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第三話 ミヅキ

「よく来たね、ラジオ。月へようこそ。どうだった、初めての宇宙旅行は?」


 ラジオのお父さんの妹、マヤちゃんがドアを開けるなり、大きな声でラジオたちを迎えた。ラジオがやってくるのをずっと待ちわびていたようだ。


「うん。思ったよりもあっという間だった。月の低重力も面白かったよ。マヤちゃん、これ、お父さんから」

「サンキュ。月の生活が長くなると、地球の食べ物が恋しくなってね。ラジオ、荷物を奥の部屋に置いたらお父さんに無事着いたって連絡しておくんだよ」


 マヤちゃんの部屋は二階建てマンションの一階だった。リビングの他に、一人暮らしには広すぎるくらいの大きな部屋が二つもあった。

 荷物の整理をし終えると、ラジオは首からペンダントを外し、石を手のひらに乗せてみた。相変わらず淡く銀色に光っているが、それ以外に何も不思議なことはない。


「ラジオ、今日の夕飯はどっか行こうか。ん?」


 ひょいと顔を出したマヤちゃんもラジオの手の上に乗った石に注目した。


「それ、綺麗な石ね。オパール?」

「ううん。母さんからもらったんだ」

「義姉さんの石か。……大事にしなきゃね。さあ、ラジオ。何を食べたい?」


 ラジオたちは、その夜、月にある一番有名なレストランで美味しい夕飯を食べた。野菜も肉もどれも地球と変わらない味だった。

 ラジオは家に帰るとすぐに眠ってしまった。長旅で気が張っていたのだろう。



 翌日、ラジオがいつもより遅く起きると、マヤちゃんはすでに仕事に行っていた。その代わりに動画が残されていた。


「ラジオ、おはよう。月の朝はどうかな? ちょっと太陽がまた暴れてるらしくて、急な仕事がかなり入りそうなんだ。ごめんね。なるべく早く休みとれるようにするから」

「ラジオ、昨日のミヅキからも連絡がきてるよ」


 ロックが、ラジオの目の前にミヅキから「今日の午前十一時、セントラルパークで会えない?」というメッセージを表示した。特に予定もなかったので、ラジオは「いいよ」と返信をした。


 ラジオは朝食のトーストを食べ終えると、支度を整えて、外の通りに出た。

 月の朝と言っても、空には人工太陽が光っていてまぶしかった。ラジオの横をランニングしている人や犬の散歩をしている人が通りすぎていく。


 本当の月の一日は地球よりずっと長い。月の基地内は人工太陽を使って、二十四時間で一日が過ぎるようにしてあった。

 ロックの案内で二十分ほど歩くと、通りの反対側に自然あふれる公園が見えてきた。風が吹いているのか木々がゆれている。鳥が飛んでいる姿は見えなかったが鳴き声も聞こえてきた。


「この公園のどこにいるんだろう。ずいぶん広い公園だね」


 ラジオの言葉をどこかで聞いていたのか、ちょうどのタイミングでミヅキから連絡が来た。ロックの画面にミヅキの顔が映った。


「おはよう。噴水前のベンチにいるから、そこで待ってる」


 ミヅキは必要なことだけ早口で伝えると、すぐに画面を切った。何でも一方的に押し付けるタイプらしい。ラジオが奥に進んで行くと、公園の中心に円形の噴水があった。噴水を囲むようにある三つのベンチには、ただ一人の女の子だけが座っていた。


 ベンチの背もたれに両手を掛けて、キャップを被ったその女の子はラジオを見つけると手を振って合図した。白いTシャツにズボンとラフなかっこうだった。


「おはよう。昨日は悪かったね。これ、どうぞ」


 ミヅキは立ち上がり、手に持っていたリンゴジュースをラジオに渡した。


「改めて、私、フジ・ミヅキ。十六歳。よろしくね」

「ぼく、月野木ラジオ、十歳。これ、ありがと」

「呼び出しちゃってごめんね。ラジオはどこから月に来たの?」

「ぼくは日本。ミヅキは?」

「私はアメリカ。でも、先祖は日本人よ。ねえ、ラジオに見せたいものがあるんだ。その前にいっしょにお昼食べない? ごちそうするよ」


 ラジオが返事をする前に、ミヅキはラジオの手を引っ張って歩き出した。歩道に出て、車を止めると、ラジオは半ば強引に中に押し込まれた。ロックもあわてて中に入った。


「ムーン・ラボ」


 ミヅキが行き先を告げると、車が静かに走り出した。

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