愚かなパレント王子は、政略婚約を断り、初恋の令嬢と婚約をするが後悔したってもう遅い。
「わたくしが、貴方が探している花の精霊ですわ」
そう言って目の前に現れたのは、金の髪に青い瞳のそれはもう美しい令嬢だ。
パレント王太子は一人の令嬢を探していた。
パレント自身も金の髪に青い瞳の整った顔をしていた。現在17歳である。
10歳の時に、王宮の庭で見かけたのだ。
淡い水色のドレスを着て、金の髪に水色の花を挿した少女が王宮の庭をかけていくのを。
思わすパレント王太子は声をかけた。
「ここは王宮の庭だ。君は誰だ?」
「ごめんなさい。迷い込んでしまったみたいなの」
そう言った金の髪の令嬢はにこにこと笑って、
「私は花の精霊よ。精霊なのよ」
そう言いながら、駆けて行ってしまった。
可愛らしい笑顔。翻る水色のドレス。
あまりにも鮮やかで。
ずっとパレント王太子の記憶に残った。
少女の事が知りたい。
でも、当時は恥ずかしくて言い出せなかった。
ちょっと庭で見かけた少女の事が知りたいだなんて。
それに、もし、自分が少女の事を調べて、少女が庭に入った事を大人に追及されたらどうしよう。
そう思うと言い出せなかった。
だからずっと心の中の思い出として、しまっておいたのだ。
でも、17歳になって、婚約者を決めねばならない。
そうなった時に。母である王妃に訴えたのだ。
10歳の春に王宮の庭で見かけた少女を婚約者にしたいと。
母は驚いて、
「お前は政略で婚約者を決めねばなりません。名門ディアーナ・アルド公爵令嬢に決めたいと思っております。ディアーナの事は王立学園で見かけた事はあるでしょう。本当になんて馬鹿な事を言っているのかしら。たった一度見かけた少女と婚約したいだなんて。ディアーナと婚約しなさい。命令です」
と言われた。
ディアーナは黒髪黒目の令嬢で。確かに王立学園で成績が優秀だという事は知っている。
クラスも同じクラスで、結構、きつい令嬢だ。
言いたい事をハキハキと言って、派閥の令嬢達を連れていつも歩いている。
あのふわっとした金髪で青い瞳の花の精霊のような令嬢とは正反対だ。
あの少女と婚約したい。
あの少女の笑顔が忘れられない。
だけどもディアーナと婚約しなければならない。
ディアーナが翌日、派閥の令嬢達を引き連れて挨拶に来た。
王立学園での教室の中で、
「王太子殿下。わたくしが貴方の婚約者に決まりそうよ。わたくし程、優秀なら当然の事だわ。アルド公爵家は名門ですし、これから、よろしくお願い致しますわね」
思わずパレント王太子は言ってしまった。
「私は君と婚約したくはない。でも母上の命令だから仕方なく」
「まぁ。どなたかお好きな方でもいらっしゃるのかしら?」
「いやその‥‥‥」
「ともかく、わたくしも父の命令に従ったまでですわ。嫌なら、そちらから、婚約の話はなかったと父に話を入れて下さいませ。よろしくお願い致しますわ」
そう言われた。
ああいうきつい女は嫌だ。
私は初恋のあの少女と婚約したい。
そんな中、あの少女と似たような雰囲気を持つ女性を見かけた。
伯爵令嬢シェリア・ミリー。
フワフワの金の髪に青い瞳で、あの王宮の庭で見かけた少女に姿が似ていた。
思わす声をかけてしまう。
「君の名は?私はパレント王太子だ」
シェリアは慌てたように、
「私はシェリア・ミリーと申します。ミリー伯爵家の娘です。王太子殿下にお声をかけて頂くなんて」
「私は初恋の女性を探しているのだ。7年前、王宮の庭を横切っていった少女を。自分は花の精霊だと言っていたあの少女を。君は似ている」
「まぁ、それは私ですわ」
「君なのか。私は君の事がずっと忘れられなくて。探していたんだ」
