1・転校生
「おい見ろ、また飛んでるぞ」
「またかー、登校中は能力使用禁止って言われてんだろうに…」
空を飛んでいるというのにそれが当たり前かのような会話が飛び交っている。
篠田柊斗はその雑踏の少し外側を歩いていく。校門へ続く並木道。制服の裾が揺れ、革靴がアスファルトを叩く。その一歩一歩に、彼は無意識のうちに歩幅と速度を揃えている。
――走らない。
――急がない。
癖だ。
動くほど、力が増す。
それが、自分の能力だから。
校舎前では登校中よりも異様な光景が増えていた。
そもそも登校中は能力の使用禁止なのだから突然なのだが。
地面すれすれを滑るように移動する生徒。
手のひらに青白い光を灯して、友人に自慢している生徒。逆に、何もできず、少し距離を取って歩く無能力者たち。
この学園では、それが「普通」だった。
「しのだー、おはよぉー」
声をかけてきたのは、風を纏ってふわりと着地したクラスメイト、仁科穹。能力は空歩【スカイウォーカー】。自身に風力操作をかけて空を飛ぶというもの。登校中ずっと、風力で体重を軽くしていたらしい。
「朝から飛ぶなよ。教師に見られたら減点だぞ」
「いいじゃん、どうせ俺の能力じゃ上位は狙えんし」
軽い笑い。
その"上位"という言葉に、柊斗は何も返さなかった。
ランキング制度。
能力評価や実戦成績。
この学園では、強さは曖昧なものじゃない。
数字と順位で、常に明確に刻まれ続ける。
能力保持者は当然のこと、無能力者までランキングに入ってくるのだからこの學園がどれほど明確な「強さ」に拘っているかが容易に想像できる。
この学園には日本各地から異能力を持った者たちが集まっている。学園が見込みアリと判断した生徒に入学の許可証を送る。入学するもしないも当人の自由だが、完全個室の学園寮や市街全体で学生へのサポートをしてくれるとなれば年端のいかない子供たちはその魅力にそそられ入学を決めてしまう。
――しかし実際は、ランキングとして自身の実力を全校だけでなく街全体に広められてしまうのだから下位の生徒は肩身が狭いであろう。
「おい…おーい柊斗、聞いてるか?」
物思いにふけっている間も仁科はずっと話しかけていたようだ。悪い癖だな集中しすぎると周りが意識できなくなる。
「それでよー今日来るらしいぜー」
「は…?なにが?」
「ったく何も聞いてねーんだからよ…転校生だよ転・校・生!」
―――――――――――
「今日、転校生来るらしいぞ」
「転校生?」
「ああ。能力者だってさ」
その言葉に、教室の空気がわずかに変わる。
能力者。それも、この時期の転校。
期待と警戒が、同時に走る。
チャイムが鳴り、担任が入ってくる。
「席につけー。……よし、静かになったな」
一度、教室を見回し――
担任は、少し間を置いてから言った。
「今日は一人、転校生を紹介する」
柊斗は、背もたれに軽く体を預けた。
正直、そこまでの興味は湧いてこない。
――自分より上でなければ。
「入ってこい」
教室の扉が開く。
入ってきたのは、特別目立つ外見の生徒ではなかった。
黒髪、整えすぎていない制服。
表情も、落ち着いている。
ただ――
「御神錬だ。今日からこのクラスになる」
御神錬。
その名前を聞いた瞬間、篠田の胸の奥が、わずかに熱を持った。
理由は分からない。
炎が反応したわけでもない。
それでも、本能が告げていた。
この男が自身にとって強敵となることを。
これまでの日常の終わりを。
レビュー、感想お待ちしております!




