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第15話 ヤキモチ?

一見、彼氏と彼女とその妹。

でもその実、ゲイとその婚約者候補とレディーボーイ・・・

という妙な取り合わせの3人は、

それでも和やかなムードで食事をした。


会話の内容は専らジュークスのこと。

私とユリアちゃんが聞きたがったからなんだけど、

マックスはちゃんと食事の席に似つかわしいレベルで、且つ、

大学生になったばかりの私と高校1年生のユリアちゃんが理解できるレベルで、

ジュークスのことを色々教えてくれた。


が、最後のコーヒーと小菓子の段階になって、

マックスが思わぬ話題を振ってきた。


「ミナト・マセギは元気?」

「え?湊君?」


確かに私が2回目にジュークスへ行った時、

(結婚話を断るつもりで行ったのに、「結婚します」と言っちゃった時だ)

私の従姉弟ってことで湊君もマックスと会ってるけど、

マックスと湊君は特に会話をしてなかったと思う。


それどころか湊君はずっとマックスを睨んでいたから、

マックスも湊君が自分を良く思ってないことは気付いてるはずだ。


それなのにマックスはどうして湊君のことを聞くんだろう?

単なる世間話だろうか。


「うん。元気よ」


私は取り合えず無難な返事をすることにした。

でも、マックスはやたらと湊君の話題に食いつく。


「ミナトは高校生だよね?どこの高校?」

「私と一緒。L高校よ」

「今何年生?」

「3年生」

「卒業後は日本に帰るのかな?」

「今のところはそのつもりみたい。日本の大学を受験するかもって言ってたわ」


どうしてそんなに湊君のことを聞きたがるんだろう。

湊君に興味を持ったのかな。


・・・ちょっと待って。

マックスの場合の「興味」って・・・。


私はコーヒーをゴクッと飲み、

その苦さに目を白黒させた。


「湊さんのこと、気になるんですか?」


ユリアちゃんが笑顔で事も無げにマックスに訊ねる。

まるでマックスがゲイだなんてことは知らずに、純粋に質問してるだけに聞こえるけど、

ユリアちゃんもなかなかの曲者。

そう見せかけているだけで、実は私と同じことを考えているようだ。


でもマックスはユリアちゃんより、そして私より、1枚も2枚もウワテだった。


「僕のコト、知ってるみたいだね。でも心配しなくいいよ。ミナトは僕のタイプじゃない」


喜んでいいのか、悪いのか。

湊君はこれを聞いたらホッとするだろうけど。


「ユリアもミナトと同じL高校なの?」

「いいえ。U高校です」


マックスのコーヒーカップを持つ手が止まった。


「U高校って男子校じゃなかったっけ?」

「はい。ユリアはレディボーイなんです」


これまた事も無げに言うユリアちゃん。


マックスが驚いて目を見開く。


そりゃ驚くよね。

マックスにはユリアちゃんのことをレディボーイだと教えていなかった。

でもそれは隠していた訳ではなく、敢えて教える必要がないと思ったからだ。


ところが。


「でもユリアはハルと一緒に暮らしてるんだよね?」


珍しくマックスの口調が少し厳しくなる。

もしかして「結婚前の女性が男と暮らすなんて!」とか思ってるのかな。


結婚前って言ってもなー。

男、って言ってもなー。


「はい。いけませんか?」

「いや、いけなくはないが・・・」


マックスとユリアちゃんがしばし見つめ合い、

2人の間に微妙な空気が流れた。


ユリアちゃんは相変わらず屈託の無い笑顔だけど、

明らかに「え?なんですかぁ?」とすっ呆けた振りをしている。

一方マックスは、最初は値踏みするようにユリアちゃんを見ていたけど、

やがてその目が、不思議な色を帯び始めた。


それは、ご両親に見せる目でもなく、

私に見せる目でもなく、

湊君の話をした時の目でもなく・・・


ユリアちゃんは心は女でも性別は男だ。

そしてマックスは男が好き。

ユリアちゃんも自分を女だと思ってるから、恋の対象は男な訳で・・・


なんてピッタリな2人なんだろう。


私の中に、表現し難い気持ちが広がる。

なに、このイライラした気持ちは?


すると、何を思ったのかユリアちゃんが突然一気にコーヒーを飲み干し、パッと立ち上がった。


「ごちそうさまでした、マックス!」

「え?ユリアちゃん、帰っちゃうの?」

「はい!お先に失礼します!」


それだけ言うと、ユリアちゃんは本当にレストランから出て行ってしまった。


・・・もしかして、貞操の危機を感じたのだろうか。

マックスはそんな人じゃないもん。


「元気な子だね」


マックスはユリアちゃんの後姿を見ながら呟いた。


「気になるの?」

「え?」

「・・・」


私は膝の上のナプキンに目を落とした。


私ってば、何をヤキモチみたいなこと言ってるんだろう。

別にマックスと結婚するって決まった訳じゃないし、

相手はユリアちゃんなのに・・・


ううん。ユリアちゃんだからだ。

ユリアちゃんは男で、私は女だ。


「僕らも出ようか」


マックスは私の言ったことを敢えて聞き流し、

テーブルの上にナプキンを置き、立ち上がった。


「ハルはこの後、何か予定はある?」

「・・・いいえ」


普通だったらこの後ホテルに、なんてことが頭に浮かぶ。


私はこの時初めて「マックスがゲイじゃなければ良かったのに」と思った。

そしてそれと同時に、そう思ったのが今が初めてだということに驚いた。


そんなこと、一番最初に思いそうなことなのに・・・。


私、本当にマックスがゲイだなんてことはどうでも良かったんだな。


だってマックスはマックスだもの。

ユリアちゃんだってユリアちゃんだ。

ゲイとかレディボーイとか関係ない。


「ハル、お酒飲めるよね?ちょっとバーかどこかに行こうか」

「はい」


私はユリアちゃんに負けないよう、

とびきりの笑顔で返事した。






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