肩をすくめた。


リザは元々黒い髪だけど、髪質が堅くごわごわしている。

それがまたリザの雰囲気に合っていて良いのだけど、

やっぱりこのオーディション向きではないようだ。

一方、純日本人の私は「今時の日本の女の子」スタイル。

髪は染めた茶髪で毛先を緩くカールしている。

服装は襟が丸いお嬢様風ブラウスにハイウェストのミニスカート。

もちろんヒールだ。


着物姿の人も居る中、浮きまくりである。


リザが部屋の中を見ながら、私に小声で話しかけた。


「私達、お呼びじゃないって感じね」

「そうね・・・でもほんと、何のオーディションなんだろ?」

「日本向けソフトフェアのパッケージ写真のモデル、とか」

「それならどっかのモデル事務所の日本人を使えばいいでしょ」


こんな口コミで一般人を集める必要がどこにあるのか。

実際、ここに集まっている人たちは、みんながみんな美人という訳ではない。

募集要項(?)は「日本人か日系人女性」だから、見た目は関係ないのかもしれない。



私達が部屋の入り口に突っ立っていると、

後ろで扉が開き、なまりのない綺麗な英語が聞こえてきた。


「お待たせ致しました。お集まり頂きありがとうございます。

時間になりましたので、ただ今より5人1組で面接を行います。

その後5人に絞り、その方々にはお1人ずつ再度面接を行います」


きちっとしたスーツ姿の女性が、一人一人に番号の付いた札を配り、

手早くグループを分けていく。


なんか、採用面接みたいだ。

実は密かに、カメラテストがあったらどうしようと思っていたけど、

心配は無用だったらしい。



私とリザは一つ目のグループで、他の3人とともに一列になって隣の部屋へ入った。

てっきり、いかにも面接官な人が何人も待ち構えていると思っていたら、

部屋の中にいたのは2人だけだった。


一人はこの場に相応しくないほど貫禄がある、重役タイプの男性。

歳は50くらいだろうか。

白いものが混ざっている豊かな髪が、いかにも「お偉いさん」な雰囲気をかもし出しており、

三つ揃えのスーツがばっちり似合っている。

もう一人は秘書風の女性。

ナイスバディを余すところなく活かしている。

手にペンとノートを持っているところを見ると、書記役なのだろう。


つまり、私達に面接するのは重役風の男性一人ということか。


男性は「ようこそ」と言って私達に椅子を勧めると、名乗りもせずに早速、

名前、学歴・職歴、アメリカにいる理由・・・と言った履歴書レベルのことを、

ハリのある声で訊ねてきた。


ここは当然、5人とも難なくクリア。


しかし次に訊ねられたのは、家族のことだった。

それも家族構成だけではなく、親の職業や近親者に犯罪者がいるかなんてことまで聞かれた。


嘘をついたところでバレはしないだろうけど、

この男性には相手に嘘をつかせない威圧感のようなものがある。


幸い私もリザも特に困ることなくこの質問もクリア。

でも他の3人のうち一人は、兄が万引きで捕まったことがあると素直に打ち明けた。


その時私は、書記役の女性がノートに「×」を書いているのを見逃さなかった。






「さすが春美。残ったわね」

「嬉しくないけどね。なんかヤな感じだったし」


一気に人数の減った待合室で、私とリザは出されたコーヒーを飲んだ。

5人1組、計10組の面接が終わって発表された通過者の中に、

私の名前もあったのだ。

残念ながらリザは落選。兄のことを正直に話した女の子も。


私以外の通過者は、モデル級のスタイルの人と、着物の人、OL風の眼鏡女性、

それに、アキバにいそうな不思議タイプ。


女子大生風の私(実際、女子大生だけど)を加えると、

現代日本人女性の種類別図鑑の完成だ。


何を考えてるんだ、ジュークス。


ますます不安になりながら、

私は自分の名前が呼ばれるのを待った。





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