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第27話 決心

昔々あるところに、春美ちゃんという"美"少女がいました。

春美ちゃんには大好きな男の子がいましたが、その男の子は春美ちゃんを弄んだ挙句、

春美ちゃんの尊敬する先輩と結ばれました。

しかし男の子は「俺はもっと男を磨くんだ」と言って、

「行かないで」と泣きすがる先輩を残し、1人旅立っていきましたとさ。


おしまい♪


「ハルには文学的才能はないみたいだね」

「まあね」


仕事は休めないけどランチくらいは一緒に、という訳で、

最近はマックスと一緒にランチデートをすることが多くなった。


だけどマックスの忙しさは半端ないらしい。

申し訳なさそうにしながらも、ランチの合間に書類を眺めることもしょっちゅうだ。


でも、いいの。

幸せですから!!!


「うふふ」

「・・・」

「ねえ、でもどうして湊君と私のことを聞きたかったの?ヤキモチ?」

「まさか」


・・・ちょっとくらい悩んでから答えてよね。


私は膨れっ面で、

キノコがたっぷり入ったペペロンチーノをスプーンの上でクルクルした。


「でも、ハルの話で分かったよ。この書類の意味が」

「書類?」

「採用試験の最終選考に残った人達の書類。内緒だけどミナトのもある」

「本当!?」


さすが、湊君!

でも、それと私達の昔話と何の関係があるの?


「ハルは関係ないんだけどね」

「・・・」

「面接の時、面接官が未婚者に対して『結婚の予定はありますか?』って聞いたんだ。

女性だと姓が変わるし、入社後に独身寮じゃなくて社宅に入りたいって人もいるだろうからね」

「なるほど。それで?」

「その時のミナトの返事が『もしかしたらするかもしれません』だったと書類に書いてある」


私は思わず口を開いたままフォークを止めて、マックスを見た。


「嘘」

「本当。ハルも知らないんだね。でも、もしかしてさっきの昔話に出てきた『先輩』かな?」

「そうに決まってる!そうでなきゃ、許さないんだから!」


ハッとしたけど、時既に遅し。

お店中の視線が私に向けられていた。


誤魔化すために咳払いをしながらお水を飲む。


「あはは。ミナトに振られたことをよっぽど根に持ってるみたいだね。

あれ?でも前ミナトが、自分もハルを好きだったって言ってなかったっけ」

「ま、ちょっとした行き違いがあったの」


そして湊君は私を振った。

それなのに結局先輩とも別れるなんて!


ちゃんと男を磨いて先輩と寄りを戻さないと、許さないっ!!!


「つまりミナトは、ジュークスに入社できれば、『先輩』との結婚を考えてるって訳か」

「多分ね」

「・・・ふーん」


マックスは書類を裏向きにテーブルの上に置くと、

椅子に深く腰掛け、腕組みをして何かを考えだした。


背もたれには、めでたくマフラーへと昇格した腹巻(!)が掛けられている。


「・・・卒業は3月中旬で、入社は4月頭で・・・」

「どうしたの、マックス?」

「よし。決めた」


マックスがパッと顔を上げる。

まるで仕事中のように真剣な表情だ。

(マックスが仕事してるとこ、知らないけど)


「何が?」

「結婚式は3月20日頃にしよう」

「え」


3月20日頃?

なんで?

しかも、もう2ヶ月切ってるし!


「間に合わないよ!」

「間に合わせるよ」


そう言うや否や、マックスは鞄からラップトップを取り出し、電源を入れた。

その表情はもはや「真剣」どころではなく、完全にビジネスマンである。


「・・・何してるの?」

「メール」


ふんふん、なるほど。

レストランじゃ堂々と携帯使えないもんね。


で、どうして急にメール?


「人事部のクラウディアにメールしてる。教会とパーティ会場を押さえてもらわないと」

「そんなこと、クラウディアさんに頼むの?自分達でやろうよ」

「ハル。悪いんだけど、それは無理だ。

招待客の都合を聞いて、細かい日程調整をしないといけないからね」


結婚式って普通、こっちが勝手に式の日取りを決めて、

招待するお客さんに「この日に来てください」って言うもんじゃないの?


が、ジュークスの幹部ともなると、その辺の感覚まで違うらしい。


「関係企業の重役や政治家、著名人も招待するからね。こっちの都合だけでは決められないんだ」

「・・・はあ。そういうものですか」


それでマックスがこんなにビジネスライクになってる訳ね?

