第12話 Coming Out! 2
「ユリア、春美さんみたいに綺麗でかっこいい女性に憧れてるんです!」
「そ、そう・・・」
ユリアちゃんが勢い込んでテーブルに身を乗り出す。
「是非、春美さんの研究をさせてください!」
「ど、どうぞ・・・」
「いいんですか!?ありがとうございます!」
ユリアちゃんは今にも小躍りでもしだしそうな勢いだ。
って、研究ってなんだ。
解剖でもするのか。
あっけに取られて湊君の方を見ると、湊君が笑いを噛み殺している。
「昨日の夜、春美さんが帰った後急に『春美さんみたいになりたいです!』って言い出したんです」
「・・・」
「俺は賛成しませんけどねー。春美さんが2人もいたら大変です」
どういう意味よ。
でも、大喜びしているユリアちゃんを見ているうちに、
私はいいことを思いついた。
正直言って、私はユリアちゃんを湊君に近づけたくない。
ユリアちゃんだけじゃない。
女の子なら誰でも湊君に近づけたくない。
・・・別に、湊君を独占しようとか思ってる訳じゃないわよ?
とにかく、これを上手く利用すれば・・・
私はわざとらしく咳払いをした。
「ねえ、ユリアちゃん。ユリアちゃんて、湊君と同じ高校に通ってるの?」
「え?まさか!ユリア、湊さんみたいに頭良くないです!U高校に通っています」
そう言えば、湊君はブレザーの制服を着てるけど、
ユリアちゃんは昨日みたいなお姫様ワンピだ。
でも、U高校と言えば、湊君が通っている(そして私が通っていた)L高校ほどではないものの、
結構なレベルの高校だ。
加えてセレブのお子様方御用達。
どうやらこのお姫様は本当にお姫様らしい。
「U高校ならこの近くね」
「はい」
「だったらさ、うちのアパートに引っ越してこない?」
「え!?」
ユリアちゃんが、大きな目を更に大きくする。
ついでに湊君も笑顔のまま顔を固めてポカンと口を開けた。
「私が住んでる部屋の隣が空いてるの。
U高校からも近いし、治安もいい場所だし」
あなたの憧れの春美さんも隣に住んでるし。
「どうかな?」
「え?ええ?ど、どうしようかな・・・」
動揺するユリアちゃん。
でも、私の提案にかなり心は傾いているようだ。
「どう思います、湊さん?」
「そりゃユリアの勝手だけど・・・いや、やっぱダメだ」
湊君はちょっと戸惑った様子だったけど、キッパリと言い切った。
「ユリアがうちの部屋に来ることになった時、ユリアのご両親に、
『くれぐれもよろしく』って頼まれてるし、第一春美さんだって結婚するかもしれないんでしょ?」
「あ」
「ま、しなくていいですけど」
そうだった!私、結婚するかもしれないんだった!
もし結婚したら、今のアパートは出て行くことになるわよね?
じゃあユリアちゃんが引っ越してきたとしても、意味ないじゃん。
「春美さん、結婚するんですか!?」
何も事情を知らないユリアちゃんが、目を丸くする。
「あー、うん、まだ決まってないけど、もしかしたらするかも」
「すごーい!それでこそ春美さん!さすがです!」
そう?
「そっかー・・・でも、残念です。
春美さんの近くで春美さんを研究させてもらいたかったのに」
「そうね・・・」
本気でガッカリするユリアちゃん。
そんなユリアちゃんを見てたら、なんだか私まで残念な気がしてきた。
湊君を慕っているという一点を除けば、ユリアちゃんには文句をつけるところがない。
そしてそれが嫌味でもなく、好感を持てる。
見た目はちょっとイっちゃってるけど、中身はしっかりしてるし、
何より、なんだか私とフィーリングが合う気がする。
「・・・うちに来る?」
「え?」
「私の部屋、サービスルームがあるんだけど、使ってないの。
結婚するかどうかはまだ分からないけど、もし結婚するならそれまでだけでも・・・」
ユリアちゃんがパッと顔を上げる。
花でも飛んできそうな表情だ。
「いいんですか!?」
「うん」
サービスルームと言っても、
日本のそれのようにベッドを置いたらいっぱいいっぱい、という訳じゃない。
私が今使っている1LDKとは扉でちゃんと区切られているし、
お互いプライベートは確保できる。
それに私は、高校時代は日本でもアメリカでもずっと寮生活だったから、
区切りも何もない一つの部屋の中で他の生徒と暮らしていた。
そのことを思えば、ユリアちゃんとの同居なんてなんでもない。
「もちろん、ユリアちゃんが良ければだけど」
「良いです!」
「ちょっとの間かもしれないから、ちゃんとした引っ越しはせずに、
ご両親には今のまま湊君たちのアパートに住んでることにしておけばいいわ。
うちなら家賃もいらないからご両親にバレることもないでしょ。
もし結婚の話が流れたら、またその時考えよう」
「はい!ありがとうございます!」
「ちょっと待ってください!」
ようやく湊君が口を挟む。
「ダメですよ、同居なんて!」
「どうして?」
「だって春美さん、ユリアのことなんてロクに知りもしないじゃないですか!」
「私は知らないけど、湊君は知ってるでしょ?
どう?ユリアちゃんは、とてもじゃないけど一緒に住めないような子?」
「い、いや、そんなことないですけど」
「でしょ?それにU高校の生徒なら身元も確かだし、問題無ないわよ」
「・・・」
湊君も、私が言い出したら聞かない猪突猛進娘(多分ユリアちゃんも)だと知っているので、
それ以上反対はしない・・・と思ったら。
いい感じに話がまとまってきた最後の最後で超ド級の爆弾を投げてきた。
「やっぱダメです」
「なんでよ」
「ユリアはレディボーイだからです」
「レディボーイ?」
ユリアちゃんを見ると、
ユリアちゃんは「てへっ」と言う感じで可愛らしく舌を出して笑った。
「何よ、レディボーイって」
「レディの心を持つボーイってことです」
「レディの心を持つボーイ・・・って、つまり、ボーイってこと?」
「そうです。ユリアは男です」
「・・・・・・」
もう一度ユリアちゃんを見る。
ユリアちゃんはまだ舌を出して笑ってる。
レディー・・・「ボーイ」。
・・・・・・。
オーマイガー!