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第四話 ムーン・ラボ

 セントラルパークから車で二十分ほど行くと、目の前にゲートが見えてきた。ムーン・ラボは月面にある最大の研究施設だ。世界中から月や宇宙について研究している優秀な科学者たちが集まってくる。


 ミヅキは慣れた様子でラボの中に入り、受付AIにラジオとロックを紹介した。ミヅキはどんどん奥に進んでいく。


「ラジオ、あの子何者なんだろう」

 

 ロックも怪しんでいるようだった。


「このラボに入れるってことは怪しい人ではないと思うけど」

「食堂、こっち」


 ミヅキが指さす方からおいしそうな匂いがあふれてくる。

 食堂はビュッフェ形式だった。世界中の料理が並んでいて、どれもできたてアツアツだった。ラジオはミヅキの真似をしておぼんを取ると、ハンバーグとライスとオレンジジュースを選んだ。


「あそこに座ろうか」


 パスタとサラダを選んだミヅキが、あごを使って窓際のテーブルを指した。

 ラジオとミヅキは向かい合って座った。お昼時で混んでいたが、周りの席を見回しても、ラジオとミヅキ以外、子どもが座っている席はなかった。ラジオはなんだか少し緊張した。


「けっこうおいしいでしょ」


 ミヅキは慣れた様子でパスタを食べている。


「うん。月の料理ってどんなのかと思ったけど、地球と全然変わらないね」

「そうね。この基地の地下で自家栽培してる新鮮なものだからね。そのハンバーグは大豆で作ってるんだよ。その分、魚は高級品。地球の魚料理が恋しくなるよ」

「ミヅキは、月にどれくらいいる予定なの?」

「私、今、月に住んでるんだよ。もう一年になるかな。ときどき地球に戻ることがあるけど。昨日も地球に用事があって行ってきた帰り」


 ラジオが次の質問をしようとしたそのとき、二人のテーブルに一人の男性が近づいてきた。黒いシャツに赤いズボン、短く整えられている髪は一切乱れていない。


「ミヅキ博士。ここにいたんですか。主任が探しておられます」

「ジョーイ、今、食事中」


 ジョーイと呼ばれた男性は表情をほとんど変えずに続けた。


「今日中に主任と話してください。お願いしますよ」


 ミヅキは不機嫌そうにジョーイに向かって手で追い払うような仕草を見せた。ジョーイは何も気にしない様子で離れていった。


「ごめんね。食事中に」

「いや、大丈夫だけど。あの男の人は?」

「ああ。私の秘書アンドロイド。私、このラボで研究してる科学者なの」


 ミヅキがあまりにもさらっと言ったので、ラジオは理解するのが少し遅れた。停止したラジオより先に反応したのはロックだった。


「ミヅキって、もしかして月地質学のフジ博士? 十四歳で博士号をとった!」


 ミヅキは、さも当たり前じゃないと言うような表情でうなずいた。


「研究が私に合ってたってだけのこと。このあと、私の研究室おいでよ。見せたいものもそこにあるから」

「行きたい! ラジオ、ミヅキは、世界最高の天才の一人なんだよ!」


 またもラジオよりも先にロックが大きな声で答えた。食事が終わると、食堂の入り口の向かいにあるエレベーターから下に降りた。ミヅキの研究室は地下八階にあるらしい。

 エレベーターのドアが開き、廊下に出た。壁はすべて木目調で統一されていた。人工的な基地の中でいやしになる。


 廊下の両端にはドアが並んでいる。ドアは樫の木で作ったように見える。迷いの森の中に入った気分になっていたときに、ミヅキの「ここの壁、全部、CGだから」というさりげない一言で、ラジオの心は台無しになった。


 一番奥から二つ手前のドアの前でミヅキの足がとまった。樫の木の扉が部屋の主人を認識して静かに横に開く。


「さ、入って」


 ミヅキの研究室に一歩入ってみると、ラジオとロックは思わず「わあ」と声をあげてしまった。

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