「嬉しい。私は王宮の庭で見かけた王子様をずっと思っておりましたの」
シェリアが自分の探していた少女だったなんて。
パレント王太子はシェリアに向かって、
「私と婚約してくれないか。私は君と婚約したい。君と共にこの王国の為に歩んでいきたい」
「ええ、喜んで。私が王妃様だなんて夢みたい」
母である王妃に、
「私は初恋の人を見つけました。シェリア・ミリー伯爵令嬢。彼女と婚約したいと思います」
王妃に呆れられた。
「貴方はシェリア・ミリー伯爵令嬢の何を知っているというのかしら。わたくしが婚約しなさいと言ったディアーナ・アルド公爵令嬢は、わたくしが調べに調べて、家柄だけでなく、王太子妃として相応しいから推した令嬢よ。貴方の結婚相手はこの国の王妃にいずれなります。王妃としてふさわしくなければ。シェリアという娘には無理だわ」
パレント王太子は、
「これから王太子妃教育をするのは、シェリアも、ディアーナも一緒でしょう。努力をすれば王太子妃になれるはずだと私は思います」
「それで?貴方はシェリアの何を知っているのかしら?」
「シェリアは私の初恋の人です」
「それだけで結婚したいと?なんて愚かな。貴方の教育を間違えたわね」
弟のリード第二王子が部屋に入って来た。
まだ15歳。パレント王太子より2歳年下である。
「兄上、シェリアと結婚したいというのなら、私がディアーナと婚約致します。その代わり、王太子の地位を諦めて頂きたい」
「何故?王太子の地位をあきらめなくてはいけない」
「アルド公爵派閥は、社交界で大派閥でしょう。ディアーナ嬢は学園で、派閥の女子生徒達だけでなく、色々な令嬢と交流を持っております。アルド公爵夫人について、茶会にも出席しているとか。王国の未来をしっかり見据えて、人間関係もしっかりと構築しております。シェリアの事は同じクラスだからよく知っておりますが、普通の令嬢です。少数の友達と馬車で買い物に出かけて、普通に勉強して。伯爵家の令嬢としての常識はあるでしょうけれども、それでも、王国の将来の王妃としては物足りない。勉強もそうです。ディアーナ嬢は学年トップの成績でしょう。シェリアの名を、上位者の中で私は見たことがありません。ですから、兄上。私がディアーナ嬢と結婚して、王太子になります。兄上はシェリア嬢と結婚したらいい。初恋の人なんでしょう。だったらそれを貫いたら如何?」
弟の言い分が悔しかった。
自分だって一生懸命、勉強に励んでいるのだ。
男子生徒達と積極的に交流もしている。
だが、シェリアと‥‥‥あの王宮で見かけた青いドレスの少女の笑顔がどうしても忘れられなくて。
「母上。解りました。私はシェリアと結婚したい。王太子を下ります。ミリー伯爵家に婿に入るのでしょうか」
王妃は呆れて、
「ミリー伯爵家の事を調べもしていないのね」
リード第二王子が、
「シェリアの上には兄がいます。シェリアは家を継げませんよ。兄上、どうするんです?」
パレント王太子は慌てて、
「母上。私はどうしたら」
「自分で考えなさい。シェリアと結婚したければ。国王陛下に報告してきます」
行ってしまった。
あれから、半年過ぎた。
シェリア・ミリー伯爵令嬢と婚約をしたが、学園を卒業したら小さな王家の直轄地の一つを与えられて、そこでシェリアと暮らすという事が決定した。
シェリアと付き合ってみて、何だか違うなぁと‥‥‥
会話が合わないのだ。
シェリアは王都の流行の服とか、食べ物とかそういう事を話したがる。
パレントは王太子を下りて、今は王子である。
パレント王子は、歴史や、世界の事。王国の未来の事等、もっと色々と話をしたいのに、話題が狭いのだ。
王都の流行の服なんて興味がない。
食べ物なんてどうでもよくないか?
