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第26話 プレゼント

「ハル?」


マックスが私を見て驚き、急に足を止めた。

その背中に、後ろの人がぶつかる。


「あ、すみません・・・ハル、どうしたの?」

「おかえり、マックス」


私はマックスにいきなり紙袋を差し出した。


「これ、持ってきたの。クリスマスプレゼントだから、どうしても今日渡したくって」

「ハル・・・あのさ、」

「聞いて、マックス」


ちょっと強引にマックスの言葉を遮る。


周りにはたくさんの人がいるけど、

みんな出迎えの人との対面を喜んでいて、誰も私達なんて見ていない。


私は40センチ上のマックスに聞こえるように・・・マックスの心にまで届くように、

少し大きな声で言った。


「マックスは私を幸せにする必要なんてない。私は勝手に幸せになるわ。

でも、マックスも幸せじゃなきゃ、私も本当に幸せにはなれない。

だからマックスも、幸せになって」

「ハル・・・」

「マックスが、私と一緒にいると幸せになれないって言うなら、

私はマックスとは結婚しない。

だけどもし、マックスが私と一緒にいた方が幸せになれるって言うなら・・・

私はマックスと結婚したい」


よく男の人は「幸せにするから」って言うけど、

そんなの自惚れだと思う。


私を幸せにする・・・

その鍵を握るのは他でもない、私自身だ。


一緒にいることで、お互い自分のことを幸せにできるのなら結婚すればいいし、

幸せにできないのなら、結婚するべきじゃない。


「マックス。私はあなたといれば、幸せになれる。

マックスはどう?」

「・・・」


不意にマックスがその大きな手で私の頬に触れた。


思わず身体がビクッとなる。

マックスに触れられるのなんて、初めてだ。


「冷たいね」

「・・・うん」

「ずっと待っててくれたの?どれくらい?」

「5時間くらいかな・・・」

「5時間!?」


マックスが目を見開き、それから笑い出した。


「凄いなあ、ハルは」

「マックス・・・初恋の人に会ってきたの?」


今度は笑いはない。

純粋に驚いただけのようだ。


「本当に凄いね、ハルは。なんでもお見通しだ」


やっぱり・・・。


私は視線をマックスの顔から、その手元に落とした。

そこにはさっき私が渡した茶色い紙袋がある。


さいは投げた。

この紙袋の中のマフラーをマックスが付けてくれるかどうかは、

もうマックスに任せるしかない。


マックスは紙袋を右手から左手に持ち替えた。


「うん。会ってきたよ。

憎い目で見られるか、素っ気無い態度を取られるかは分からなかったけど、覚悟はできてた。

ミナトの言葉を聞いて、

ハルと結婚するためには、どうしてももう一度彼と会っておかないといけないと思ったんだ」


だけどマックスは、まるで肩透かしを食らったかのような、

拍子抜けした声になった。


「でも、彼は僕が思っている以上に大人だった。

いや、僕も心のどこかで分かってたんだ、彼のことを」

「・・・」

「怒られたよ」

「え?」


顔を上げると、困ったような笑顔と出会った。


「『ハルと結婚すれば、今度こそやり直せる気がする』って僕が言ったら、

『結婚するな』って言われたよ」

「ええ?」

「『立ち直るためにハルを利用するなら、それはハルに失礼だ。やめとけ。

第一、立ち直るってなんだよ。お前、何か立ち直る必要があるのか?』だってさ」

「な!なんて勝手な人なの!?」


私は思わず、正直に思っていることを叫んだ。


昔、散々マックスのことをゲイだからと傷つけておいて、

今度は女と結婚しようとしてるマックスに、失礼だからやめとけ、って!?

立ち直る必要があるのか?、って!?


どれだけ勝手なこと言えば気が済むのよ!!!


「だよね」


また苦笑いのマックス。

でも、本当に呆れている訳ではなくて、

なんかちょっと嬉しそうだ。


マックスはさっき「僕も心のどこかで分かってたんだ、彼のことを」と言った。

つまりマックスは、彼に罵倒されに行ったけど、

心のどこかで彼が自分に正直な気持ちをぶつけてくれるんじゃないかと期待してたんだ。


マックスが右手を上着のポケットに突っ込んだ。


「さっき、成田の搭乗ゲートまで彼が見送ってくれたんだ。

その時僕は彼に『結婚のこと、よく考えてみるよ』と言った。

でも、搭乗ゲートをくぐって免税店を見た瞬間、

『ハルのお土産に何を買おうかな』って考えてた」


マックスの右手がポケットから出る。

そしてそのまま私の左手を握り、手袋を外した。


かじかんだ手に、マックスの温かい体温が流れ込んでくる。


「手袋してるのに、手まで冷えてるね」

「うん」

「5時間もこんなとこで僕を待ってるからだよ。・・・ありがとう」


マックスが、私の左手を掌に乗せたまま右手を開いた。


指に何か違和感がある。


自分の左手に目を向けると、

その薬指に光る物があった。


「・・・指輪?」

「よかった、ぴったりだ」


マックスが照れくさそうに笑う。


「前に日本のサイズで7号だって聞いてたけど、

実際に見たら7号って本当に小さいから、こんなので指に入るのかなって心配してたんだ」

「・・・」


細くすっきりしたデザインのプラチナリング。

その中央には小ぶりだけど眩いばかりの光を放つダイヤが埋め込まれている。


「免税店で買ったから既製品だし、全然婚約指輪っぽくはないけど・・・いいかな?」


私は頷くこともできず、ただ指輪に見入った。

まるで瞬きすればそれが雪のように溶けて消えてしまうから、とでも言うように。


「2人で幸せになろうね、ハル」


ようやく目が指輪から離れた。

でも今度はマックスから目が離せない。


そうだ。

「2人で幸せになる」、

これこそ、サリーさんが言っていた「マックスを守る」方法なのかもしれない。


「マックス・・・」

「そ、そんな泣きそうな顔しないでよ。これだから女の子は苦手なんだ」


マックスはわざとガサゴソと音を立てて、

私がプレゼントした紙袋を開き始めた。


そのタドタドしさに思わず笑みがこぼれる。



紙袋から、黒いマフラーが出てきた。

でも、マックスはその微妙な長さに首を傾げる。


「ネクタイ?」

「・・・そんな太いネクタイないでしょ」

「うーん、あ。分かった!」


マックスが目を輝かせ、

両手でマフラーを広げる。


「これが日本の腹巻ってやつかあ」

「・・・」



私は2人の未来に若干の不安を覚えた。







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