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べしゃっ
ずりずりずりっ
熱いっ
右手が焼けるように熱かった。気にせず立ちあがる。
周囲の味方がどんどん抜き去っていく。
こういうのって、大将を守るものじゃないのかよ。
俺は半べそをかきながら、走り出した。
※
なんでも直冬とかいう敵は逃げたらしい。主力は追撃に向かい、我々も後を追うように言われた。
のんびりしたものだった。だって敵はいないから。
爺やはピリピリしていたけれど、仲良くなった土岐なんとか君は、一緒に行軍している佐々木軍は鬼強いから俺たちも安全だと教えてくれた。
馬にも慣れてきたし、暑さも耐えられないほどじゃあない。
この世界でもなんとかなりそうだと、俺は安堵の息を吐いた。
※
ドッ、ドガガガッッッ
鳴り響く馬蹄が、凄まじい速度で大きくなっていく。
爺やが馬を止める。
ぽっかぽっかと歩を進めていた俺も、それに倣った。
ぞわっと、爺やの身体から殺気が立ち昇った。
険しい顔を向ける先を、俺も見つめる。
砂ぼこりとともに、黒光りの軍勢が出現した。
「ご、五七桐・・・」
うめくように爺やがこぼした。
それが何だか知らないが、良い話ではなさそうだった。
爺やがぐりんと振り返る。
俺は、戸惑った。
俺の顔を見て、爺やは大きく息を吸い込んだ。
「西へ!全軍、西へ!!」
かすれただみ声は、吶喊の声にかき消された。
※
「はやく!はやく駆けなされ!」
ざかざかざかと音を立て、顔をしかめて走り続ける。
「西へ、とにかく西へ!」
「に、西に何があるんだ!」
「桃井軍を御味方にぶつけるのです!あれほどの精兵をわれらに振り向け続けるはずがない!おそらくは京の都の再占領や、尊氏殿の本軍を挟撃する狙いでしょう!ならば、その本軍がいる西に逃げればよいのです!」
桃井?再占領?
息も絶え絶えに走る。全員で同じ方向に走りだしたので、とりあえず今川のやつらはついてこれているようだった。
わからない単語、何を意味するかわからない話。
すべてを無視して足を回す。
走って走って奔って
進行方向に、土煙が見えた。
「貞世様!」
「お、おうっ。」
爺やが、がしりと俺をつかむ。
ふわっ
身体が浮かんだ。
え?
何かを、握らされる。
「南へ逃げませい!石清水の、八幡宮でお会いしましょうぞっ!」
ぶんっ
浮遊感とともに、爺やの必死の形相が遠くなる。
ぼちゃんという水音と共に、俺の意識は途絶えた。




