エピローグ かぐや姫からの贈り物
ロックもミヅキもチャンドラも、誰もラジオがたった今見た光景を見ていなかった。
「でも確かに見たんだ。小さいぼくと、若いころの父さんと、そして母さん。きっとこの石はタイムマシンなんだよ」
チャンドラが静かに首を横に振った。
「君が見たものは本物ではない。セレネの使い方の一つに、記憶を記録するというものがある。君が見たのは、君の母さんの記憶だったんだろう」
「でも、あそこには風も吹いていたし、歩いている人ともぶつかった。本物だった」
「セレネは映像だけではなく、匂いも感覚も全て記録することができるんだ。ただ、あくまで記録。そこに映っている人と関わることも、過去を塗り替えることもできないんだよ」
ラジオはまだチャンドラの言うことを受け入れることはできなかった。自分が母さんの肩に触れたとき、確かに母さんはラジオの方へ振り返り、目が合った。ただ、そのことを誰かに信じてもらえなくても構わない。それはラジオと母さんだけの真実だった。
チャンドラは改めてラジオとロックに頭を下げて謝った。
「われわれは、これからも月でセレネを探し続けていく。それはこの世界を守るためでもある。ただ、君のセレネは君に任せるよ。最後に、君のお母さんの名前を教えてくれないか」
「僕の母さんの名前は、かぐや。月野木かぐや」
帰り際、チャンドラがラジオに握手を求めてきた。チャンドラの厚い手がラジオに何かを託したような気がした。
ミヅキは、ラジオを家まで車で送ってくれた。
「やっぱり月に文明があったんだ。私のあのセレネも、きっとすごい力があるってことだね。私、人生をかけてセレネについて研究することにした」
ミヅキはなぜか誇らしげだった。
それからの数日、ラジオとロックはマヤちゃんに案内されながら月の観光を楽しんだ。何日かに一回はミヅキから誘われて食事にも行ったし、友達やお父さんへのお土産を買いにショッピングモールにも行った。
月の生活にもようやく慣れたころ、ラジオたちが地球に帰る日がやってきた。マヤちゃんとミヅキが月のステーションまで見送りに来てくれた。地球に戻ってからも連絡はとれるけれど、やっぱり寂しくなった。
出発間際、シートベルトを締めると、ラジオはまたペンダントの石を握った。
「母さん、また来るね」
淡い光を放つ石が、母さんのように温かくなった気がした。
【了】