6
後ほどと言われたとき、社交辞令だと思っていた。
さんさんと照りつける太陽を浴びながら、俺は汗をぬぐう。
合流地点に到着し、大将に挨拶せよと集められ、早数時間が経過していた。
しびれたしびれたと身体の主に懸命な信号を送っていた我が足はもはや何も言わなくなっていた。
このまま動かなくなったらどうしよう。
超怖い。
熱と疲労で朦朧とするなか、俺は近くにいた少年に声をかけた。
「待たされますね。」
少年はびくっと反応したが、こちらを向くと口を開いた。日本人はいつの時代も大して変わらないらしい。
「ああ、ふざけた男だ。」
彼も退屈だったのか、べらべらと喋りはじめた。
愚痴と修飾語で飾り立てられた話を要約すると
➀ここは細川清氏という軍の大将の陣
➁今待たされているのは旧直義派の出身者
③細川清氏は性格が悪い
この三つであった。
どうやら味方ではあっても仲が悪いらしい。
俺たちが話始めてからざわざわと騒がしくなりはじめ、かなり下品な悪口まで飛び交うようになった。
大将なんだろ?大丈夫かよ。
まあ、しかし、待たせすぎだ。もう少しでお日様が店じまいする。
べらべらと愚痴っている彼は土岐家という家の人間らしい。固有名詞が多すぎて嫌になってきた。
居並ぶ少年たちがヒートアップするなか、やたらごてごてした男が天幕に入ってきた。
少年たちを一瞥すると、大きく胸を張った。
「殿のおなーりー」
一斉に具足姿の武者が天幕に駆け込んでくる。
ざざざっ
左右に分かれて平伏すると、真ん中にぽっかりと空間ができた。
ぬっ
熊だ。
ぽかんと口を開く。
熊がきた。
のしのしと武者の間を進むと、床几の上にどかりと座った。
みしり
大地のきしむ音が聞こえる。
「細川摂津守清氏である。」
ははあ
武者たちが一層頭を下げる。
俺も下げたほうがいいかな。
動こうとしたが、少年たちは誰一人頭を下げていなかった。
どうしたらよいかわからず困惑していると青年が進みでた。
俺たちより数歳上に見える。
「石塔義中にござる。兵300を連れて参陣仕った。」
「うむ。」
場が殺気立つ。
となりの土岐少年も刀に手をかけた。
びびるが、わかる気がした。
この世界の礼儀作法はしらないが、顔を見ずに手であしらうのは、まずいだろう。
青年を無視して、武者に手渡された書状を読み始めた。
「な、いくらなんでも無礼ではないか!」
石塔青年は声を荒げるが、細川清氏は相手にしなかった。
青年は周囲の武者に引きずられるように天幕を出る。
嫌な空気が残るなか、残った少年たちは憮然とした顔で進みでる。
清氏は手であしらいながら書状を読み続けた。
「~~~兵200を「水害を甘く見るな。年貢は半減してやれ」」
側にいる武者に指示を出す。あの書状になにか書かれていたのだろう。
挨拶を無視された少年は顔を朱色に染めて天幕をくぐった。外でなぐさめる声が聞こえる。
やだなあ
右から順に前に出ていく。次は俺の番だ。
はあ
のそのそと歩み、頭を下げた。
「今川貞世にございます。兵100を連れて参陣仕りました。」
「うむ。」
清氏は一瞥もせず、次の書状の封を開けた。
よし、出よう。
出口に向かおうとすると、背中に声がかかった。
「今川。大殿のご温情を忘れるでないぞ。」
俺は言われた通りの返しをする。
「一族郎党、尊氏様に忠誠を尽くす所存です。」
ぺこりと頭を下げて、天幕をくぐった。