そんなとある日、シェリアと会ったら言われた。
「私、嘘を言いました。王家の庭になんて入り込んだ事はないわ。貴方が初恋の人に似ているって言うから話を合わせただけ。パレント様の話ってつまらないわ。私はケーキや、ドレスの話をしたかったのに。貴方の話は難しくて」
「でも、私は……」
「ちっとも私の機嫌を取ってくれないんですもの。結婚したら小さい領地で過ごすんでしょう。王都からちょっと離れているって。私は田舎はいやよ。王都がいいの」
騙された。いや、あまりにもあの少女の姿が鮮やかだったから。10歳の頃に見かけた水色のドレスの少女。
なのに…‥シェリアは違ったのだ。
今更、シェリアと婚約を解消することは出来ない。
パレント王子は後悔するのであった。
王宮で夜会が開かれた。
ディアーナは、弟のリードに手を引かれて、水色のドレスで夜会に現れた。
いつもの黒髪ではなくて、金色に輝く長い髪をたなびかせて、黒い瞳ではなく、青い透き通るような瞳で。
リード王太子の傍で輝いていた。
パレント王子は驚いた。
あの輝く金髪。透き通るような青い瞳。
ふわりとした水色のドレス。
あの10歳の頃、恋した令嬢その人で。
パレント王子はふらふらとディアーナに近づいて、
「その金髪は?青い瞳は?君の髪と瞳は黒だろう?」
ディアーナは微笑んで、
「わたくしの金髪はキラキラしていて目立つでしょう。髪も長くて癖がありますし、ですから、色を変えていたのですわ。化け玉で。でも、瞳の色まで変わってしまうのは化け玉の副作用ですわね」
「王宮の庭に迷い込んだ事は?」
「ああ、ありましたわね。10歳の頃に。わたくし、ちょっと冒険気分で庭を‥‥‥本当にあの頃はお転婆でしたわね」
初恋の女性はディアーナだったのだ。
それなのに、自分はなんて事をしたんだ。
「私は君を初めて見かけた時からずっと‥‥‥忘れられなくて」
「なんのことかしら?幼い頃にお会いした事なんてありました?」
弟のリード王太子が、
「兄上。ディアーナは私の婚約者です」
ディアーナも愛しそうに、リード王太子を見つめて、
「そうですわ。リード様はわたくしの気が強い所も、努力家の所も全て見て下さって。わたくしはリード様が大好きですわ」
何もかも崩れていく。
悪いのは自分だ。
愚かなのは自分だ。
後に、パレント王子は、婚約者のシェリアに暴力をふるったとかで、牢に入れられた。
牢から取調室へ連れて行かれ、取り調べの騎士に聞かれた。
「愚かだな。何故、婚約者に暴力をふるったんだ」
「ただただ、自分は花の精霊と結婚したかったんだ。シェリアは違った。彼女と一緒にいてもつまらない。なんて馬鹿な女と婚約したんだろう‥‥‥シェリアも言うんだ。貴方といてもつまらない。嘘なんてつくんじゃなかったわって何回も。だからつい殴ってしまった。あの女が悪いんだ。嘘なんてつくから」
「初恋の相手は前の婚約者候補だったディアーナ嬢だったと聞いた。でも彼女の性格が嫌だったんだろう」
「そうだな。嫌だった。きつい女で。でも、ディアーナが花の精霊だったなんて」
「初恋は美化しやすいもの‥‥‥」
「私は初恋の花の精霊を理想の女性像に仕立ててしまったんだな」
パレント王子は、取調室から、外を眺めて涙を流すのであった。
翌日、ディアーナが面会に来た。
パレント王子は驚いた。
鉄格子越しにディアーナが話しかけてきた。
鮮やかな金の髪、青い瞳。
「罪を犯したそうね。残念だわ」
「何故、私に会いに来た」
「わたくしも貴方の事が初恋だったの」
「え???なんだって?」
「王宮の庭に紛れ込んだら、素敵な王子様が話しかけてくれたわ」
「だったら、その事を私に言ってくれれば」
「わたくしがどうしてあなたの嫌うきつい女になったのか解る?それは、王妃になるためよ。王妃になるには、派閥の令嬢達を纏めなければならない。お茶会に出て交流を広めなくてはならない。勉強も優秀でなければならない。でも、貴方はきつい女が嫌いと言っていたわ。もし、わたくしが金髪碧眼で初恋の人だって解っていても、貴方は私の性格が嫌いなのでしょう」
「初恋の人だって解っていたら、私だって」
「あり得ないわ。そこが貴方の愚かな所よ。リード様は違った。わたくしの事をよく理解してくれたわ。貴方は愚かよ。本当に愚かだわ。貴方と婚約しないでよかった。さようなら。パレント様。愚かな貴方に相応しい罰を受けて下さいませね」
「私は君の事をっ」
「貴方が愛していたのは、幼い頃のわたくし。幻のわたくしだわ。わたくしは生きているの。生きて生きて生きて、強かにならないと生き残れないのよ」
背を向けてディアーナは出て行った。もう二度と会う事はないだろう。
改めて、幼い頃の初恋を美化していたのだなと、パレントは後悔するのであった。
パレント王子は王宮から迎えが来て、釈放された。
すぐに離宮に移された。
いずれ、毒杯か病死か‥‥‥
床下にぼこっと穴が開いた。
「美しき王子殿下。助けに参りました」
「我々と共に行こう」
「さぁこの触手に捕まって」
「三日三晩、温めて差し上げよう」
パレント元王子は姿を消した。
人々は変‥‥辺境騎士団にさらわれたと噂した。
屑の美男をさらって教育すると言う変…辺境騎士団。
パレントのその後は定かでない。




