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第11話 ルームメイト

「美味い!」


湊君のルームメイトである韓国人留学生のユンは、

私(とリザと湊君。比率にして2:3:5)が作った肉じゃがを一口食べてそう言ってくれた。

なんだか神様に見える。


「さすが湊。料理が上手だよな」


・・・一般人に格下げしてやろう。


湊君が一応フォローを入れてくれる。


「今日は、春美さんとリザさんも一緒に作ったんだ」

「へえ」

「危うく、ぷるんぷるんの肉じゃがになるところだったけど」


・・・何よ。覚えたもん。

「さしすせそ」の「せ」は醤油で、「そ」は味噌なんでしょ!?

なんか、反則って感じなんですけどっ!!

醤油なら「し」で味噌なら「み」じゃないの!?


私は湊君を無言で睨んだけど、

湊君はそれを無視して、

「肉じゃがだけじゃなー」と言いながら余り物で手早く作った野菜炒めを箸でつまんだ。


くそう。主夫め。


「春美。湊が作ったお味噌汁を飲みながら睨んでも、迫力ないわよ」

「ほっといて」


このお味噌汁がまた美味しい!

くそう!!!



とまあ、少々いざこざ(?)はあるものの、

この部屋の住人3人に、私とリザの2人が加わった5人の食卓は穏やかで賑やかだった。


ただちょっと、私もリザもさっきから気になってることがある。

だけど、なんとなくそれを聞き出しにくい雰囲気なのだ。


私はお味噌汁を飲みながら、こっそりと目だけ湊君の方へ向けた。


湊君の左隣には、ひょろっと背の高いユンが座っている。

そして右隣には・・・何故か15,6歳の日本人の女の子が座っている。


なんの為に着てるの?と言いたくなるほどフリッフリのミニワンピに、編みこみブーツ。

それがまた白い肌と大きめカールの髪によく似合っている。

バッチリ姫メイクをしてるけど、多分そんなことしなくても充分可愛い顔をしてると思う。


まさにお姫様。


そう言えば数ヶ月前、湊君が、

「9月からルームメイトが1人入れ替わるんですけど、新入りは日本人らしいんですよ。

俺は他の国の人と友達になりたくてここに住んでるのに、日本人が来るなんて嫌だなー。

大家さんに頼んで、他の部屋も合わせてメンバー入れ替えしてもらおうかな」

と愚痴ってたのに、その数日後、湊君の態度はコロッと変わり、

「日本人を俺達の部屋で受け入れることにしました」と言い出した、なんてことがあった。


それってつまり、その新入りの日本人が可愛い女の子だったからって訳?

見損なったわよ、湊君!


あれ?

でも、どうしてこの部屋に女の子が住めるんだろう。

この部屋は男子専用でしょ?

まあ、人数とかの関係で、どうしても男女同室になったのかもしれない。

個人部屋があるから一緒に住めなくはないし、

お互いちゃんと「節度」を保てば・・・


しかーし!!


私はお行儀悪くずずずーっと音を立ててお味噌汁をすすった。


お姫様の湊君を見る目が普通じゃない!

キラキラピカピカしてるわよ!

明らかに恋しちゃってるじゃん!


湊君も鈍い男じゃない。

お姫様の視線に気付いているはずだ。


こんな男女を一つ屋根の下に置いておくなんて・・・言語道断!!!


それでも私は「野菜炒め、美味しいなあ」なんて思いながら自分の皿を全て綺麗に平らげ、

デザートまでしっかり頂いて帰宅したのだった。






「この女ったらし!」

「そう来ると思ってました」


何の用なのか、またノコノコと大学のカフェテリアにやって来た湊君に、

私は開口一番そう言った。


が、湊君の横で物珍しそうにキョロキョロしているお姫様を見て、

慌てて愛想笑いを作る。


「アラ、コンニチハ。・・・ユリア、ちゃん」


一瞬名前を忘れて焦ったけど、なんとか思い出した。

そうそう、「ユリアちゃん」だ。

昨日、純日本人なのに変わった名前だわ、と思ったんだった。


「あれ?春美さん一人ですか?リザさんは?」

「大学生だって暇じゃないのよ」


男の子にデートに誘われたんだとさー。

けっ。

私なんて、婚約者(一方的に命名)から連絡もないってのに!


「そうですか。まあいいや、春美さんだけでも。・・・おい、座れよ」


湊君が私の向かいに座り、ユリアちゃんを見ながら自分の横の椅子を指差した。

ユリアちゃんはポッと頬を赤く染めると小さく頷き、素直にそれに従う。


「し、失礼します、春美さん」

「どーぞ、どーぞ」


いちいち可愛いな・・・

なんか、年取った気分だわ。


膨れっ面の私を見て、湊君がニヤニヤしながら訊ねてくる。


「肉じゃがの作り方覚えました?」

「なんとなく。練習しなきゃ。次は洋食を教えてね」

「ええ!?まだやるんですか!?勘弁して下さいよ。

そうだ。ユリアと一緒ならいいですよ。

ユリアもまだあんまり料理できなくて、教えてやらなきゃって思ってたんです。いいですか?」

「・・・私はいいけど」


生徒に選択の権利はない。


湊君がユリアちゃんの方を見る。


「ユリアもそれでいいだろ?」

「はい!」

「よし、んじゃ次は春美さんとリザさんとユリアの3人だな」

「はい!」


・・・なんなんだろう、この2人。


私は得体の知れぬ違和感を覚えた。


湊君は、基本、女の子に優しい。

でも、昨日は会話が全て英語だったから気付かなかったけど、

今日こうやって日本語で湊君とユリアちゃんが会話しているのを聞くと・・・


確かに湊君とユリアちゃんは仲が良さそうだ。

だけどそれでいて、湊君はユリアちゃんに対して随分サバサバしている。


それは、湊君がユリアちゃんの気持ちを迷惑に思ってるから、

という訳でもない気がする。


とにかく、この2人はまだただの友達ってことだ。

私と湊君、

リザと湊君、のように。


だけどそれにしても・・・ちょっとサバサバしすぎじゃない?湊君。



「じゃあ、今度は来週の土曜にしましょう。いいですか、春美さん」

「あ。うん」

「洋食って言っても色々ありますけど、何にします?俺もそんなにレパートリーないですよ?」

「そうね・・・なんでもいいわ」

「ユリアは?なんか食いたいもんあるか?」

「ユリアは豚肉のしょうが焼きがいいです!」


湊君が声を上げて笑う。


「それって洋食かどうか微妙だな。ま、いいや。

あ、そうだ、春美さん。今日は話があって来たんです」

「話?」

「俺がっていうか、ユリアが、ですけど」

「ユリアちゃんが?」


ビックリしてユリアちゃんの方を見ると、

ユリアちゃんがちょっと赤くなって俯く。

ついでにモジモジしだした。


むむむ。どうしてくれよう。


「あの・・・その、何て言ったらいいかわからないんですけど・・・」

「うん」

「お願い、があるんです」

「うん。なに?」


上目遣いの大きな瞳に私が映る。


「ユリアを春美さんの妹にしてください!」



はい?






 


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