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第1話 ディカプリオ

--- アメリカのストリートで、日本人女性の坂上春美さかがみはるみさんが死亡。

病死と見られる ---


ああ、きっと明日の日本の新聞にはそんな記事が載るんだわ。


でもせめて「日本人美人女性」にしてよね。

これでも日本にいたころは巷じゃ有名な美少女だったんだから。


でも、どんなに美少女でも、19歳で死んだんじゃ意味ないか。



私は、決して人通りが少なくないストリートの脇にしゃがみこんだ。


痛い・・・

どうしてこんなにお腹が痛いの?

まあ、原因は昨日飲んだ生水だろうけど。

後、ちょっとお肉とケーキも食べ過ぎたのよね。


それにしても、どうして誰も助けてくれないの?

異国の地で美しい日本人女性がこんなに苦しんでるのに・・・

こういう時は、目も見張るような美青年が、

私をふわっと抱き上げて病院に運んでくれるんじゃないの?


でも、現実にはそんなこと有り得ないって、私だって分かってる。


思えば私は周囲から「さぞかしモテるんだろう」と思われ続けてきた割りに、男運がない。


中1の時に初めてできた彼氏は、やたらと先を急ぎたがる奴で、

キスまでは許したけど、それ以上を私が渋るといつも不機嫌になってた。

高1の時にできた2人目の彼氏は、申し分なかった。

かっこいい社会人で優しくて、紳士的で。

だけどこれは私が悪かった。

見た目だけは良い小悪魔男に引っかかり、自分から彼氏を手放してしまったのだ。

しかもその小悪魔男はあっさり私を捨てて、

こともあろうに私のお姉さん的存在の先輩と付き合い始めた。


これを、「男運がない」と言わずして、なんと言おう。


ああ、せめて死ぬ前に素敵な彼氏を作って死にたかった・・・

だけどもう手遅れ。

私はこのままここで、1人寂しく死ぬんだわ・・・


というわけで、第1話にしてこの物語は終了です。


さよなら、みなさん。

アーメン、ソーメン、ラーメン・・・


あー。もう一度日本の豚骨ラーメン、食べたかったなぁ。

油を追加するのが最高なのよね。

カロリー高いし、身体に悪いのは分かってるんだけど、あればかりはやめられない。


そうよ。

あの油たっぷりの豚骨ラーメンを食べるまでは死んでも死に切れないわ!


悲壮感さえ漂う表情で顔を上げた、その時。

不意に私の身体が宙に浮いた。


「Are you OK?」


OKな訳、ないでしょ。


私がかすかに首を振ると、再び英語が私に投げかけられた。

一応断っておくと、私はこれでも日本のエリート高校からアメリカに留学してきて1年半以上経つ。

英語だってペラペラだ。

でも、死に瀕している今、英語を理解する余裕はない。


せめてもと思い、頑張って目を開くと、

キラキラ光る金髪と、青く優しげな瞳が見えた。


おお。ディカプリオじゃん。


・・・そんな訳ないか。

でも、ディカプリオも真っ青なくらいの美青年が目の前にいる。


これって夢?

夢でもいいや。

最後くらい、いい夢見ながら死にたいじゃない?

どーせ、彼氏いないんだし。


ああ、でも、ラーメン・・・



必死の抵抗も虚しく、私の意識は闇の中へと引き摺り込まれて行った。








「Are you OK?」


さっきと同じ言葉で、私は目を覚ました。

でも、さっきは男の人の声だったけど、今度は女の人の声だ。


それだけでこんなにもテンションが変わるものか。


私はボサボサであろう頭をかきながら、ベッドから起き上がった。

朦朧としている脳を英語モードに切り替える。


「はあ、大丈夫です、一応。ここは天国ですか?」

「天国?」


白衣を来た女の人が目を丸くした。


「ここは病院。あなた、道で倒れてたのよ。

通りかかった人がタクシーでここまで運んでくれたの」


段々記憶がはっきりしてくる。


そうだ。私、お腹が痛くて道で野たれ死んで・・・は、いなかったようだ。


「私、生きてる!」

「当たり前じゃない。食あたりじゃ死なないわ」

「・・・」


いや。そんなことはない。

あの痛みは尋常じゃなかった。

きっと私、どこか身体が悪いんだ。


1人でブツブツ言っていると、無情にも女医さんは「もう帰っていいわよ」と言い放った。


あれ。私、本当に元気なのかな。


「あのー・・・。私をここまで運んでくれた人って・・・」

「背の高い男の人だったわよ」

「金髪で青い瞳の?」

「ええ」


夢じゃなかったんだ!

私はベッドから飛び降り、女医さんに詰め寄った。


やっぱり元気らしい。


「その人は!?」

「あなたをここに置いて、帰ったわ。仕事があるって」

「名前は!?連絡先は!?お礼、言いたいんですけど!」

「知らないわよ」


冷た!

そんなんじゃお客さん減るわよ!

最近は顧客満足度、英語でCustomer satisfaction、略してCS!が物を言うんだから!


って、ここは病院でこの人は医者か。

で、でも医者にだってCSがある、はず!

あ、だけど「お客」ってのは変よね、「患者」か。

「患者」は英語で・・・なんだっけ?


「何ブツブツ言ってるの?patientがたくさん待ってるし、ベッドに余裕もないから、

もうお腹が痛くないなら帰って欲しいんだけど」


そうそう。patientよ、patient。


では改めて。


そんなんじゃお客さん、じゃなかった、患者さん、減るわよ!

最近は患者満足度、英語でPatient satisfaction、略してPS!が物を言うんだから!


「まだ何か?」

「いえ・・・ありがとうございました」


私は日本人らしく殊勝な態度でお礼を言うと、病室を出て・・・

驚いた。

受付のロビーにズラッと人が並んでいたのだ。

どうやら、人気の病院らしい。

そう言えば、私もお腹全然痛くないし・・・


腕のいいお医者さんみたいね。

ふんっ。


ところが更に驚いたことに。


「あ。あなた、さっき食あたりで倒れて運ばれた人ですね」


順番待ちをしている患者さん達がクスクス笑う。


声が大きいわよ、受付のねーちゃん。

恥ずかしいんですけど。


「お支払いは、あなたを運んでくれた男性がしてくれました。

でも、かなり多めにお金を置いていかれたんです。お釣り、渡しといてもらえます?」


は?


どこの誰だが分からないんですけど。

と、言う前に、私の手の中に100ドル札が何枚も押し込まれた。





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