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第18話 呼び出し

サリーさんのお店から帰るなり私は、

ベッドで丸くなって幸せそうに眠るユリアちゃんに夜這いをかけにいった。


とうっ!


「この野郎!」

「きゃあ!な、なんですか!?」


どっちが男か分かったもんじゃない。


「どうして先に帰っちゃうのよ!?」


お陰でなんか勢い余ってマックスに暴言吐いちゃったじゃない!!


「く、苦しいです、お姉様・・・上に乗らないで下さい!」


箸より重いものは持てませーん、って顔しておきながら、やっぱりそこは男の子。

力任せに起き上がられて、私はあっけなくコロンと床に転がった。


「もう!どうしてって、お姉様とマックスを2人きりにしてあげようと思ったんですよ!」

「うるしゃーい!」

「うるしゃーいって・・・お姉様。もしかして、酔ってます?」

「酔ってないもん・・・頭・・・痛い・・・」

「呆れた。二日たってないのに、もう二日酔いですか?」

「うるしゃーい!」


ううう。どうしてこんなに頭が痛いの?


「レストランでは飲んでませんでしたよね?あの後マックスとどこかで飲んでたんですか?」

「うん・・・」


ユリアちゃんのベッドの上で頭を抱えて蓑虫みたいに丸まっていると、

「しっかりして下さいよ、お姉様」とどこかで聞いたことのある台詞を言いながら、

ユリアちゃんが濡らしたタオルを持ってきて、おでこにあててくれた。


「あひかとー(ありがとー)」

「全く・・・何をそんなに飲んだんですか?」

「かるあみるくー」

「何杯?」


人差し指を立てて見せる。


「一杯!?たった一杯でこんなんになっちゃうんですか!?」

「そーみたい」

「もうお姉様はお酒禁止です!」


大きな声出さないでぇ~


私は涙目でユリアちゃんを見上げた。


「ユリアちゃんが早く帰るのが悪いのよ」

「だって、ユリアとお姉様が一緒に暮らしてるって言ったらマックスが嫌そうな顔してたから、

これは2人きりにしたら何か進展があるかも!と思って気を利かせたんですよ?」

「・・・嫌そうな顔してた?マックスが?」

「思いっきりしてたじゃないですか。マックスはお姉様が男と同居してるのが、嫌なんですよ」


確かに、いい顔はしてなかった。

でもそれは私が男と同居してるからではなくて、

一般的に結婚前の女が男と同居するのがよくないと思ってるだけで・・・


「今時そんなことで怒る人なんていませんよ。ましてやマックスは若いのに」

「でも~」

「でももへったくれもありません。とにかくマックスはお姉様に気があると思います」


澄ましてそういうユリアちゃんに、私は頭痛も忘れてガバッと起き上がった、

けど、やっぱり忘れられなくて再びベッドの上にヘナヘナと崩れ落ちた。


枕を頭の上に乗せて、くぐもった声でユリアちゃんに訊ねる。


「・・・本当にそう思う?」

「多少は」

「・・・」

「だけどまあ、よかったじゃないですか」

「・・・」


よかった、んだろうか。


じゃあ、このモヤモヤはなんだろう。

マックスに彼女がいたと聞いた時から感じているこのモヤモヤは。


・・・私、マックスを好きな女は私だけだと思ってた。

マックスがゲイだと知りながら、それでもマックスを好きと言えるのは私だけだと思ってた。

だからマックスを男に取られることはあっても、女に取られることはないと思ってた。


そう思って安心してた。


でも、もしサリーさんの言うように、

マックスが男女関係なく魅力的な人全てに惹かれるとしたら、

私にはライバルがたくさんいることになる。


マックスがゲイなら、私のライバルは男だけだ。

マックスがゲイじゃないなら、私のライバルは女だけだ。


でも、もしかしたらその両方がライバルかもしれない。


その一方で、マックスは女でも好きになれるのかも、という淡い期待もある。

もしそうだとして、もしマックスが私に興味を持ってくれたら、

こんなに嬉しいことはない。


だけど・・・


「マックスに彼女がいたなんて、ヤダ!!!」

「ど、どうしたんですか、急に?」

「ヤダ、ヤダ、ヤダー!!!」


この日、明け方近くまでくだを巻いていた私は、

ユリアちゃんに本当に禁酒令を発令されたのだった・・・。






「俺に何の用なんですか」


私のお目付け役1号の湊君(2号は言わずもがなユリアちゃん)が、

分厚い本を脇に抱えながらしかめっ面になった。


「知らないわよ。ルーク・コルテスが『ミナト・マセギと一緒にジュークスへ来て欲しい』、

って言うんだから。ねえ、その本なんなの?」

「春美さんに説明しても分からないような、難しい古典文学です」

「・・・」


相変わらずね。


「どうでもいいけど、それ持ってジュークスに行く気?」

「持って行きたくないっていうか、アイツのいるジュークスに行きたくないですけどね」

「もう。とにかく行こうよ」


私は、古典文学を持っていない方の湊君の腕を強引に引っ張って、

地下鉄へ下りていった。



ユリアちゃんがうちに引っ越してきた日以来、私と湊君はちょっとギクシャクしていた。


マックスのことを非難する湊君に、私が冷たい態度取っちゃったからね。


気にはなってたけど、ユリアちゃんとドタバタの生活をしていたので、

湊君と会う機会もなかった。


でも、ルーク・コルテスに呼び出されたのを利用して、

早速こうやって湊君の高校へ押しかけたのだ。


お陰ですっかりいつもの「振り回す春美さん」「振り回される湊君」だ。

いや、「すっかり」って訳じゃないかな。

根本的な問題は解決してない。


現に今も、校門の所で立っている私を見つけた時、湊君は嬉しそうな表情をしたけど、

私が「ジュークスへ行く」と言ったとたん、その表情は曇った。

そして今も同じ表情のままだ。


「ちょっとー」


ちょうどホームにやってきた地下鉄に乗り、

古典文学の間から湊君の脇をツンツンとつつく。


湊君がますます顔をしかめて身をよじる。


「いつまでそんな仏頂面してるのよ。似合わないわよ?」

「ほっといてください。元々こういう顔ですから」

「ふーん。でも、そんな顔だと嫌われちゃうわよ、女の子に」

「どうでもいいです、そんなこと」

「そうね。一人にさえ嫌われなければ」

「・・・」

「でも、あの人も、そんな表情の湊君は好きじゃないと思うけど」


湊君がぷいっと窓の外を向く。

地下鉄だから、窓の外はもちろん真っ暗だ。


だけど湊君の目はその暗闇を通して、

私には見えないものを見ている気がした。






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