季節観
愛するが故の喪失感。
痛みは消えず。
ただ、四季は巡るのみ――。
吐く息の白さに凍える冬。肌を刺す空気に氷を連想する。冷たさ。固い感触。あのキーンとした、骨の芯がしみるような、震え上がるような感覚。外気につるんと濡れた透明感は、触れた指に融け出した氷の輝きであり、朝焼けに煌めく冴えた光だ。しかし冬の夜明けは遅い。しかも薄暗い。心のどこかで、俺は空が明らむのを待っている。冷たさをほぐす熱を無意識に探している。寝られない。そっと息を吐いて眠りたい。欲しい熱はどこにもない。
幾分柔らかくなった外気が、生き物に意識の覚醒を求める。窓の向こうに小さな蕾があった。桜だ。いずれ咲き誇り、散っていく運命の花。その一瞬の間に、人を惹きつけ見せつけ魅了して、突然終わりを告げる。綺麗な薄桃色の花弁は、無言で土へ還る。
夏の夜風は寂しい。ひんやりとした冷たさに木々が鳴く。真昼では青々と輝く葉は、夜闇に黒々と不気味に浮かび上がる。虫の音をつれて、風はカーテンを揺らして部屋に入り込む。長居はしない。すぐにどこかへと行ってしまう。いっそさらってくれと思う、俺を残して行くのなら。俺は風が含んだ水の匂いに弱い。好きだったから。忘れられないひとの姿が、目裏に浮かぶ。夢の縁で、俺は未だ覚めない幻を追いかけている。
いつの間にか、秋は訪れている。
目の前を、風もないのに枯れ葉がパサリと落ちるのを、驚きもなく見ることはできない。刹那の恐怖。西の空が赤く染まった中で、長く伸びた自身の影と暗い木々の静けさに言い様のない寂しさを覚える。それは彼岸花の鮮烈な赤を見たときにも感じる。本当は目を奪うほど美しいのに、やけにひっそりと佇む姿に悲しみが沸き起こる。別れの色だ。
木枯らしが吹く。地を滑るように、空を翔るように。
とても寒い。
街中の喧騒のためか、木々が大きく震えているのにその音は聞こえない。
濃緑と黄と橙の葉が乱れ舞う。西日をキラキラと弾いて白く輝くさまは、まるで紙吹雪だ。角度によって色を変え、速度を増しながら俺を掠める。
風は吹き抜ける。また、冬が来る。
彼女の去った世界に、また何事もなく、四季は巡る。
固くて暗くてごめんなさい(汗)
最初にベースにしたものより暗くなってしまいました(泣)
本当はこの『季節観』=『肌をなでる風』で1つだけの短編だったのですが、
「どんな短編よ?」と自分で思ってしまい、改めて連載にすることに決めました。
一応ラストのイメージはあるのですが、今回は投稿が遅くなるかもしれません。
あ、長文にはなりません。苦手なので(笑)
気長に付き合っていただけると嬉しいです。