普段のおっとりしたマックスとはまるで別人だ。


私がもはや異世界なお話に呆然としていると、

ビジネスマン・マックスが、急にいつものマックスに戻った。


「でも、どんな式やパーティにするかは僕達で考えようね。僕達の結婚式なんだから。

ハルはまず、ウエディングドレスを作らないとね」


ウエディングドレス!!!


アメリカにもゼクシィってあったかしら、と、

私の頭は早速花嫁さんモードに突入した。







「おめでとう、は?」

「そっちが先に言って下さい」

「合格、オメデトウ」


湊君は「やった!」と満面の笑みで両手を挙げて万歳した。


マックスに私と湊君の昔話をしてから1週間。

無事、ジュークスから湊君に内定が出たのだ!


ジュークスの場合、内定通知は内定証書を郵送して行うらしいけど、

湊君には、伝書鳩よろしく、私がマックスから証書を預かってアパートまで持ってきた。


「これで俺も4月から社会人かぁー!よしっ!」


湊君が改めてテーブルに広げた内定証書を惚れ惚れと見つめた。


「試験勉強、大変だったんですよ!短期間だったし!でも、頑張った甲斐があった!」

「ふふふ、よかったわね」

「はい!ありがとうございます!」

「じゃあ次は、私に婚約おめでとう、って言ってよ」

「・・・嫌です」


とたんに湊君のテンションが下がる。


もう。相変わらずなんだから。

湊君、マックスの部下になるのよ?

そんなんで大丈夫?


「まあいいわ。はい、こっちの書類もマックスから預かってきたの」


私は、内定証書が入っているのとは別の、

水色の封筒を湊君に差し出した。


「なんですか、それ?」

「社宅借用申請書」

「社宅?」

「既婚者用のね。マックスが、ミナトには独身寮入寮申請書よりこっちがいいだろうって」

「既婚者用・・・」


湊君は私が差し出した封筒を受け取ることも忘れて、

それを眺めた。


「結婚。するつもりなんでしょ?」

「それは・・・まあ・・・いつかは・・・。

でも、今すぐなんて・・・向こうがどう思ってるか分からないし」


珍しく自信無さ気な湊君。

こういう時こそ、いつもの明るさと元気良さで突っ走らなきゃいけないのに。


「俺、どっかの猪突猛進娘sとは違って地道に頑張るタイプなんですよね」

「そんなこと言ってると、他の男に取られちゃうわよ」

「・・・」

「とにかく、社宅の説明書を見て!そして借用申請書を書いて!ついでにプロポーズしてきなさい!」

「どーゆー『ついで』ですか」


それでも湊君はようやく私から水色の封筒を受け取り、

中の書類を取り出した。

借用申請書と一緒に、社宅の地図や間取りが書いた紙が何枚もある。


「すげー。全部ちゃんとした庭付き一戸建てだ。さすがアメリカ」

「あはは。どれも結構大きな家ね。あ、この家素敵」

「ほんとだ。でも会社からちょっと遠いな」

「そっか・・・あ、こっちは?」

「うん、よさげ」


マックスの実家で暮らすことが決まっている私は、新居選びという楽しみだけはない。

だからここで疑似体験させてもらおう、とばかりに、

私は湊君以上に真剣に社宅の間取りに見入った。


「あれ?この社宅、私とマックスが結婚式を挙げる教会のすぐ裏だ」

「じゃあ却下」

「もう、どうしてよ。先輩もパーティに呼ぶから、

この社宅なら再会してすぐに先輩としけこめるわよ」

「春美さん、しけこめる、って・・・え?先輩も呼ぶんですか?日本から?」

「当然でしょ」


湊君が、目を大きくしたまま固まる。


「湊君も招待するから来てね。先輩に会えるわよ。・・・2年ぶりよね?」

「・・・はい」

「全然会ってないの?連絡も?」


湊君が首を横に振る。


「春美さんは・・・会ってるんですか?」

「うん。日本に帰った時は必ず会ってるわよ。私のお姉さんみたいな人だもん」

「先輩、元気ですか?」

「元気よ」

「・・・そうですか」


もっと聞きたいことがたくさんあるだろう。

でも、聞きだせばきりがないし、

会いたいという気持ちを抑えられなくなるのが分かっているからなのか、

湊君はそれ以上、聞いてこなかった。


代わりに、教会の裏手にある社宅の間取り図を手に取る。


「場所はともかく、いい家ですね」

「でしょ?」

「庭が広い。これだけ広かったら・・・思いっきり走り回って遊べますね」


湊君はテーブルの上に転がっていたボールペンを手に取り、

書類に向かった。





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