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第6話 『黒の爪と炎の剣士』

ロゼリナから北東に伸びる古道。

 ギルド依頼で《黒の爪》の痕跡を追っていた良介たちは、再び森の奥深くに踏み込んでいた。


「足跡が濃くなってきた……ここが本拠かもしれん」


 バレッドが草をかき分けながら言う。

 リエーナは後方から警戒魔法を展開し、良介も《運命の書》を手に歩く。


 ただ、良介の胸には妙な予感があった。


(さっきから“物語の進行”が、やけに整いすぎてる……)


 《黒の爪》の拠点らしき場所、接触直前のタイミング、そして――“偶然の出会い”。


 森の中央部に差しかかったそのとき。


 爆音とともに、木々が吹き飛んだ。


 良介がとっさに伏せると、炎の渦が目の前を駆け抜けた。


「なっ……!?」


 爆風の中心に立っていたのは――

 赤いジャケットを羽織り、片手に大剣を担いだ少年だった。


 燃えるような紅い髪と瞳。

 全身から熱を発し、まるで戦場そのものを体現したような雰囲気。


「はー……やっと見つけた。お前ら、《黒の爪》だろ?」


 少年の眼差しが鋭くなる。


 だが次の瞬間、彼の背後から現れた男たちが襲いかかる。


「気をつけろ、囲まれてるぞ!」


 バレッドの叫びと同時に、敵影が木々の間から飛び出した。


 十数人の男たちが一斉に襲いかかる。

 その全員が、漆黒の爪を模した刺青を腕に刻んでいた。


「やっぱり、お前らだったか……!」


 少年が叫び、背負っていた大剣を振るう。


 その一撃はまさに火焔。

 剣が空を斬ると同時に、炎が爆ぜて敵を薙ぎ払った。


「炎……? いや、これ……ただの火じゃない」


 リエーナが驚きに息を呑む。


 良介は、《運命の書》に目を落とす。


『焔を纏う者、灰の中に真実を探す者。

かつて語られなかった炎の剣士が、物語に現れる。』


(“語られなかった”……? じゃあこのキャラ、俺が書いた覚えのない存在ってことか)


 戦いが終わったとき、あたり一帯は焦げた木と倒れた賊で埋め尽くされていた。


「助かったぜ、あんたらのおかげで」


 少年が、無造作に大剣を背中に戻しながら言う。


「いや、むしろこっちが助けられたよ……えっと、君は?」


「俺はカイ。炎の剣士って呼ばれてる。ま、あんまり名乗るほど立派なもんでもないけどな」


 カイは軽く笑ったが、その瞳はどこか深く、悲しみを宿していた。


「黒の爪に……何かされたのか?」


「――妹を、殺された」


 静かな口調だった。


 その瞬間、周囲の空気が変わった。


「復讐……か?」


「違う。ただ、これ以上、誰かの物語が奪われるのが嫌なだけだ」


 その言葉に、良介は胸がざわついた。


(“物語が奪われる”……?)


 カイの目は、まるで“書き換えられた”ことを知っているかのような、そんな瞳だった。


 その夜、野営の焚き火を囲みながら、カイは言った。


「俺さ、昔……誰かに言われたんだ。“この世界は誰かの作った物語かもしれない”って」


「……!」


「信じてなかった。でもな、妹の死も、黒の爪が急に現れたのも……全部、“都合が良すぎる”って、最近思い始めた」


 良介は、言葉を失った。


 今、まさに同じことを感じていたからだ。


「……カイ。お前、うちのギルドに来ないか?」


 バレッドが提案する。

 カイは一瞬黙ったあと、口元に笑みを浮かべてうなずいた。


「いいぜ。どうせ行く当てもなかったしな」


 その夜。

 《運命の書》が新たなページを開く。


『焔の剣士が仲間に加わるとき、書き換えられた章の謎が動き出す』


(……書き換えられた章。まさか、ここまでも?)


 良介はそっと《魔属の筆》を握る。


 この世界には、彼が知らない“登場人物”が増えはじめていた。

 そしてそれは、確かに――“誰か”の手で再構成された物語だった。

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