第1話 『俺が書いた世界じゃないんだが?』
草の匂いが、強く鼻を突いた。
広がるのは、見渡す限りの丘陵地。朝霧が淡く立ち込め、風が静かに吹いていた。
「……どこだ、ここ……」
廣田良介は、土の感触を掌に感じながら、ゆっくりと体を起こした。
冷や汗が額を伝い、視界はまだ揺れている。
さっきまで、自分の部屋にいた。
パソコンの前で、未完の小説の続きを書こうとしていたはずだ。
だが、気づけば草原の真ん中。
(夢……? いや、にしてはリアルすぎる)
掌の土の感触、背中に当たる草のひんやりとした湿気。
それらが「これは夢じゃない」と訴えてくる。
頭を抱えていたそのとき、足音が近づいてきた。
「あなた、大丈夫ですか?」
声がした。
顔を上げると、そこには――金髪に蒼い瞳の少女が立っていた。
まるで物語の中から出てきたような、端正な顔立ち。白と青を基調にした軽装鎧、腰には細身の剣。
良介は、無意識に目を見開いた。
(……このビジュアル、どこかで……)
見たことがある。
いや、書いたことがある。
彼女は、リエーナ・アルストリア。
自分が今まさに執筆中だった小説『光の勇者伝説』のヒロイン。
文中に何度も描いた、勇者の導き手であり、王国の巫女。
でも、そんな馬鹿な――。
「どうしました?」
少女――リエーナが、小首をかしげて覗き込んでくる。
近い。綺麗すぎて、息が詰まる。
だけど、それ以上に恐怖のほうが勝っていた。
「き、君は……誰?」
「……リエーナです。私はあなたを……導く者」
一瞬、言葉に詰まったように見えた。だがすぐに微笑んで名乗った。
その笑顔を見て、良介の背筋に寒気が走った。
どこか、誰かに似ている。
だけど、誰に似ているかが思い出せない。
リエーナに促され、良介は草原を抜け、小さな村へと足を運んだ。
「ここは〈グリューエ村〉といいます。最近は魔物の被害がひどくて、みんな不安で……」
「……あの、悪いんだけど、これは何かのドッキリじゃないの?」
リエーナが立ち止まり、不思議そうな顔をした。
「ドッキリ……ですか?」
「いや、あのな、普通、目が覚めたらファンタジー世界とか、そんなわけないだろって……」
自分の言葉が通じていないと気づき、言葉を濁す。
目の前の彼女は、演技とは思えないほど自然だ。というより、本当に“リエーナそのもの”だった。
(っていうか、この村の名前も、作中に出てくるやつじゃん……)
どこを見ても、まるで自分が書いた世界そのもの。建物、風景、人の服装。
まるで『光の勇者伝説』の世界を完璧に再現したような現実が、目の前に広がっている。
村の中で世話になり、パンとスープの夕食をごちそうになる。
「勇者様は、まだ目覚めないのですか?」
「リエーナ様が導くのなら、きっとすぐに……」
村人の口々から出てくる“勇者”という言葉。
リエーナが言うには、この世界はまもなく“魔王の軍勢”に滅ぼされるという。
「だから、あなたが必要なんです。廣田良介さん」
「……え、名前、知ってたの?」
それに対して、リエーナは微笑んだだけだった。
夜。
宿屋の小部屋でひとり、ベッドに横になる。
天井を見つめながら、良介は思う。
(これが夢じゃないなら、俺は“自分の書いた世界”に転生した……ってこと?)
それが現実なら、ファンタジーだとか魔法だとか、それこそ勇者だとか、戦いだとか、色々待っている。
(いや、そんなことより――)
気になって仕方がないのは、あのリエーナという少女の存在。
“リエーナ”は、作中のキャラクター。
でも、彼女にはどこか“現実の絵里”を重ねてしまう。
声、表情、そして、あの目。
(まさかな……)
否定するが、心はざわついていた。
そのとき、不意に視界が白く光った。
気づけば、目の前に一本の羽ペンが浮かんでいた。黒曜石のように深く輝き、重厚な魔力をまとっている。
『――魔属の筆』
どこからか声が響く。
そして同時に、一冊の古びた本が空中に現れる。
表紙には、こう刻まれていた。
『運命の書』
ページが勝手に開き、そこには一行――
《物語はまだ、書かれていない》
「……なんだ、これ」
手に取った瞬間、脳内に直接、情報が流れ込んできた。
【スキル習得】
《魔属の筆》
――記した文字を具現化する力。空想が実在となる。
《運命の書》
――未来の出来事が曖昧な予言として浮かぶ魔導書。解読困難。
「これ……チートスキルってやつか……?」
ファンタジーならありがちな展開。だが、それを“自分が書いた世界”で体験しているのだ。
だとすれば、この物語には、まだ続きがある。
いや、続きがあるのではなく――
自分が、続きを“書かされる”のかもしれない。
良介はそう思った。
そして翌朝。
リエーナは、いつもと変わらない笑顔で言った。
「さあ、行きましょう。あなたの物語を、取り戻す旅へ」
その言葉が、なぜか胸に引っかかった。
――“取り戻す”?
自分の書いた世界なのに、なぜ“取り戻す”必要がある?
その時、良介はまだ知らなかった。
彼の“物語”が、誰かの手によって――
少しずつ、書き換えられていることを。
※この物語はAI(ChatGPT)の草案を元に作者が加筆修正しています。詳細はあらすじ欄をご覧ください。