第一話 月の世界へ
バスから次々と人が降りていく。ラジオは立ち止まり、改めて月の景色をながめた。地平線まで広がる岩と砂の世界。その先にあるのは真っ黒な宇宙と豆電球のような星々。
地球のずっと後ろには、さらに小さく見える太陽があった。ほんの数時間前に太陽が大暴れしていたというニュースをバスの中で見たのが信じられない。
「ラジオ、早く行こうよ。最後になっちゃったよ」
ラジオの周りを飛んでいたロックが急かした。ロックは、テニスボールのような形のパーソナルドローンだ。ラジオが小学校にあがる前からずっと一緒にすごしている兄弟のような存在だった。
「うん。マヤちゃんのとこまでどうやって行けばいいんだっけ」
マヤちゃんはラジオのお父さんの妹で、月の太陽光エネルギーシステムを管理しているエンジニアだった。叔母さんと呼ぶと、「私はまだ三十代」と怒るので、マヤちゃんと呼んでいる。
「このまま行けばエレベーターがあるから、それに乗って月面基地の地下五階。ボクからも月に着いたって連絡しておくよ」
「ロック、やっぱり不思議だね。体が軽いよ」
「そりゃ、重力は地球の六分の一だからね。でも基地の中は人工重力があるから地球と変わらないよ」
ラジオはまたペンダントの石を握った。すると、銀色の淡い光がどんどん強くなり、ラジオの握った指の間からあふれ出てきた。
「なに、なにこれ」
光はラジオを包み込むほど大きくなった。光の中は不思議と暖かい。石自体が月に着いたことを喜んでいるかのようだった。
「ラ……オ。……ラジオ」
ラジオはとぎれとぎれに自分を呼ぶ声が聞こえた。「誰なの?」と聞いても、返事はない。
光はすぐに弱くなり、ペンダントの石に返っていくように収まった。ほんの一瞬のことだった。