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春に咲く恋の花
ひとひらのはなびらを、じっと見守るいとまもない――。
「彼女、本当に歌が上手いんだ」
雪が降るように。
いくつもいくつも舞散る桜たち。
雨のようにサラサラと。
風に吹かれて散る様は、まるで紙吹雪。
一片の花弁を、じっと見守る暇もない。
その中で、彼女は歌を歌っていた。
その声に、
心臓が震えた。
生まれて初めての経験だった。
彼女から目が離せなかった。
頭の芯から爪の先まで、彼女に捕らわれていると思った。
一目惚れだった。
やわらかな黒髪が風にふわりと浮く。
歌声が風に乗る。
メロディーが自然と体を揺らす。
少し恥ずかしげに胸に手を当てて歌う姿が可愛かった。
俺よりも年上の女性なのに、こんなことを思うのは失礼だろうか。
花見も兼ねた、新人社員歓迎会。
その席で、俺は千春さんに恋をした。
『肌をなでる風』は、ほとんど「俺」の独白(?)で進んでいきます。
(最初は詩の形式を取り入れるはずが、あえなく断念……)
温かく読んでくださると嬉しいです(泣)